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【長屋小噺】 三分間のメロンソーダ  作者: 長屋ゆう
第五章 ●演者:染谷大吉
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茶息④

え?

なんだい奥さん。


え?

お茶を買って、あたしの噺を思い出しても、どこがおかしいか分からなかったですって?


へえへえ、そりゃあそうですよ。


奥さんに売ったのはお茶代だけでしてね、噺の駄賃は頂いていねえ。


そうでしょ?


この次の噺をききたけりゃあ、ほらそこ、漬け物屋があるでしょ?


あそこで噺の続きががありますよ。



え?

噺の続きをききにきた?


あそこの茶屋のご主人に?


続きはウチできけって?


あ~それは、炊き込みご飯の噺ですかい?


あ~、やっぱりそうかい。


こうね、奥さん。

世の中ね、どうでもいいことの集合体なんですよ、奥さん。


やれ不景気だとか、貧乏とか金持ちとかね、どうでもいいんですよ。


だから、炊き込みご飯が嫌いでもいいじゃないですか。


嫌いなんだから仕方がない。


そういう噺をする度にね、うちに帰って、美味い茶をすする。

そして、大きく息をはき出したら、魂が抜けるでしょ。

【茶息】っていうんですよアレは。


ちなみに私が決めたんですよ、【茶息】って。

茶の息。

これまでそんな言葉がなかったんですから。


コレはとんでもないことですよ。

あの利休さんでも、【茶息】って言葉を生み出せなかったんですから。


私から奥さんに、この言葉を伝える訳ですよ。


ため息とは違いますよ。ため息ってのはは困ってね、うなだれた時にする息ですから。


この噺はね。

こう、茶が美味ければそれでいいって噺なんですよ。


晩飯を食ってね、落ち着いて、一息ついたら茶をすする。

今日も色々とあったが、やっと落ち着いたなって。

安堵するんですよ。


それがお茶。

それを売るのがお茶屋ですよ。


考えたことあります?

なぜ、お茶を売るのかって。

沢山ある商売の中で、どうしてお茶を売るのかって。


不思議でしょ?

魚を売ってもいいし、乾物屋を売ってもいい、野菜だって売ってもいい。


それなのに、なぜお茶を売るのかって。

お茶屋には【茶息】がある。

今日も無事に生きられたって茶息がね。


いつもの分厚い湯飲みに、茶を注いで、それを両手でね、大事に大事に持って、こう、口元に運んで、熱ければふうふう吹いて、茶をすする。


そして、あたたかい茶を飲んで、ホッとして茶息をはく。


でね、奥さん、ここで大事なのがウチの沢庵なんですよ。


ふたきれ、みきれね、こう、小皿に盛ってね、盛ってっていっても、盛るほどの量じゃない。


で、この沢庵を指でつまんでね、ポリポリ噛むんですよ。

そして茶をすする。

そして茶息をする。 


どうです?

どうします?


沢庵の余韻の後に、茶の香気。

甘く漬け込んだカブ漬けでもいい。


漬け物つまんで、茶をすする。


しみじみとしますよね。


え?

何ですか奥さん。


ウチの沢庵を買うですって?


コレは困ったね。

ウチの漬け物を食べて、

茶息を出したい訳だね奥さん。


しょうがないねぇ、奥さんも。





それでは、オチは皆さんでお考え下さい。




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