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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
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国境を越えて


フェミール神聖王国。人間族至上主義で、多種族を見下し、又魔法を扱う者を忌み嫌う。

神聖魔法だけは神の奇跡と称し、教会の司祭らは下手な貴族よりも権力を持っている。

そして、極東にある戦闘民族の国は悪魔の国又は魔王軍と呼び、魔獣を従えていると考えられている。


ただし、これらの考えは神都そして、その周辺の町村までしか浸透していない。

勿論、教え自体は国全土に広がっている訳だが…。


「まぁ、生活の為に余所の国と交易をしている町村では、こういう考えは広まりませんよね。」


川辺で一休みしていた私は、そんな独り言を漏らす。

事実、私を保護してくれた村長一家を初め、村人達は普通に接してくれていた。

私の事を連中に伝えたのは、神都の行商人あたりだろう。


「さて、そろそろ国境です。早く他国へ渡って温かいご飯が食べたいです。」


時刻は夜半過ぎといった所。真雪にとっては都合が良かった。これならこっそり国境を越えられる。


軽く地面を蹴って、徐々に加速していく。

能力を自覚してから然程時間は経っていないが走るだけなら問題はない。

勿論急激な加速をしたり、急な方向転換をしようとすれば、慣性が働いて体がぶっ飛ぶ。

何度も体を地面に打ちつけて…、そう、経験したからこその学習。真雪は飲み込みが早いのだ。


30分も経たないうちに、国境の砦を視界に捉える。そして真雪はその場で一度立ち止まった。


「さて、どうやって抜けましょうか。」


私は砦を一度見上げ、周辺の地形を確認する。

右は壁の様に聳え立つ岩山。左は断崖になっていて下は海。


岩山を攀じ登る?それとも一度、海へ飛び込んで泳いで国境越え?

どちらもノーです!


「とは言え、こちらはフェミール王国側の砦、正攻法では絡まれそうですよね。」


こんな所に司祭が居るとは思えないけど、下働き…修道士や修道女ぐらいはいるかも知れない。

ただ、村には居なかった事を考えると、こんな不便な場所にいるのだろうか?


ただ、此処は国の重要機関だし、修行の一環として配属される可能性も…。


顎に手を当てながら、むむむという感じで私は唸る。


強行突破自体は簡単に出来る。ただ、取り囲まれてしまった場合、無理やり通り抜けないといけない。

其の為には、ある程度の力が要求される訳で、力の制御が出来ていない私が下手に振り払えば…。


「ギャグマンガであれば、壁や地面に人型の穴が開くだけでしょうが、現実ではそうはなりませんよね。」


吹き飛ばされて、壁にべちゃっとなるか、私の腕が人体を貫くかでしょうね…。うぅ…、考えていたら寒気が…。


「となると、やはり見つからずに行くしかないですね。」


隣国の国境砦まで到達すれば、流石に手出しは出来ない筈。そうは思っていても、中々打つ手が見つからない。

跳躍して、砦を飛び越えるという手はある。ただ、加減が出来ないので何処までかっ飛んで行くか…。


考えた結果、私は砦をよじ登る事にした。勿論影に隠れての行動となる。

上に辿り着けさえすれば、後は適当に飛び降りればいい。

そして、その際は見つかろうと関係は無い。ただ、隣国の国境砦を目指せば良いだけだ。


私は通常状態で石壁を攀じ登っていく。勿論こんな事が出来るのは身体能力が底上げされているからだ。

私は呼吸を整えながら、一動作一動作をゆっくり確認をしながら登っていく。


そろそろ到達できますね…。


攀じ登り始めてから10数分、気づかれた様子はない。

そもそも、こんなド深夜に見張りが多い訳が無かった。

そして、私がその事に気づいたのは半分以上登った後の事だった。


「……上の見張りは二人だけですか。」


強行突破が容易であった事に気づいた私は、是が非でも見つかりたくは無かった。

折角、苦労して登って来たのに意味がないのでは、報われない。

なら、見つからずに突破すべきだ。私はそう心に決めていた。


「…スニークミッション開始です。」


私は、見張りの様子を注意深く窺った。明らかにやる気無さそうに欠伸をしている。

ゆっくり物音を立てず、低姿勢のまま物陰から物陰へ移動していけば問題はない。


そして結果は其の通りだった。1分足らずで反対側まで移動出来てしまった私は少し拍子抜けしていた。


「こいつら税金ドロボーですね。」


警備がザルにも程がある。


まあ、こんな風に移動が出来るのは、私ぐらいなのかも知れませんが…。


「さて、下の様子は如何なっていますか…?」


こっそり覗き込むと、砦の入り口には誰も居なかった。

どうやら、こちら側はあまり重要視されていないらしい。


「……。」


私は無言のまま飛び降りて、スタスタと歩き始める。


「…別に良いんですけどね。」


ただ、色々と対策を考えていた自分が馬鹿らしくなっただけで、問題は何も無い。

そう、別に問題は無かったのだが、無性に腹が立っていた。


「何時か、滅ぼしてやりますからね…。」


恨みがましい事を言いながら、私は隣国の砦に向かった。



―――――――…







隣国の国境砦に向かった私は、砦の入り口で大勢の兵士に囲まれていた。


「極東の少女か、気づかれずによく抜け出せたものだ。」


私を取り囲んだ兵士達は、ただ王国の追っ手を警戒してくれただけの様だった。


「あ、ありがとう御座います。」


砦内に保護された私は、温かい飲み物を頂いていた。


「それで、どうやって抜け出してきたんだ?」


私に飲み物を持ってきた若い兵士が、そう聞いて来る。


「えっと、闇夜に紛れまして…、それで、意外にも警備が少なかったので簡単に…。」


流石に砦を乗り越えたなんて話は省略したが、概ね嘘は付いていない。

若い兵士は、運が良かったなと言ってくれたが、壮年の兵士は何やら難しい顔をしていた。


「有益な情報を得られたようだ。」


そう言って、壮年の兵士は部屋から出て行った。

何時までも此処で足止めを食らいたくなかった私は、兵士に尋ねてみた。


「そろそろ、街へ向かいたいのですが…、行っても良いですか?」


私がそう聞くと、彼は驚愕の表情を浮かべ。


「ええ!?こんな時間からかい!?落ち着けないのは分かるけど、せめて朝まで待っていた方が…。魔獣だって居るんだよ!?」


早口で私に捲し上げていた。


「魔獣ぐらいなら問題ありませんよ。此れでも一応は戦えますから。」


「あ!そうか。極東の子だもんね…。」


「ええ、ですから御気にならさず…あ、出来れば町の位置は教えて頂きたいのですが…?」


「うん?ああ、良いよ。砦を出て大人の足で6時間程歩くと小さな町があるよ。今から出るのなら午前中には着くだろうね。」


成程、なら朝までにはもっと進めますね。となれば…。


「その町から先は如何なっています?」


「ん?えーっと、街から7時間位の所に村があって、そこから更に半日程で大きなの町に着けるよ。」


「王都まではどれ位ですか?その、なるべく離れておきたいので。」


私がそう言うと、彼は納得したように頷いて。


「大きな町から徒歩なら大体二日ってとこだね。王都に行くのなら大きな町で乗り合い馬車に乗ると良いよ。」


大人の足で3日ぐらいの距離か。流石に明るくなったら高速移動は出来ないし、先ずは大きな町を目指そう。


「そういえばキミ、お金は持っているのかい?」


「ええ、一応は。」


私はそう言って、マントの内側からお金が入っている布袋を取り出して中身を見せた。


「フェミール通貨か。しかし、結構持っているんだね。俺より金持ちじゃないか…。」


「あ、あはは…。」


その場は笑って誤魔化した私だが、気になる言葉があった。


「あの、確認したいんですけど…。このお金って使えますか?」


「大丈夫だよ。ただ、場所によっては価値が下がる事もあるかも知れないけどね。」


「あ、やっぱりそう言う事もあるんですね…。」


まあ、降って沸いた様なお金ですから、問題はありませんが。


「でもまぁ、それだけ持っているなら、王都で仕事を見つけるまでは持つんじゃないかな?」


「そうですか。その、色々ありがとう御座いました!」


私がそう言って頭を下げると彼は、如何いたしましてという感じで手を振っていた。


「じゃあ、本当に気をつけるんだよ?そして…。」


彼は一呼吸を置いて言葉を続ける。


「エクシス王国へようこそ!!」



――――――…







空が白み始めた頃、私は砦から丸一日は掛かる筈の大きな町――イシスに辿り着いていた。


「門番さんが変な目で見てましたね…。やはり町に入るのは少し待つべきでしたか…。」


誰も居ない公園の様な場所で休んでいた私は、そんな独り言を呟いていた。

考えてみれば、明け方の時間に私の様な子供が外からやってくるなんて事は先ず無い事だろう。

少しやらかした感はあるが、どの道この町に長く滞在するつもりは無い。


「今日はゆっくり休んで、明日必要な物の買出しをしてから、夕方頃に王都に向けて移動ですかね。」


そして、宿が開く時間まで適当に町の散策をした私は、開店と同時に宿に入った。


「お、おお?いらっしゃい?どうした?子供がこんな時間に…。」


ご主人と思われる壮年の男性が、目を丸くしながら私を見た。


「えっと、小さくても良いので一人部屋は空いてませんか?」


「え?いや、空いているが…、お前が泊まるのか?」


「ええ、代金はお幾らですか?」


「小さい部屋なら銀貨3枚だが…。」


「銀貨3枚ですね!」


そう言って、私は布袋を取り出して銀貨3枚をご主人に手渡した。


「お、おお。本当に客なんだな…。」


「何か問題でも?あ、朝食も頂けますか?」


「ああ、直ぐに用意するよ。メニューはどうする?」


そう言ってご主人はメニューが書かれている看板を指差す。


「そうですねぇ…、結構お腹が空いてますし、ガッツリいきたい気分ですねぇ…。あ!この銀貨1枚のセットで御願いします!」


そう言いながら、銀貨を手渡した。


「食後に払ってもらうのが普通なんだが、まあいい。とりあえず部屋に案内させよう。

食事の方はまだ火も入れてないから30分位は掛かるぞ?」


「分かりました。では部屋で待っていますね。」


女性従業員に案内されて、私は個室に入った。

広さ的には四畳半ぐらいの部屋でベッド一つとクローゼットしかないが、ほぼ寝るだけなので問題はない。


部屋で少し寛ぎ、頃合を見て食堂に向かった。

すると、既に料理は出来ていたようで、直ぐに出て来た。


「はぁ…。空腹だったから余計に美味しく感じますねぇ…。」


食事自体は連れ攫われる前日の夕食が最後だったから、丸一日以上経っていた。

ゆっくり味わう余裕も無く、そのままガツガツと食べてしまった私は10分程で完食していた。


「ご馳走様です!」


そして、私は部屋に戻る。食べたばかりで横になるのは少し躊躇ったが、

一気に疲れが出ていた私は、そのままベッドに突っ伏した。


「……仕事を探さないといけませんね…。冒険者とかそういう仕事があれば良いのですが。」


そう呟いて、私はそのまま眠ってしまった。



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