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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
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天狐


「私は久遠、天狐じゃ!」


小さな少女にしか見えない彼女は、無邪気な笑顔で私達と対峙していた。


「し、失礼しました!?私、元白騎士団団長を務めていました…。」


「さて貴様ら、少し私に付き合って貰うぞ!」


『は…!?』


久遠様の唐突な言葉に、私達は呆気に取られていた。

久遠様はそんな私達を気にする様子は無く、そのまま構えを取った。


「はっ!?総員、対魔障壁っっ!!!」


『!!?』


体の奥にまで響く様な強大な魔力を感知した私は、本能のまま叫んでいた。


皆の障壁が展開された直後、私達に魔力嵐が襲ってきた。

そのあまりにも理不尽な破壊力に、一人、また一人と仲間が吹き飛ばされてしまう。


「「ぐぅ…!!??」」


私達でも耐えるだけで精一杯だなんて…!?


魔力嵐に耐えながら、私は久遠様の様子を窺う。

すると、彼女は私の視線に気づいて、にへらと笑った。


「あっ…きゃっ!?」


唐突に魔力嵐が消滅して、吹き飛ばされない様に耐えていた私達は、正面に倒れそうになった。


「ふむ、立って居るのは二人だけかの。」


そう言い、久遠様は周りを見る。


皆は、吹き飛ばされてしまったものの、魔力嵐の外側に弾き出されていたので命に別状はなかった。

ただ、体を強く打ち付けたのか意識が無い者が多い。


「シアが咄嗟に広域結界を張ってなかったら、皆はやばかったかも…。」


其の様子を見て、フィアがそう呟いていた。


「久遠様!?何故この様な事を!?」


堪らず私が叫ぶと、久遠様はきょとんとした様な顔をしていた。


「はて?貴様達は私の弟子になる為に来たのではないのか?」


「「えっ?」」


「え?」


「ち、違います!」


「あ、でも、久遠様に弟子入りっていうのは悪くない手かも…。」


一度は困惑の表情を浮かべていた久遠様は、フィアの言葉を聞いてそらみろという表情を浮かべていた。


「ふぃあ~~!?」


「あ、ごめん!」


「もう!…久遠様、お話の前に皆の治療をしても良いですか。」


「そうじゃのぅ、何やら思って居た事と違ったようじゃし。どれ、私が診てやろう。」


久遠様はそう言って、私達に向けて広域の治療術を放つ。

すると、直ぐに皆の傷が癒えて行き、仲間達が次々に目を覚ましていった。


「こんなもんかの?で、結局、貴様達は何しに此処へ来たのだ?」


「はい!私達は久遠様に聞いて頂きたい事、そして協力して頂きたい事がありまして!」


「ふむ、してそれは?」


私達はヴィシュヌ様の事を初め、アンリ様から聞いたお話も久遠様に説明した。

すると、久遠様から意外な反応が返って来た。


「成程、中々面白い状況になっておるのぅ!」


そう言って、久遠様はケラケラと笑い出した。


「わ、笑い事じゃないですよ!」


堪らず私は、久遠様に食って掛かってしまう。


「いや、すまぬのぅ。しかし、簒奪とは…。所詮は神もヒトと言う訳じゃな。」


そう言いながら、一人納得する様に頷く久遠様。


「其れに加えて、魔王共が同時期に倒れたと言うのも臭い話じゃのぅ。」


「はい、其処は私も気になっております…。」


神界から簡単に干渉出来るとは思えない…。かと言って、魔王様を倒せる程の人物は限られている。

しかも、4人の魔王様を同時になんて、其れこそ嫡子達が軍を率いた場合のみだろう。

だけど、嫡子達が旅に出ている時点でそれも有り得ない。

さらに、アンリ様が私達に偽りの情報を流したと言う場合でも、久遠様に接触させる理由が無い。


「それで、私に協力を求めているという話じゃったが…。」


「あ、はい!御願い出来ないでしょうか!?」


「ふむ…。今のままではちと役者不足じゃな。」


久遠様は私とフィア、そして後方の仲間を見てからそう言った。そして…。


「では、構えよ。」


「「へっ?」」


「先ずは貴様達の力を押し計る…。本気で来るのじゃぞ?」


「!…分かりました!」


「行くよ、団長!」


そう言いながら、剣を構えるフィアの言葉に頷いて、私は槍を呼び出した。


「「行きます!」」


「ほう…!」


一瞬で間合いを詰めた私達の同時攻撃を、久遠様は顔色一つ変えずに受け止める。


「くっ!?」


そして、一瞬で飛び退きながら、私達は魔力弾を降り注ぐ。


「フィア!」


「分かってる!」


私達は武器に魔力を纏わせながら、再び久遠様の元へ飛び込む。


何処まで通用するかはわかりませんが、失望されては不味いです。此処は出し惜しみ無しで!


私達は、攻撃しては即離脱という連携攻撃で絶えず久遠様を攻撃した。

徐々に加速していく高速戦闘だと言うのに、久遠様は顔色一つ変えなかった。


「なら、此れで!」


私は体を変異させて、翼を広げる。フィオも其れに続き、私達は魔力を収束させた。


「ほう、撃って来るか。」


私達の強大な魔力の練り込みに気づいておきながら、久遠様は構えを取るそぶりは見せない。


『ブラストッ!!』


私達が放った渾身の収束魔力弾は、久遠様を飲み込み地面を抉っていた。

土煙が上がる中、肩で息をしていたフィアが、呟くように口を開いた。


「や、やったの?」


「いえ、恐らく……あ!?」


言葉の途中で地面から腕が生え、周囲を吹き飛ばす。

そして、久遠様は私達を見上げて、ニィっと笑った。


「今のは悪くなかったのぅ。高速戦闘も縮地に迫る速さ、だた…ちと火力が足りぬの。」


砂埃を払いながら立ち上がる久遠様は、擦り傷一つ無かった。


「じょ、冗談でしょ!?少しは効いてると思ったのに!?」


「ではそろそろ、此方から参ろうか。」


「「きゃっ!?」」


久遠様の姿が揺らぎ、消失する。そして、私達は背後からの攻撃をまともに食らってしまった。

フィアは地面に叩き付けられ、私の体は木々を薙ぎ倒しながら、数十メートル程吹き飛ばされた。


「ふむ、反応速度と耐久性に難有りかの。」


そう言いながら、久遠様は地上に降りてくる。


「其処の娘!地面に転がっている方の治療は任せるぞ。私はアヤツを診てやるからの。」


「は、はい!」


唐突に呼ばれ、我に返ったシアは、慌てて姉の元に走る。


「ね、姉さま!?しっかりして下さい!?」


シアによる治療が始まる。そして、私の所には久遠様がやって来た。


「気分は如何じゃ?」


「…さ、最悪で…すよ。」


久遠様の攻撃で、障壁を破壊されてしまった私は、殆ど生身のまま攻撃を受けてしまった。

そして、障壁が再展開される前に、体で木々と薙ぎ倒すなんて状況になって…。


こ、これは体中の骨が折れてそうですね…。死ななかっただけマシなのでしょうが…。


「ふむ…、少々やり過ぎたようじゃの。どれ…。」


久遠様は、その場で屈んで私の体に触れる。すると、その手から光が溢れて私を包んだ。

体の痛みが徐々に引いていくのが分かる。そして、苦痛に歪んでいた私の表情が緩んでいく。


「後は自然治癒かのぅ?すまぬな、弟子が戻ってくれば完治させてやれるのじゃが…。」


「いえ、此れなら後でシアに診て貰えば、大事には至らない筈です。」


「ほう…、成程のぅ…。中々良い術士が居る様じゃな。」


「ええ、彼女は神界騎士団随一の治療術士ですから。」


誇らしげにそう語ると、久遠様は悪戯っぽい微笑みを零していた。


「…どうかしたのですか?」


「いやな…、それでお主はこれから如何するつもりじゃ?」


「は…?あ、いえ、久遠様にご同行願えないかと…。」


「さっきも言った通り、今のお主達は力不足…はっきり言えば足手纏いじゃ。」


「うっ…。」


久遠様との手合わせで実力差を思い知った私は、何も言い返せなかった…。

諦めるしかないのかと、項垂れていると、久遠様は意外な言葉を口にした。


「それで、お主達に稽古をつけようと思ったんじゃが、受ける気はあるか?」


「え?それは……。」


考えてみれば久遠様の提案は当然の事だった。そもそも私達を弟子入りの志願者だと思っていたのだから…。


ただ、問題はあった。私達の主はヴィシュヌ様だ。

そんな私達が、久遠様に弟子入りすると言うのは主に対する裏切り行為なのでは?

そう考えた私は、折角の久遠様の提案に二の足を踏んでいた。そしてその様子を見ていた久遠様は。


「もしや、ヴィシュヌの奴に申し訳が立たぬとでも考えているのかのぅ?

安心せぃ、別に私を主として仰げとは言わぬ。」


久遠様に見透かされてしまった…。でも、これは有り難い話ですね。どの道このままでは…


「分かりました、御願い致します!」


「うむ!…だが、今日は休むといい。その体ではまともに稽古を受けることが出来まい。」


私は久遠様の言葉にコクンと頷いて、皆の元に戻る。

そして、この地で暫く修行する事を皆に話した。


「修行か…、必要な事だし仕方ないよね。でも団長…、どれぐらいの期間を修行に当てるの?」


フィアの何気ない質問に私は答えることが出来ず、思わず久遠様を見てしまう。


「それはお主達次第じゃろう?1年になるか10年になるか、はたまた100年掛かってしまうかも知れぬのぅ。」


久遠様がニヤニヤとした顔で、フィアの質問に答える。


「ひゃ!?100年!?……其れは嫌だなぁ…。」


私だってそんなに時間掛かるのは御免ですよ…。そもそも、あの連中が大人しくしているとは思えませんし、時間は掛けたくないですね。


「1年…せめて2年以内で久遠様に認めてもらいましょう!」


「ほう?ならば、相応の訓練を考えておこう。楽しみにしておくのじゃ!」


そう言って不敵に笑う久遠様に、私達は不安を感じていた。

そして、久遠様に挨拶をして、私達はアンリ様の居城に向けて飛び立った。


明日から過酷な訓練が始まる…。


そう考えている皆の胸中は、期待半分不安半分という所だろう。

そして、翌日から地獄の訓練が始まる。1ヶ月、2ヶ月と経過していく中、

見習い騎士達も確かな手応えを感じていく。


彼女達がヴィシュヌと再開するのはまだまだ先の話だった。


暫く、御手洗、そして真雪の話がメインになります。

時系列が追いついた場合、仲間の話が入る予定です。

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