その5 白煎餅と婆さん
こうね、白い煎餅ってのはオツなもんですな。
ええ、そこの白川の煎餅ですよ。
あそこの胡麻煎餅もいいが、
やっぱり煎餅は白に限る。
煎餅かめず
茶ばかりすすり
すすり泣く泣く法隆寺ってね。
いやね、
婆さんがね、
もう年だから煎餅を噛めなくなったってね、
気落ちしてるんですよ。
そしたらね、
あそこの白川の旦那がね、
茶碗に割った白煎餅を入れてね、
湯をかけてね、
醤油をひとまわし。
食べてみたら美味かったってね、
婆さんが嬉しそうに話すんですよ。
食べてみたらね、
いや~、
こういう味もあるもんかと驚きましたよ。
こう、懐かしい味というかね、
夕方の帰り道のような、
何とも表現しようのない郷愁というか。
◆
いや~、
いつかこういう小噺が出来たらいいですな。
目からウロコな小噺をね。
◆
そう思ってた矢先にね、
この間、
驚きましたよ。
妻の目からウロコが落ちたんですよ。
ええ。
分かります?
◆
残念でしたね、
コンタクトレンズじゃありませんよ。
◆
妻がね、本気で真鯛をおろしてるんですよ…
◆
もうね、
妻の顔にね、
ウロコが付きましてね。
ええ、もうね、それをぬぐう背中が怖い怖い。
◆
いつか私は刺されますよ。
あの出刃包丁でね…
◆
あのね皆さん、
今ここで泣いてもいいですか?




