その6 姉ちゃんとタケノコ
ねえ、姉ちゃんさ。
何よ。
タケノコってさ。
タケノコ?
そう、タケノコ。
あれってさ、どうしてタケノコなの?
竹の子供でしょ?
え?
急になんだい。
だからタケノコでしょ?
でも、長男か次男か分からないじゃん。
姉ちゃんか、妹かも分からない。
そりゃあ確かにね。
タケノコには性別とかあるの?
いいから、もう寝な。
あんたはホンとトンチを毎日するから困るよ。
明日、お父さんにきいてみよう。
そうね、もう寝な。
◆
姉ちゃんさ、このタケノコって長男?次男かって?
え?
分からないわよそんなこと?
だって、裏山でじいちゃんが取ってきたんだから。
え?
父ちゃんにきいても分からなかった?
じゃあ、じいちゃんにきいてみればいい。
え?
じゃあ、じいちゃんなら知ってるかって?
それは知らないわよ。
じいちゃんはタケノコ取りの名人だから、そこら辺は分かるかもしれないけど。
え?
じいちゃんにきいてくれって?
きいてどうするのよ。
じゃあ、アンタがききなさいよ。
なに?
じいちゃんが怖い?
そんなことないわよ。
じいちゃんはへの字の口をしてるし、眉間にシワが寄ってるけど、別に怒っている訳じゃないわよ。
え?
どうしてもきいて欲しいって?
分かったから、今日はもう寝な。
◆
え?
じいちゃんにきいたかって?
ああ、タケノコね。
ちゃんときいたよ。
アンタがうるさいからね。
立松の次男だってよ。
そう、立松の次男。
立松家の次男だとさ。
え?
昨日のタケノコはうまかったって?
そりゃあそうさ、アタシが皮に包丁を入れて糠で煮てね、
それから刺身のように醤油を付けて食べたろう?
美味しかったろ?
え?
長男はどうしてるかって?
今日は寝な。
明日、おじいちゃんにきいておくから。
◆
え?
昨日の晩の?
タケノコの味噌汁はうまかったって?
そりゃあ、ありがとう。
タケノコの味噌汁が私は一番好きでね。
シャキシャキとしてさ、山の香りに地味、山の全てがここにある。
アタシは死ぬ前にはタケノコの味噌汁とご飯でいいね。
え?
姉ちゃんは死ぬのって?
そりゃあね、いつかは死んでしまうよ。
でもね、人間って、タケノコの味噌汁がうまかったって人生でいいんじゃないかい?
えぇ?
どうして泣くんだい?
え?
姉ちゃんはいなくなるのかいって?
大丈夫だよ。
お姉ちゃんはどこにも行かないよ。
ずっとアンタのそばにいるからね。
ほら、今日は寝な。
◆
でね、私がね、こういう人情噺を持ってくるでしょ?
そしたら皆、今日は八百屋に行くんですよ。
実はね、
あそこの八百屋からね、今月の売り上げが悪いからって、借金があるからってね。
今度、子供も生まれるからってね、
タケノコをたくさん売りたいって頼まれましてね。
ビックリするでしょ?
でも、あっしも落語家ですから、
こうやってタケノコの噺をするんですよ。
子供が生まれるならしょうがねぇってね。
朝にウチに来られて、アタシは急に新作落語を作る訳ですよ。
皆様ね、
数に限りがありますからね。
タケノコを買いに行くなら今ですよ。
ええ、いいですよ。
寄席の最中ですが、私の噺なんてほっといて、タケノコを買いにいくといい。
ほんと、今すぐ買いに行けばいいですよ。
それでは、それでは。
◆
いや~、戻ってきましたたけどね。
寄席に三人ほど残っているってきいてね。
もうビックリですよ。
お客さん達、私の新作が気に入りません?
タケノコを買う気になりませんでした?
そもそもなんですが、起きてます皆さん?
寝てました?
それとも私が例の如く戻ってきて、別の噺をするって読んでました?
くわ~、落語家冥利につきますな。
じゃあ、タケノコの続きをしましょう。
そんなそんなね、拍手なんていいですよ。
皆さん、ホントに困った人達だ。
◆
しっかしね、今日は改装の日なんですよ。
ええ、今晩から明日ね。
明日は寄席がお休みですから、へいへい、畳を入れ換えたり、ええ、幕を差し替えたりするんですよ。
だから、出来るだけ早くお客さんに帰って欲しいんですって。
だから、この【姉ちゃんとタケノコ】を演じた訳なんですがね…
お客さん、もう店じまいだって分かります?