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その1 初代大吉①
はいはい、
番頭の宗形です。
え?
あの人は誰だって?
え?
あの瞳の大きい?
落語をしない人?
ああ、
初代大吉さんですか。
染谷大吉さんですな。
そうですな、
落語家というか、
【小噺家】ですかね。
◆
ええ、
古典を覚えるのが嫌なんですって。
思い入れがないからって。
◆
あとね、落語のネタとかは、
一度きいたら噺のオチが分かりますでしょ?
それが嫌なんですって。
◆
だから自分の作ったネタしかしない。
しかも短い小噺をね。
でもね、人は集まる。
大吉のさんは相談されて宣伝する。
その店にはね、
お客が集まりますからね。
◆
えぇ、ほとんどが食い物の噺ですから。
◆
で、
この前ね、
古典の【獅子がしら】をやったんですがね、
もうね【獅子がしら】じゃないんですよ。
獅子がしらを作りかえてね、
【焼き芋】にしてしまってる。
◆
ドッカンドッカン、ウケてましたよ。
◆
いいんじゃないですか?
ああいう人がいても。
大吉の師匠と私はね、
袖でね、
何か分からない物が込み上げてきましたよ。
いるんですよ。
世の中には。
ああいうのが…