その2 酒に板わさ
こうね、目の前をね、
馬が駆けて行くわけですよ。
タッタカ、タッタカってね。
乗っているのはお侍さんですよ。
そう、あれは多村家のね、お武家さんの息子さんでしたよ。
急いでいるみたいでね。
どこかに向かって行くんですよ。
アッシはね、それを見送りながら居酒屋のね、のれんを潜るんですよ。
えぇ、駒田屋ですよ。
それからね。
板わさでね、日本酒を飲むんですよ。
あそこの板わさは自家製で、こだわってますからね。
美味いですよ。
でね、ふと思ったんですよ。
あの息子さん、
ふんどし一丁だったなあって。
ビックリしますでしょ?
私もね、今さらながらビックリですよ。
何があったんだって?
理由をききたくて、
追いかけようかと思いましたよ。
馬に乗っていたから諦めましたけどね。
ああいうのを、
いっちょまえ【一丁前】って言うんですかね。
でも、一丁前って【一人前】って意味でしょ?
だからね、一杯飲みながら…
あの息子さんも、一人前になったんだなぁって思う事にしましたよ。
◆
その後ね、
そこで働く駒田屋の息子さんにね、
慣れてきたねって、板についてきたねって。
言ったんですよ。
でも、ふと思うんですよ。
カマボコは板から離れてしまってる。
もう板には付いていない…
こんな風にね、少し酔いながらね、
板わさにね、ワサビに醤油、
それでチビチビ食うんですよ。
実にオツなものですよ。
◆
いやぁね、
駒田屋に相談されましてね。
ええ、カマボコの宣伝をですよ。
でね、噺にしようとしたら嫌に難しいじゃないですか。
白旗ですよコレは。
まるで駒田屋のカマボコのようだ。
◆
この噺を寄席でしたらね、
駒田屋のカマボコは厚くなったんですよ。
◆
分かります?