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その4 初代大吉④
え?
大ちゃん?
ん~、とりあえず面倒な人でしたよ。
いっつもね、
下を見てね、
暗い顔をしてブツブツ呟いてた。
私と孫六がね、
見かねて遊びに誘ったけど…
ずっと暗いままだった。
屋台の前を通ってね、
それを食べようという噺になるとね、
私のね、
手首を握っているんですよ。
井戸の底のような暗い顔でね、
【京ちゃん、今日はダメだ】ってね。
【旦那の顔が暗いから今度にしよう】って言うんですよ。
◆
言います?普通。
子供がですよ、
六歳の子供がですよ。
◆
まぁ、
ウチは呉服屋ですからね、
大吉の着物をこしらえますよ。
大吉のお陰で随分と着物の仕事が増えましたよ。
◆
でもね、
私はね、
あの大吉を素っ裸にしてね、
やれ不細工とか、
やれ腹が出ているとか、
やれ足が細いとか、
臭いとか、
さんざん文句を言ってあげてますよ。
そして着物の寸法を計って仕立てるんです。
◆
どうです?
うらやましいでしょ?




