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【長屋小噺】 三分間のメロンソーダ  作者: 長屋ゆう
第三章 ●演者:染谷大吉
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その10 マテ貝と兄さん

兄がね、

海を見に行こうって言うんですよ。

約束だってね。


ただそれだけ。


海を見てどうなるんだってね。

そんなのは知らないし、どうでもいい。


海を見ながらね、

たわいもない会話をしてね、

時々、

互いの横顔を見るんですよ。


兄弟ってそんなものですよ。



子供の頃、ウチの兄はね、

砂浜に行くとね、塩をひとつまみね置くんですよ。


マテ貝って知ってます?


こう、筒のような貝でしてね。

砂浜に小さな穴がある。

でね、巣穴に塩を入れるとね、口だか足か分かりませんが、

ニュッと触覚のような物が出てくるんですよ。


それをつまんでね、貝を引き抜くんですよ。


子供の頃にね、よく兄と捕りましたよ。


二人ではしゃぎながらね。


汁にしたり、焼いたりして…

美味しかったなぁ。



いやぁね、

さっき、そこの魚屋でマテ貝が売ってましてね。

亡き兄を思い出して、込み上げてきましてね。


私と顔立ちは似てますがね、

兄はね、右目の上に大きなホクロがあるんですよ。


すみません。

今日はこれにて。



楽屋にて。



おいおい、待て待て、俺は生きてるぞ。


いや~

魚屋からね、

今日はマテ貝を売りたいって相談を受けたけど、何にも閃かない。

寄席でやろうにもオチすらない。


どうしようもないでしょ、兄さん。


あとね、

この噺の後に兄さんの顔を見たらね、

みんなビックリしますよ。

あと、私に騙されたってね。


兄さんは役者だ。

役者は常に顔を売り続けないと。




さて、魚屋はともかく、兄さんからは何両頂こうかな~。




とりあえず、二人で魚屋に行きますか。



寄席で落語は終わらないって新作ですからね。





マテ貝買ってさ、

皆の驚いた顔を見てさ、

それをツマミに飲もうよ。




ねぇ、兄ちゃん。




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