その3 初代大吉③
え?
大吉ですか?
何かね、気がつくとウチの家にいましたよ。
幼なじみですからね。
京ちゃん、孫六、大吉ってね。
ええ、ここいらでは有名ですよ。
でね、
ウチの父親は仕出し屋の店主でしてね、
毎朝弁当を作ってる。
寄席に
歌舞伎に
冠婚葬祭。
そういう所に料理を届ける。
◆
何かね、
全く分かりませんがね、
ウチの父がね、
大吉を側に置いたんですよ。
◆
子供にね、
ダシが出来たら味見をさせるんです。
数年したら、
煮物を煮ながらね、
【ここで味が決まった】とか言ってね、
大吉に味見させるんですよ。
◆
【これが昼くらいに丁度いい塩梅になる】とかね…
大吉の目をね、しっかり見て言うんですよ。
◆
多分ね、
グータラ息子の私が、
店を継いだ時にね、
判断できる人が欲しがったんですかね。
◆
ええ、
大吉の昼の公演には毎日届けてますよ。
◆
店を継いでね、
やっとこさ形になった所で、
父が亡くなったんですよ。
◆
そしてね、葬儀が済んだ数日後にね、
急に厨房に大吉が来て、
弁当を食べた。
◆
いや~ね、
【やい孫六!】ってね、
父親みたいにね、
ボロクソ怒られましたよ。
◆
ええ、
今では笑いのタネになってますよ。
えぇ、
おかげさまで、
ウチは繁盛してますよ。




