壬生浪士組
ー生きたいと望んではいけないー
嵐山、渡月橋。
「いつでも帰って来ていいからな」俺が旅に出るため嵐山を出る前、ぬらりひょんこと、おじい様は笑顔を
浮かべながらそう言った。俺は16で此処を出ると決めていた。ある罪を償う為に…。
おじいさまを見ると、心配を顔に滲ませていた。俺が死なないかって。まあ、此の人たちの前では死にたく
ないからそんなことはしない。本当は今すぐにでもこの世から去りたいけど…。
「伊吹ちゃん、危ないことには首を突っ込まないことよ。それと、旅に出てからすぐに死んじゃだめよ?」
雪女の雪さんが何度も同じようなことを言ってくる。鵺さんも。
「いざという時には俺を呼べ」ん?いや、鵺さん…酒呑童子いるから!すると、二人は「おい、酒呑童子。
伊吹に何かあったら例えお前でも容赦しないぞ」「はっ、あるわけ無いだろ。馬鹿か?」睨み合わないで
くださいよ。「って言うか、何も起こらないし!」この人達、どれだけ俺が危険な目に合うと思ってんだよ…。
もう危なくはない、あの頃とはもう違う。弱くない。「俺はもう子供じゃないんですよ」すると、
おじいさまは微笑んだ。「親にとっては子供は子供のままだ。心配するのは親の役目だろう?」
その言葉は俺の心に響いた。
「…そうですね、酒呑童子」呼ぶと酒呑童子は鵺さんを一瞥して、こっちに来た。「じゃあ、行ってきます」
おじいさまは手を振った。「行ってらっしゃい」俺の背中を押すように風が優しく吹いていた。
それから、五年が経った…。
1863年
京。桜の咲き誇る季節、俺は懐かしい故郷へ戻って来た。「いい香りがする」酒呑童子が桜の匂いを嗅いで
いる。元々、嗅覚に優れていた。そして、昔からの鬼特有の赤い髪が目立って、右目が眼帯なのも変わって
いない。どうして右目が眼帯なのか知る人は少ない。その時、お腹が鳴った。「ど、何処か美味しい食べ物
屋探そうか」そう歩いて周りからは酒呑童子が気づかれないように歩いた。「伊吹、視線を感じる」
酒呑童子が小声で言ってきた。「うん。」前を見ると、武士集団が歩いてきた。
多分あんな大勢で歩いてるから目立つんだろうな。視線も彼らに向けられていた。「あー…酒呑童子、どう
する?」聞くと、酒呑童子は「見なかった、それでいい」そうは言っても俺、道のど真ん中にいるから
鉢合わせしちゃうな。「おい、そこのお前。邪魔だ」やばい…。「しゅ、朱里!」咄嗟に偽名を言った。
鬼って気づかれたらいろいろ面倒だから。だけど、酒呑童子は…無視した。「朱里って誰だ?」
「おい、無視すんな!見捨てるな!裏切るな!」涙を流しながら怒鳴る。(すまん、伊吹。)
後で絶対に覚えてろよ。「聞いてるのか」「は、はい!聞いてます!」怖い、山姥さん
より怖い!「聞いているんだったらさっさと退け」要するに他の火とは通れるけど、この人だけは通れない
ようだ。「嫌です」斬られるかもしれないけどここは押し通したい。「てめえ、俺達が何者か知ってる
のか」そう言えば…知らなかった。周りは皆、知っているようだけど。世間知らずなのは俺だけか。
「ごめん、あんた達のこと知らないわ」そう伝えると鬼の様な人は衝撃を受けた。「な、知らない奴が
居たなんて…」俺もあんたを知らなくて良かったよ。こんな怖い人と知り合いになりたくなかったから。
「土方さん!こんな所で時間潰すと…」側にいた人は焦った顔でする。元々、あんたらが話しかけてきたから
いけないんでしょうが。「おい、旅人」「っ分かりました。退けばいいんでしょう」面倒くさいけど
ここまでこの人達の邪魔をする気はない。俺は無言で道を再び歩いた。
「あの男、怯えてませんでしたね」八木邸の一室の畳の上に座った総司はニコニコ笑いながら俺に言う。
「ああ、総司。あいつを調べてこい」すると、すぐに総司は頬を膨らませた。「嫌です。だって、俺、騙した
くないです」俺は鼻で笑った。「騙さなきゃこの世では生きていけないぞ?」総司は顔を背けた。
仕方なく俺は懐から小銭を出した。「これで甘味処に行ってこい」そう言うと、総司は顔をこちらに向け、
顔を輝かせた。「分かりました!」その姿に笑みを浮かべながら茶を飲んだ。
「眠い!」最初の言葉はこれだった。だって、夜の百鬼夜行煩いし、妖達、騒ぐし…。
「俺だって昔はあれくらいの盛り上がりで宴をしてたぞ」「…考えられないって」今の酒呑童子からは
想像つかない。「はぁ、京って改めて怖いな…」「同感だ」