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【長屋小噺】 三分間のメロンソーダ  作者: 長屋ゆう
第一章 ●演者:染谷大吉
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その6 姉ちゃんとタケノコ

ねえ、姉ちゃんさ。


何よ。


タケノコってさ。


タケノコ?


そう、タケノコ。

あれってさ、どうしてタケノコなの?

竹の子供でしょ?


え?

急になんだい。

だからタケノコでしょ?


でも、長男か次男か分からないじゃん。

姉ちゃんか、妹かも分からない。


そりゃあ確かにね。


タケノコには性別とかあるの?


いいから、もう寝な。

あんたはホンとトンチを毎日するから困るよ。


明日、お父さんにきいてみよう。


そうね、もう寝な。



姉ちゃんさ、このタケノコって長男?次男かって?


え?

分からないわよそんなこと?

だって、裏山でじいちゃんが取ってきたんだから。


え?

父ちゃんにきいても分からなかった?


じゃあ、じいちゃんにきいてみればいい。


え?

じゃあ、じいちゃんなら知ってるかって?


それは知らないわよ。

じいちゃんはタケノコ取りの名人だから、そこら辺は分かるかもしれないけど。


え?

じいちゃんにきいてくれって?

きいてどうするのよ。


じゃあ、アンタがききなさいよ。


なに?

じいちゃんが怖い?


そんなことないわよ。

じいちゃんはへの字の口をしてるし、眉間にシワが寄ってるけど、別に怒っている訳じゃないわよ。


え?

どうしてもきいて欲しいって?

分かったから、今日はもう寝な。



え?

じいちゃんにきいたかって?


ああ、タケノコね。

ちゃんときいたよ。


アンタがうるさいからね。


立松の次男だってよ。

そう、立松の次男。


立松家の次男だとさ。


え?

昨日のタケノコはうまかったって?


そりゃあそうさ、アタシが皮に包丁を入れて糠で煮てね、

それから刺身のように醤油を付けて食べたろう?


美味しかったろ?


え?

長男はどうしてるかって?


今日は寝な。

明日、おじいちゃんにきいておくから。



え?

昨日の晩の?

タケノコの味噌汁はうまかったって?

そりゃあ、ありがとう。

タケノコの味噌汁が私は一番好きでね。

シャキシャキとしてさ、山の香りに地味、山の全てがここにある。


アタシは死ぬ前にはタケノコの味噌汁とご飯でいいね。


え?

姉ちゃんは死ぬのって?


そりゃあね、いつかは死んでしまうよ。

でもね、人間って、タケノコの味噌汁がうまかったって人生でいいんじゃないかい?


えぇ?

どうして泣くんだい?


え?

姉ちゃんはいなくなるのかいって?

大丈夫だよ。

お姉ちゃんはどこにも行かないよ。

ずっとアンタのそばにいるからね。


ほら、今日は寝な。



でね、私がね、こういう人情噺を持ってくるでしょ?


そしたら皆、今日は八百屋に行くんですよ。


実はね、

あそこの八百屋からね、今月の売り上げが悪いからって、借金があるからってね。


今度、子供も生まれるからってね、

タケノコをたくさん売りたいって頼まれましてね。


ビックリするでしょ?


でも、あっしも落語家ですから、

こうやってタケノコの噺をするんですよ。


子供が生まれるならしょうがねぇってね。


朝にウチに来られて、アタシは急に新作落語を作る訳ですよ。


皆様ね、

数に限りがありますからね。

タケノコを買いに行くなら今ですよ。


ええ、いいですよ。

寄席の最中ですが、私の噺なんてほっといて、タケノコを買いにいくといい。


ほんと、今すぐ買いに行けばいいですよ。


それでは、それでは。



いや~、戻ってきましたたけどね。

寄席に三人ほど残っているってきいてね。

もうビックリですよ。


お客さん達、私の新作が気に入りません?

タケノコを買う気になりませんでした?


そもそもなんですが、起きてます皆さん?


寝てました?


それとも私が例の如く戻ってきて、別の噺をするって読んでました?


くわ~、落語家冥利につきますな。


じゃあ、タケノコの続きをしましょう。


そんなそんなね、拍手なんていいですよ。


皆さん、ホントに困った人達だ。



しっかしね、今日は改装の日なんですよ。


ええ、今晩から明日ね。

明日は寄席がお休みですから、へいへい、畳を入れ換えたり、ええ、幕を差し替えたりするんですよ。


だから、出来るだけ早くお客さんに帰って欲しいんですって。


だから、この【姉ちゃんとタケノコ】を演じた訳なんですがね…




お客さん、もう店じまいだって分かります?




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