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その9 熊と爺さん
この前ね、
ウチの父親がね、
ウチの爺さんが帰って来ましてね。
ビックリしましたよ。
前にね、
畑を荒らされたから、
熊退治に行くって言って、
行方知れずなんですから。
でね、手には鮭を持ってるんですよ。
立派な鮭を。
アンタさ、山に行ったんじゃないのかよって、
思いません?
私も思わず笑いましたよ。
もうね、困りますよね。
◆
それからね、爺さんはずっと寝てましてね。
でね、急に起きると自慢話ですよ。
◆
熊とね意気投合したんですって。
でね、
ずっと二人で熊の穴蔵でね、酒を飲んでたんですって。
そろそろ帰ると言ったら、熊がね、鮭をくれたんてすって。
ボケてるなって、
痴ほう症ですよ、アレは。
でもね、昨日ね、ウチの家の前に鮭が置いてあるんですよね。
しっかりと木箱に入っていてね。
◆
色々と諦めましたよ。
ええ、ウチの爺さんを見たらね、
コイツは嘘つきだって思って下さいね。
とんでもねぇ野郎だって。
◆
え?
アンタよりはマシだって?




