その6 トロロに白雪②
えっ?
爺さんが元気になった?
冬に先生がトロロ蕎麦の噺をするから蕎麦が売れに売れて?
売れて?
孫に小遣いを渡せるから喜んでるって?
そりやぁ、良かった。
私はあの噺をする見返りにね、
大晦日に、タダで汁蕎麦を頂けますからね。
おまけに息子のアンタが蕎麦を打ってるって宣伝もしてる。
え?
名物が欲しい?
爺さんの屋台のような?
う~ん。
困ったね。
◆
じゃあ、
白雪蕎麦ってのはどうだい?
◆
へぇ、ここがあのトロロ蕎麦屋の息子の店かい。
なあ、店主。
ここに白雪蕎麦ってのがあるってきいたんだが。
え?
あるって?
爺さんの屋台は今日はお休みだろ?
今日はどうも冷えてね。
どうしても蕎麦を食いたいから、息子の店に来たのさ。
◆
お~来たね~
なんだいコレは。
ハンペンじゃないか。
へ~考えたね。
白雪とはハンペンかね。
白身魚のすり身かね。
しかも焼いてあるのかい?
焼き色が付いてるね。
でも、白雪なら、
焼かない方が良くないかい?
え?
爺さんが?
雪の上で屋台を引いてる?
雪の上に父親の足跡がある?
へ~
確かにそうだね。
ハンペンの下には、土に見立てた蕎麦があるね。
いいねぇ、父親の背中かい。
泣けてくるね~
いいね、
気に入った。
また来るよ。
◆
これでどうだい?
じゃあ、今度、この噺をしておくよ。
ご隠居にも宜しくね。
◆
おっと、いけねぇ。
これから妻と用事がある。
じゃあ、この噺をする度に、ココに来るからね。
いつもより客は大入りだろうから、二日後くらいにね。
もちろん、宣伝料は頂くよ。
アタシは海老天蕎麦がいいね。
車エビの。
◆
え?
海老天蕎麦は高いって?
なんで白雪蕎麦じゃなくて海老天蕎麦かって?
寒いからね。
布団の中で海老のように丸まって考えていたからね。
もちろん海老天は二本だよ。
◆
え?
分からないかい?
◆
ご隠居とアンタから、一本ずつ取ったんだからね。
そりやぁ、二本だよ。
へっへっへ~。