その1 爪楊枝①
さっきのイカの噺はね、
入りの部分ですから。
◆
さてイカといえば…
近所の娘さんがウチに来ましてね。
ええ、ちょっと小生意気そうな娘さんですよ。
娘さんといっても、子供じゃありませんよ。
アッシより三つ下らしいです。
それはさておき…
◆
え?
何ですかい?
へいへい、ウチは相談屋ですよ。
そう、相談屋。
世の中の分からねえ事を相談して頂き、
解決するって商いです。
だから相談しにきた?
困りましたね。
で?
あっしに何を相談したいんでやんすか?
何々?
どうして爪楊枝をくわえてるかって?
誰が?
外国の?
映画で見たですって?
飲み屋の?
バーの主人が爪楊枝を口にくわえてるって?
はは~ん、分かりましたよ。
何で西洋の酒場で、日本の爪楊枝なのかって噺でしょ?
はは~コレはコレは困ったもんだ。
ちょっと困りますね。
目の付け所が違いますね。
いや~流石だ。
そんな鋭い観察力で見ているなんてね。
じゃあ、どうします?
解決には時間がかかるような噺ですが…
いやいや、この難題を今すぐ解いてほしいって?
いや~、困りもんだね。
いや~困った。
ちょっと左手を頬に当ててもいいですかい?
ん~、私はね、困ったら左手を左の頬に当てるんですよ。
困ったね~って。
考える人とか、そんな感じでね。
ん~じゃあ、どんなシーンした?
その時は。
何々?
酒場で、客がピーナッツをかじりなから、酒を飲んでいる。
酒は?
ビール?
ちびちびとピーナッツをかじっていた?
で?
店主は爪楊枝をくわえている。
時々、爪楊枝を上下に動かし?
動かし?
爪楊枝を左から右手に持ちかえて?
持ちかえて?
右にくわえる。
右にですか、娘さん。
右に?
くわ~、そいつは困ったもんだね。
それから?
ずっと楊枝をくわえたまま?
ずっと、苦い顔をしている?
それは本当に困ったもんだ。
実はね、娘さん。
私も前から爪楊枝については、だいぶ悩まされてきたんですよ。
相談屋を商いとしてますからね、一番困るのが爪楊枝なんですよね、私からすると。
どうも、この爪楊枝の感覚が難しい。
私はね、毎日、寝る前にね、天井を見つめて、見つめてですね、爪楊枝についてあれこれ考えているんですよ。
◆
あっ、ちょっと娘さん、今日はもう店じまいだ。
これから妻と用事がある。