その7 竜宮城と師匠
いや~、
この間、竜宮城に行きましてね。
こうね、魚がたくさんいるんですよ。
マグロにイカにタコにサワラ。
料理も美味くてね~
シャリの上に魚が乗ってるんですよ。
間にワサビをかましてたりしましてね。
醤油で頂くんですよこれが。
酒も進んで、
いや~贅沢な時間でしたよ。
でね、勘定の時になって銭を渡したらね。
店主が黒い箱を開けようとするんですよ。
ビックリしますでしょ?
あれは玉手箱だって。
おつり?
いやいや、いらねえから、その箱は開けるんじゃないよって、ウチの師匠が注意した。
だって、あれは玉手箱だよ。
漆の箱でね、螺鈿の細工がしてあって、おまけに紐で結わえてあるってね。
あれは玉手箱だよってね。
店主が老人になっちまうよってね。
でね、師匠が開けるって言うんですよ。
ニヤニヤしながらね。
あんたが開ければ老けるが、アタシくらい老ければ、一周回って子供になるってね。
で、師匠が箱を開けた。
開けたらね。
バブー、バブーって赤子のようにね、
バブーしか言わない。
支払う予定の銭を持って、四つん這いで出口に行くんですよ…
◆
ズルいですよね。
結局、銭を支払ったのは私ですから。
あんな人にはなりたくないね。
師匠はそれからね、どっかに行っちまった。
探しても見つからない。
◆
でね、
その日の夜更けにね、火消しの旦那がウチに来ましてね。
ウチの師匠が道ばたで寝ているから、荷車で運んできたって言うんですよ。
もうね、
タコですよ。タコ。
師匠とはいえタコ野郎ですよ。
ポカポカ殴ってしまいたいですよ。
麺棒で殴ってやろうかと思いましたがね、さすがにそれはできない。
目に入ったのが大根ですよ、
いや~
タコを茹でる前に大根で叩くと実に柔らかくなるんですな。
師匠もすっかり反省して、あんな事はしなくなりましたよ。
◆
どうです?
ウチの煮ダコ、柔らかいでしょ?




