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【長屋小噺】 三分間のメロンソーダ  作者: 長屋ゆう
◇第二部 第六章
107/172

前置き 【纏い三千】

第二部最後の噺ですな…


え?

あんたは誰かって?

私は番頭の宗形と申します。



ええとね、

ずっとね、

あの親子を見てましたよ。

初代大吉の時代から、

私の一族はずっと番頭でしたからね。



ええ、

第十三代目、

戦後の大吉、

【染谷宇刻】が毎回、楽屋で震えていたのは知ってますよ。


あんなに人を笑わせるのにね、

いつもニコニコしていたのにね、

何をそんなに震えているんだ?ってね。


子供の頃、

はじめて見たときは【がく然】としましたよ。


ええ、

私みたいな凡人には分かりませんよ。


それほど衝撃的だった。



お孫さんの京夜さん、

十五代目はね、

【ありし日】をやった。


あの日、

真打ちをやる日にね、

全然ね、楽屋から出て来ないんですよ。


慌てて楽屋に迎えに行ったらね、

突っ立ったままね、

天井を見つめているんです。


ボーッとね…


口を開けたまま、

空を見つめているんですよ。


目の焦点が合っていないんですよ…


ええ、

ゾッとしましたよ。


ふとね…

涙が落ちたんですよ、

お孫さんの瞳からね。


そして言ったんですよ…




【宗形さん…】


【おじいと…おばあが見てる…】


【僕…十五代目に…なってくるよ…】ってね。




でね…

気がついたら、

十五代目は、

【ありし日】と【過ぎし日】を演じていたんですよ。


私はね…

いつの間にか舞台袖にいたんですよ。

時間がね…

記憶がね…

飛んでいるんです…

気がついたら舞台袖で泣いていた…



でね、

その父親はどうだったと思います?

十四代目ですね。

そう【光陰】さんです。


あのね…


楽屋でね、

普段ね、

あんな怖い顔をしているのにね、

今日は静かな笑顔でね、

唄を歌って舞いをしてるんですよ。


分かります?

こうね…

扇子一つで舞っているんですよ。

綺麗でしたよ。



冬に躍りし狐が一人

四方八方かき分けて

光陰どこかと狙い待つ


火縄をつけて狙い待つ


白に舞い

行きて過ぎ

何処にいやがる化け狐


狐め狐め見つけたぞ

九尾の狐がここにおる


しかし見てみろあの狐

尻尾が十四ありやがる



そしてね、

ふと私を見てね、

優しい顔でね、

あんな怖い顔の人がね…

あんなに優しい顔で、こう言ったんですよ。



宗形さん、いつもありがとう。

これからね…

十四代目に…

なってくるよ…



相変わらずね、

【真打ちになる日】は歴代そろって声をかけられませんよ。



あの一族は時を越える…



ただね、

本当に【その日】はゾクゾクするんです。

心の底からね、未来を感じる。



これからね、

人類が…

人が…

見たこともない…

きいたことがない…

噺がはじまるんですから…



じゃあ天才…

宇刻さんの噺はって?



【真打ち噺】ではありませんがね、

【代表作】です。



【纏い三千】





ええ…

【まといさんぜん】です。





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