茶息③
ではでは、
ここで【茶息】をひとつ。
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皆さんね、
完全犯罪ってありますでしょ?
犯人が探偵から逃げ切るんですよ。
証拠を一切残さず、名探偵から逃げ切るんです。
それが完全犯罪。
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じゃあ、落語で完全犯罪はできるんでしょうかね?
◆
それでは、やってみましょうか…
◆
いやぁね、奥さん。
好き嫌いってありますでしょ?
あれには随分と困りもんですよね。
本人も、困ってしまう。
アッシは味のついてあるご飯ってのが大嫌いでしてね、キノコご飯に、タコ飯、釜飯、ああいうのがどうも困ってしまうんですよ。
ご飯にダシが染みてるでしょ?
あれがどーもいけねえ。
そもそも白米に何で味がついているんだって言いてえ。
なぜ混ぜたって、なぜダシや醤油を入れて米を炊くのかいって。
なぜお米さんを白く染めるんだってね。
いやいや、分かりますよ。
そういう料理なんですから。
私もどうして嫌いなのか分かりませんよ。
分かりませんけど、どうしても口に入れたとたん、口の中が困ってしまうんですよ。
こう、ね、急に口の中にいろんな味がしやがる。
ちょっと待ってって…
思いません?
昨日までは味噌汁すすってさ、沢庵食べて、そして米を食ってたのにさ。
で、今日はどうだい?
キノコご飯?
米を食べたら、ダシやら、醤油やら、キノコやらがね…
そういうのが口の中に一気に来るんですよ。
こっちはビックリしちゃいますよね。
そいでもって白飯がないもんだから、こう、口直しも出来ねえでしょ?
こんな時にお茶があればいいんでしょうけどね、お茶もないんですよ。
何を食っても、どう噛んでも、ずっと味がするんですよ。
いや~お茶が飲みたいね~。
えっ?なんだい?
時間だって?
何の時間だい?
え?
これから噺をしなきゃならないって?
どうしてだい?
あんたは落語家でしょって?
ああ、そりゃあ落語家だよ。
ああ、そうだ、俺は落語家だよ。
だから、これから噺をする時間だって?
誰が決めたんだいそれは。
急にビックリするよ。
こうやって、しみじみと茶をすすってさ、ため息ついてさ、ほっとしている時に何でえ、困っちゃうよ。
しかし、今日のお茶はやけに美味いね。
分かった分かった、今出るからさ。
このお茶を持っていってもいいかい?
え、ダメ?
何で。
お茶を自分で持っていく落語家はいないって?
そいつは誰が決めたんだい?
いやいや、いいからいいから。
私は喉が乾くから、これをもう一杯入れてもらって持っていくよ。
寄席の最中に私が咳き込んでも困るだろう?
しっかし、このお茶は美味いね~
でね、この噺にでてるくるお茶がこれさ、奥さん。
でね、奥さん、ちょっとこのお茶を買ってね、
この噺もウチに持って帰って、お茶をすすりながら考えてみてくだい。
どこかおかしくありませんか?