その8 キツネうどんと厄年と
寄席の前にね、
どうも小腹が空きましてね。
あそこのね、うどん屋に行ったんですよ。
うどんをすすってたらね、
うどん屋の店主がね、
ウチにも名物を考えって下さいってね。
蕎麦屋が随分と繁盛してるってね。
そう言うんですよ。
アッシは断りましたよ。
ピシッとね。
他にやる事があるだろうってね。
今日は店を閉めて、神社に行けってね、厄払いさせてきましたよ。
店主は四十二、本厄ですからね。
優しいでしょ?
泣けてきますでしょ?
◆
でもね、その日アッシは家で寝てたんですよ。
私はね、あそこでは素うどんしか食べませんよ。
薬味も何も乗せないの。
蕎麦と違って、うどんには何も乗せないのが私は一番好きですから。
でね、その日に限って、私はキツネうどんを頼んだんですって。
キツネさんが化けてたんですかね?
優しいですね。
キツネさん。
あそこ店のキツネうどんは優しいですね。
◆
楽屋にて。
◆
え?
どうしてこの噺をしたかって?
正之助、分からないのかい?
いいかい?
年明けの寄席は他の落語家達で充分にウケていただろ?
新年に自慢のネタを持ってきてた。
落語の出来が良すぎてね、
ウケにウケてた。
ただね、皆、笑いすぎなんだよ。
最後にね、ちょっと落ち着かなくてはならないんだ。
寝正月
おせちに
お餅に
江戸落語
◆
新年はね、早々に構えないといけないんだよ。
◆
分かるかい?
こういう噺も時々しないとね。
お客は厄年を忘れるからね。
嫌だろ?
厄年に不幸が来たら。
ウドン屋の店主の父親はね、
厄年に、
ずいぶん辛い病にかかったからね。
それにね、
寄席に来たお客もね、
身内に厄年がいたら、
皆、お払いを勧めるだろうさ。
◆
納得しました?
それじゃあ、神主さん、うどん屋さん。
相談料を。