その3 大吉と大福
どうして私が【噺家】やね、
【相談屋】になったかって?
よく外でね、きかれるんですよ。
ええ。
う~ん。
困った噺なんですけどね。
気になります?
いや~、私は頭が良くてね、ここいらの長屋では皆、将来はお医者さんになるって噂だったんですよ。
それでも噺家になった…
◆
大吉、大福を買ってきておくれ。
なんだい母ちゃん。
え?
大福?
そうだよ。
父ちゃんが腹が痛いからって、これから有名な先生が来るんだよ。
え?
ウチはお金がないから、
ないから?
美味い大福を先生に食べてもらって納得してもらう?
じゃあ、買ってくるよ母ちゃん。
◆
どうしたんだい大吉。
なんだいこの紙切れは。
え?
大吉?
おみくじ?
馬鹿だねえこの子は。
アタシは大福を買ってこいって言ったんだよ大吉。
おみくじを買ってこいとは言っていないよ。
え?
大吉を買ってきた?
いやいや、大吉ってのはアンタの名前だろ?
もういいよ。
とりあえず、残った銭を返しておくれ。
おみくじよりも、あそこの大福は高いんだから。
え?
なんだって?
何々?
大吉はめったに出ないから、それ相応の値段がした?
いいよ、いいよ、分かったよ。
時間もない。
じゃあ、このおみくじを先生に渡すしかないじゃないか。
先生も大吉だと分かったら、少しは納得してくれるだろうさ。
◆
こんな感じですよ。
私は普通のおみくじ買ったんですよ。
高い大福を買わずに、残りのお金を懐にしまったんですよ。
そして、後で母ちゃんの財布に戻した。
凄いでしょ?
これぞ【完全犯罪】
息子の大吉は馬鹿だったんだって、医者に大吉のおみくじを渡しておしまい。
親孝行でしょ?私は。
へっへ~。
ちなみに、後でお医者さんがおみくじ開いたらね、小吉だったってウチに来たんですよ。
そしたらね、母親が言うんですよ。
ウチの息子は大吉だってね。
◆
そう、ここが笑い所。
◆
つまりね、最後まで追跡を逃れる口上、つまりは【言い訳】を用意してある。
◆
これはね、お金がないときに、母ちゃんにこれを演じようって作った噺なんですよ。
母ちゃんにね、
馬鹿な母親と、馬鹿な息子をそれぞれ演じようって言ったんですよ。
私って凄いでしょ?
へっへっへ~。
その日からね~
私はね。
誰に頼まれるでもなく、噺家になったんですよ…