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その4 サンマに念仏
なぁ、魚屋の店主よ。
どうもこうも、いい香りがするじゃないか。
焼いた秋刀魚を軒先で売るとはね。
で?
どうしてこんなに美味そうな匂いがするんでい?
え?
そりゃあ旬だし、脂も乗ってる?
今が一番美味いって?
それは秋刀魚にきいたのかい?
え?
きいていない?
じゃあ、アタシがね、これから持ち帰ってきいておくよ。
丁度、一匹売れ残ってるしね。
お代?
いやいや、いいんだよ。
明日、この秋刀魚さんは返すから。
今晩は秋刀魚さんとお話をしておくよ。
え?
焼かれてるし、
死んでるって?
大丈夫だよ。
秋刀魚さんの声はちゃ~んと私にはきこえるからね。
おや、そこの刺身は美味そうだね。
そちらのお代はしっかりと払うよ。
じゃあ、明日、また来るよ。
◆
今日も来たよ。
え?
秋刀魚は何て言ったって?
あぁ、墓に埋めてくれだとよ。
あっしはね、仕方なく墓に埋めて、線香を焚いてね、こう手を合わせた。
しっかり成仏しなすったよ。
あぁ、大往生さ。
◆
で?
今日は何が売れ残ってるんだい?