【寄りし日】②
父はね、
光陰は【自分は才能がない】って良く言いますけどね…
違うんですよ。
初代よりも十三代よりも…
世界の誰よりも才能がある物が…
一個あるんですよ。
◆
朝ね、
父は大抵ね、
納豆を丼で食べるんです…
いや~美味そうに食べるんですよ。
◆
父の食べ方はね…
大粒の納豆に、
刻んだネギ、
それに醤油。
納豆のタレは使いません。
でね、
それを混ぜて、
ご飯の上に乗せてね、
全部かき混ぜてしまうんですよ。
そしてかっこむ。
◆
でね、
金曜や土曜はマークやリサがウチに泊まるんですよ。
でね、
最初の二人の朝食は食パンにコーヒーに
ベーコンエッグですよ。
◆
でもね、
納豆飯をかっこんでる父を見てね、
リサが言うんですよ。
【それが食べたい】ってね。
小学三年生のアメリカ人の女の子がですよ。
◆
笑えますよね。
◆
父は困った顔をしましてね…
【母さん、茶碗にお米さんをくれ】ってね。
【母さん、スプーンだ】ってね、
父は小さな茶碗に納豆飯を作るんですよ。
それをリサに渡すんですよ。
そしたらリサが首を横に振ってね、
父親の丼を指差してね…
【そっちが食べたい】って【父の丼】を指差すんですよ。
◆
笑えますよね。
◆
あの日、
光陰はリサに丼を奪われ、
箸も奪われ、
リサはね…
慣れない箸で、
納豆飯を豪快にかっこむんですよ。
父のようにね…
◆
父はね、
困った顔で、
小さな茶碗の納豆飯をスプーンで食べてましたよ。
◆
でもね、
姉もね、嬉しそうに笑ってて、
私もね、思わず笑ってしまったんですよ。
◆
ええ…
姉も…
私も…
ええ、
子供の頃、
同じ事をしてましたから…