茶息②
そもそもこの噺の始まりはね、
寄席にね、
遅刻したんですよ。
ただの遅刻じゃなくて大遅刻。
目が覚めたて、空を見たらね、どうやら昼が過ぎてるらしい。
でね、寄席に向かうんですよ。
午後の部がありますからね。
で、歩きながら思うんですよ。
もしかして、宮本武蔵は寝過ごしたんじゃないのかってね?
いやね、佐々木小次郎と巌流島で戦いましたでしょ?
遅刻して、あげくに二刀流ではなく、船のイカダで勝ったって噺。
ええ。
あれって嘘ですよね。
寄席に着いてね、
笑って済ましてもらおうと思ってね。
師匠の前でこう言ったんですよ。
【佐々木小次郎、敗れたり!】ってね。
皆、ビックリしてね、ポカーンとした顔をしてるんですよ。
ええ、
頭にハチマキしてね、
イカダを借りて寄席に行きましたからね。
◆
まぁ、アッシもまだ若かったですからね。
◆
え?
それからどうなったって?
それからね、
誰も何も言わないんですよ。
◆
午後の寄席か終わってね。
◆
ふと思ったんですよ。
あれ?
今日は休みだったよなって。
◆
というか、落語家が風邪をひきましてね、一人欠員だったんですね。
これも私の演出なのかと番頭は思ったようでしてね。
ええ、その日の落語はウケにウケましてね。
番頭がね、
落語が終わった時にね、珍しく饅頭をくれたんですよ。
◆
後でね、
師匠にね、
【何かすみませんでした】って言ったらね。
師匠もね、
【驚いてしまってね。何がしたいのか分からない。上手く返せなくてすまなかった】ってね。
◆
もうね、グッダグダですよ。
◆
皆さん笑いますけどね…
もうね、
美味いのか、
不味いのか、
そもそも味すら分からない。
◆
でね、
風邪をひいた落語家にもね、
後日ね、
【兄さんすみませんでした】ってね、
泣くんてすよ。
泣きたいのは私だよ。
◆
それから何日か経って師匠に呼び出されましてね。
こう言われたんですよ。
◆
あの日の【獅子がしら】良かったよ。
よく分からないけどウケてた。
あの日のアンタは、
よく分からなかった。
だからね、
こっそり舞台の袖でね、
アンタを見てたってね。
◆
よく分からなかったけど、
よく笑うお客さんとアンタを見てたらね…
なぜか枯れた瞳から、涙がこぼれ落ちたってね。
◆
それから師匠にね…言われたんですよ。
【真打ち…やるかい?】ってね。