その2 タコの刺身
留吉さん、
今日の晩酌は【タコ】のお刺身です。
私にとってね、
タコはお正月の刺身なんですよ。
留吉さん、お正月には何を食べます?
え?
おせち?
へ~
ウチは貧乏だから…
お母さんの【煮しめ】ですね。
それでおしまい…
そしてタコの刺身なんですよね。
◆
嫌ですよ、
私がお酒を注ぎますから…
◆
だからね、
こうね、
タコを食べるとお正月を感じるんです。
あの赤い皮、
弾力のある歯応え、
頭も食べられるし、
吸盤はコリコリ、
醤油がなくても充分美味しいんです。
◆
ね?
美味しいでしょ?
◆
でね、
この噺には落ちがあるんです。
分かります?
◆
え?
◆
閃きません?
◆
さては酔ってきましたね。
◆
落ちはですね…
◆
タコは落ちてはいないんですよ…
◆
だってね…
タコ壺の中に【入って】釣らてくるんですから…
◆
はい!
こういう感じでね、
タコの刺身を出しながら、
ニコニコ笑いながらね、
男に酒を注ぎながら話すんです。
時々ね…
男の肩に手を触れながらね…
◆
タコの刺身と酒を用意して…
好いた男にね…
この噺をしてください。
◆
ええ…
男はね…
娘さんの家にね、
必ずまた来ますから…
◆
これから将来の鬼嫁にね…
茹でられるとも知らずにね…




