異能
誰かの呼び声がする。
「誰だよ…、折角上手い飯にありつけると思ったのに。」
そう愚痴って、声の主を探そうと…
『やっと、起きたか。暢気な奴め。』
あ、あれ?此処は…?
徐々に覚醒していく意識の中で、俺は記憶を呼び起こす。
『そのまま静かにしておれよ…。彼奴らに見つかるからな。』
其の言葉で俺ははっとなった。
そうだ、此処は異世界で…、あの連中は!?
見覚えがあった。…正確には違う相手ではあるのだが…。
この世界に来た時に遭遇した男達、恐らくは盗賊の類だろう。
そして今、仲間と思われる連中がキャンプ地周辺を探っていた。
…ヴィシュヌ、俺の荷物は?
『其処に置いてある。今は触るでないぞ。』
ああ、分かっている。
静かな部屋で聞こえるコンビニ袋の音はやたらでかく感じる。
此処は屋外ではあるが、この静けさなら同様の事が起こるだろう。
『まったく、お前が感知出来ていれば無駄な力を使わずに済んだものを…。』
愚痴を零しているヴィシュヌを無視して、俺は連中の動向を探っていた。
連中の目的は、仲間を殺した奴の捜索なのか…、ただキャンプしている者を襲いに来たのか…。
どちらにしても見つかる訳にはいかない。見つかればまた殺し合いになるだろうから。
「ちっ、やっぱり感づいて逃げちまったようですぜ。」
「だとしても、獲物はまだ近くに居る筈だ!探し出せ!」
「「へい!」」
……完全にザ・盗賊じゃねえか…。しかし、不味いな…。逃げようにも荷物を置いていくのは死活問題だし…。
流石にコンビニ袋を持って逃げたら、絶対音が鳴る。そしたら直ぐに見つかっちまうだろう。
…ヴィシュヌ、お前が俺の体を操って連中を倒す事は…?
『無論出来ぬよ。今のお前の体では私の反応についていけないからな。』
予想通りの返しに俺は項垂れた…。だが、落ち込んでいる場合じゃない。
死なない体と言っても、痛みは感じるんだ。俺はあの苦しみを二度と味わいたくは無い。
そして、俺は考えた。奴らを倒す方法を…。
不意討ちしかない、狙うのは首一択…、声を上げられたら他の二人に気づかれる…。
俺は木の陰に移動して息を潜めた。上手く仕留められなかったらまだあの地獄の苦しみが始まる。
そして、一人の盗賊が顔を出した瞬間を狙い、下からゆっくりと刀を上げていく。
「いねえか?…はぐぅ!?」
男の首元に当てた刃を一気に引き抜いた。
「ぁ…が…。」
声にならない悲鳴を上げて盗賊の男が崩れていく。そして俺は、其の男が地面に激突しないように抱えながらゆっくりと下ろした。
『先ずは一人か。』
ヴィシュヌの言葉に軽く頷いて、俺は次の相手の対策に取り掛かる。
『ん?何を…!?気づかれてしまうぞ!?』
俺はコンビニの袋をそっと広げ、中に入っているスナック菓子の袋を取り出した。
カサッと音が鳴り、近くに居た男が其れに気づく。
よし、気づいたみたいだな…、後は此れを目立つ所に置いて…。
スナック菓子を開けた場所に置き、直ぐ近くで俺は息を潜める。
10数秒後、先程の音に反応した男が狙い通りやって来た。
「ん?何だアレ…?」
そう呟きながら、怪訝な顔でスナック菓子に近づいていく男。
「んー?食いモンでも入ってんのかー?」
そして、其れを拾い上げようとして、無防備な姿を晒した盗賊に俺は切りかかった。
ザシュッ!
ダンッ!
一刀で首を落とされた盗賊の男は、無論呻き声も上げなかった。
無言でスナック菓子を回収して、コンビニ袋の中に戻す。
そして、俺は僅かながら高揚感を感じていた。
後一人…。
俺は残り一人を如何倒そうかと考えていた。
不意を突ければ、前二人の様に倒せる。そして最後の一人は態々首を狙う必要も無い。
それなら、幾らでもやりようはある筈だ。そう考えた俺は注意深く男の動向を探っていた。
「おーい、見つかったかー!?」
男が仲間に呼び掛ける、だが仲間達は声を出せる状態ではない。
返事の無い仲間に、男は怪訝そうな表情を浮かべていた。
そして、男が仲間の消えた場所…、俺の元に歩みを進めた…其の顔に油断している様子は無い。
くそ…警戒してやがる…、如何する?
仲間の死体を発見すれば、警戒は益々強まる…。仮に不意討ちが出来たとしても防がれる可能性が高い…。
ヴィシュヌ、何か手はないのか!?
『ふむ…、一応異能を修得出来る様だが?』
俺が縋る様にそう聞くと、ヴィシュヌから意外な返答が出た。
え!?もうかよ!?
『ただ、効果は小さいだろうな。』
…それで、俺の異能はどんなものなんだ?
『『音』『重力』だな。だが、音は精々小さな音を発する程度、重力も体に影響しない程度だろうな。』
ヴィシュヌの説明を聞いて、一度は項垂れそうになった俺だが…。
『音』の修得を…、ちなみにデメリットは?修得したら身体能力が下がったりとか…。
『無いぞ。使用を続ければ練度も上がっていくだろう。』
つまり、無駄になるものは何もないって事か…。よし!やってくれ!
俺がそう心の中で叫ぶと、直後俺の記憶が流れていく。
「!?」
そして、聞こえてくる色々な音、音楽そして歌。空気の振動が耳鳴りを引き起こし、俺は一瞬倒れ掛けてしまう。
「ぐっ…!」
耳が痛い…。クソッ!盗賊の位置は!?
必死に耳を押さえ、何とか片目だけ開けて盗賊の姿を確認した。
近くまで来ていることを視認した俺は、必死に木陰に隠れる。
クソ、頭痛が酷い…。何だよ!ヴィシュヌ!話が違うじゃねえか!?
『そう言われてもな、修得時のデメリットしか聞かなかっただろう?
まあ、その頭痛もその内治まるだろう。』
その内じゃ不味いっての!?
頭の中で響く不協和音にそして耳鳴りに、俺は限界を感じていた。
木にもたれ掛かり、浅く呼吸をして必死に頭の中の音と戦っていた。
な、何とかこの音を追い出す事は出来な…!!もしかして!?
打開策を閃いた俺は早速試そうと、片手を…
「て、テメエ!?よくも仲間を!?」
見つかった!?
男は剣を大きく振りかぶり、そして打ち下ろした。
ふらふらだった俺には到底避けられないと思っていたが、偶然にもその攻撃を躱した。
そして、俺は盗賊に向けて『音』を放った!
すうっと抜けていく不協和音。次第に俺の頭痛が治まっていく。そして…。
「ぎゃあああああ!?」
俺の音を受けた盗賊は両耳を押さえながら、地面を転がった。
この世界では聞けないだろう、音の数々。それは大音響を聞き慣れない者にとってはどれ程の苦痛だったのだろうか。
「い、今の内に!」
ギンッ!
千載一遇の好機と見た俺は、男に向けて刃を振り下ろすが、あっさり切り振り払われた。
「不味っ!?」
「ぐっ!」
俺は慌ててその場を飛び退く…、盗賊の男は苦悶の表情で此方を睨みつけていた。
あ、危ねぇ…、もし相手が万全の状態だったら、俺は今の打ち合いで…。
青褪めながらも、次の手を考え続ける…。奴は今、俺が受けた不協和音を食らっている状態。
だが、ヴィシュヌの話ではその内収まると言う…。そもそもあれは異能覚醒の弊害の様な物だ。
つまり、同じ攻撃は出来ない…。となると、是が非でも今決めるしかない。
…そうだ!
俺はジャンパーのポケットに手を突っ込んで、煙草とライターを探る。
其の間に盗賊の男は、頭を振りながらヨロヨロと起き上がっている。
漫画なんかでよく在る手だが…!?
煙草に火を点けて一吸いした後、俺は火の付いた煙草を男の顔に向けて指で飛ばした。
「うおっ!?」
ふらふらの状態でも、男はそれをしっかりと避けるが…。
体勢が崩れている今なら…!
俺は刀を左後方に下げた状態で駆け寄っていた。そして
「このお!」
左下に振りかぶった状態から、思いっきり右薙ぎに払う。
キンッッ!!!
「なぁっ!?」
男の表情が驚愕に変わる。驚くのも当然だった。
盗賊の男は、俺の横薙ぎの攻撃をしっかり防いでいた。だが、衝撃を抑えきれず、剣を弾き飛ばされてしまった。
「がっ…!?」
男は剣を片手で握っていた。見た目的にはショートソードの分類だろうから其れは当然の事だが、
火の点いた煙草を、慌てて回避し体勢を崩していた状態の所に、
いくら身体能力が劣る相手とはいえ両手持ちで思いっきり振り切りられれば…。
そして武器を失い、呆然としている相手を仕留める事なんて造作も無かった。
俺は投げ付けた煙草を拾い、そのまま咥える。
「ふう…。今更だな…。」
武器を失い愕然としていた表情、そして死に際の苦悶の表情。
それらがフラッシュバックして、俺の心を締め付けた。だが、それは今更の事。
自身の安全が確保されたからこそ出てくる余計な感情に、俺は頭を振って”ソレ”を追い出した。
日本に戻れたとしても、俺はもう真っ当には暮らしていけないだろう。
そんな事を考えながら、男達の遺体を漁る。
「剣が5本か…、流石に一回処分したいな。」
そろそろ夜が空ける…、明るくなったら街を探さないとな。多分、川を下っていけばそのうち…。
普通に考えれば、町や村は水源に沿って出来る筈。そう考えた俺は、朝食の準備に取り掛かった。
昨日は魚二匹を獲るのに一時間以上は掛かっている。早くから準備をするのは当然だった。
そして、朝日が昇った頃、俺は昨日と同じように魚を突く。
思いの外上手く行き、30分も経たないうちに3匹の魚と獲る事が出来た。
魚を捌き、内臓の処理をした後、枝を削った木串に刺して焼き上げる。
昨日食べた時に感じた、味気の無さを思い出した俺は、芋揚げ菓子の缶に手を伸ばした。
「サワークリームオニオン…、合うのかな…?」
うす塩か海苔塩を買うべきだったか。いや、この缶も使えるだろうし此れは此れで良いか。保存もある程度は出来るし。
「…以外に…有りだな。」
粉々に砕いたチップスを焼いた魚にまぶし、そのまま齧り付く。
昨日の味気のない、天然素材の味だけでは満足出来なかったのだが、
今回は概ね満足いく結果となった。
その場で、全部平らげた俺は火の処理をして、移動の準備をする。
「さて、どちらに向かうか…、って普通に考えれば下流だよな。」
セルフ突っ込みをしながら、俺は川沿いに歩いていく。
緩やかな坂を下っていくと、街道と思われる整備された道に出た。
「お…、先に街道に出たか…、どっちだ?」
あ、そういや…ヴィシュヌ?
いつの間にか、声が聞こえなくなっていたヴィシュヌに呼び掛ける。
「……引っ込んでたのか…。」
再転位にどれぐらいの力が必要かはわからないが、基本的には眠って貰っていた方が良いんだろうな。
「ま、とりあえず川に沿った方に行くべきだよな。後は試しながら行くか。」
ヴィシュヌに確認を取ろうと思っていた事をそのまま試してみる。
『音波』現状効果は殆どないが、その内攻撃に転じられるだろう。
続いて『遮断』此れは現状でも十分使える。足音とかも遮断出来るので消音魔法と考えれば良い。
最後に『音発生』これは指定した場所に音を鳴らす効果がある。
ただ、現状では離れた場所は指定出来ず、戦闘には使えそうに無かったが…。
「おお~、こりゃいい!」
鳴らせる音は、俺の記憶にある物だけ…。なので、記憶の中に在る音楽を発生させると…。
「異世界で音楽を聴きながら移動出来るとか、ある意味チートじゃね?」
左手の掌を耳に押し当てながら、そんな事を口走る俺。
異能の無駄使いだとか言われそうだが、そんなもんは気にしない!
そう、此れも鍛錬なのだ。別に体力を使うわけでもないし、まぁ脳の負担はあるかも知れないが、
そんな物、音楽の脳内再生と変わらないだろう。
歌を口ずさみながら、軽い足取りで俺は街道を進んでいく。
まもなくお昼という時間に、俺は小さな町に辿り着いた。
「さて、…先ずは飯食って、回収した剣の売却だな。」
そして、此処で一つ問題が起きた。俺は金の価値をわかっていない。
つまり、食事出来る程の金を持っているのかという話だ。
それに気づいた俺は、市場の様な場所に訪れた。そこで取引を行う人達を見学する為だ。
並んでいる商品を確認しながら、商人と客の遣り取りを何度も確認した。
1時間程調べた結果、銅貨が5~50円程度。小さい銀貨が100~200円。
500円玉サイズの銀貨が500~1000円ぐらい。小さい金貨が5000~10000円ぐらいと思われる。
振れ幅でかいな!一度しっかり調べないとな…。
ヴィシュヌのお陰で、言語も分かるし文字も読めるので、
金銭価値さえ把握出来れば詐欺師に引っ掛かる事もないだろう。
ただ、今は多少損をしても構わない。持っている剣が重いから…。
「串焼き2本。」
そう言って銀貨を一枚差し出す。
「あいよ。…釣りね。」
俺は串焼きと釣りの小さい銀貨3枚を受け取る。
うーん1枚1000円だとしたら1本200円。500円なら100円か…。となると1000円ぐらいが濃厚だよな。日本じゃあるまいし、一本100円で買えるとは思えない。
ってか、最近じゃ日本でも、1本130~150円辺りが相場だしな。
「ん?お客さんどうしました?」
考え事をしていたら、店主に声を掛けられた。俺はこれ幸いと思って口を開いた。
「あ、いや、剣を買い取ってくれる店はないのかと考えてまして。」
そう言って、俺は回収した剣を見せる。
「え?そんなに如何したんですか…?」
「ただの拾い物ですよ。換金出来そうな物だったので回収していたんです。」
「成程…、では武器屋に持ち込んでみたら如何ですか?くず鉄も引き取ってくれるので多分買い取って貰えるかと…。」
「お、其れは良い情報を聞けました、ではお礼代わりにもう一本買っておきますね。」
「おお、毎度どうも!」
お互いに良い取引をして、笑顔で別れる。
串焼きを追加購入した時に、武器屋の位置まで教えて貰った俺は真っ直ぐ店を目指した。
「はむ……、食感は焼き鳥っぽいな。肉も大ぶりなのに塩味がしっかり染みていて…。」
これで200円なら、かなりお買い得なのでは!?
俺は夢中になって食べ続け、武器屋に着いた頃には3本とも完食していた。
そして、また買いに行こうと心に決めて、武器屋の扉を開いた。
「おう、いらっしゃい。何かお探しで?」
中に入ると如何にも武器屋の頑固な親父職人と言う感じの男が出迎えてくれた。
「此れを引き取って貰いたいんだが。」
そう言って束ねていた5本の剣を、武器屋の親父さんに見せる。
「ショートソードが5本か……って!?こりゃ、ここらの盗賊が使っている剣じゃないか!?」
「え?そうなんですか?ただの拾い物なのですが。」
やっぱり連中は盗賊だったか。まぁ、襲ってきた時点で盗賊じゃなくても関係ないけど。
「拾い物って、お前なぁ…。ん!?」
親父さんは俺を怪訝そうな顔で見た後、急に顔色を変えてきた。
「お、お前のその腰に差してある剣!一体何だ?見た事ねえ形状してるじゃねえか!?」
あ、やべ!流石に武器屋だけあって食い付くか。
「これは我が国に古くから伝わる物です。ゆえに我が民族以外は扱う事が出来ません。」
こうなったら嘘を織り交ぜながら、誤魔化すしかない。
「ちょ、ちょっと見せてくれないか!?」
それでも食い下がる親父さんに俺は溜息をついて。
「少し見せるだけですよ?それと其の前にそっちを換金して下さい。」
「お、おお。分かった!……この状態なら、小金貨1枚ってとこだな。」
其の言葉に、俺は店内に置いてあるショートソードを見た。1本銀貨6枚。
中古品にしては買取額が少し高いようにも思えるが、儲けは十分出そうだった。
「じゃあ、それで…。」
取引を成立させた俺は、約束通り刀を武器屋の親父さんに見せた。
「ほう!これは…恐ろしく鋭い癖に非常に硬そうだ!?其の上曇り一つなくて、まるで美術品だな!どれ…。」
興奮した親父さんが手に取ろうとしたので、俺は慌ててそれを止めた。
「見るだけという約束だった筈。それにその様に触れれば指が落ちますよ!」
俺の言葉に、顔面を蒼白させた親父さん。まあそりゃそうだろう。職人が指を失ったら生きてはいけまい。
「む、むう。だからこそ、お前さんの民族以外は使えないという訳か。」
「ええ、扱い方を間違えれば、指どころか首も落ちますからね。」
其処まで言ったところでようやく親父さんが引き下がった。
「所で、もう二つ程、気になっていたんだが、そっちの大きい方は?」
「ああ、これも同じですよ。ただタイプが違うだけです。此方はロングソードに相当しますね。」
太刀にも目を付けた様だが、そう説明しただけで直ぐに親父さんは引き下がってくれた。
「それで最後の質問なんだが…其れは何だ?」
そう言って親父さんはコンビニ袋を指差す。
「ああ、此れはただの袋ですよ。此れもわが国の物なので手放す気はないのですが、こう音がなるので扱い辛いんですよ。」
「む、むう…其れも変わった材質の様だから、気にはなったんだが…。ただの袋か。」
「それで、代わりの袋が欲しいんですけど置いています?」
「いや、うちには無いが二件隣に旅道具屋がある。そこならある筈だ。」
「其れはご親切に…。教えて頂いてありがとう御座います。」
「ああ…。」
そう言いながら納刀すると、親父さんは名残惜しそうにそれを見ていた。
「では、此れで失礼しますね。」
一礼してから、俺は店を出てそのまま旅道具屋に向かった。
――――…
旅道具屋にて、大きめの背負い袋と水袋、毛布にタオル等旅に必要そうな道具を一通り買い集める。
掛かった費用は小金貨2枚程度。大体2,3万ってとこだろう。
最後に俺はフード着きの黒いマントを買いその場で羽織った。
やはり、マントというのは中二心を刺激するな…。即買いしちゃったよ…。
このマントが結構高かった。何しろ旅道具を一通り揃えた額と同じだ。
まあ、しっかりとした防寒効果もあるし、これで毛布に包まれば十分暖かそうだが。
旅道具屋を出た後、俺は宿に向かった。次の街までどれぐらい掛かるかも分からないし、
折角街に着いたんだから宿には泊まりたい。思えば、あの空間に居た頃から横になって寝てないんだ。
…気絶してた時はノーカンで、しかもあれは野宿と変わらんし。
宿に着いた俺は、早速受付をしようとカウンターに向かうと、後ろから突然声を掛けられた。
「もし、旅の剣士様とお見受けする。一つ仕事を頼まれてくれないか?」
俺が振り向くと、其処には初老の男が立っていた。