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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
20/24

忌み子


「クウ、頼む。」


「了解。『消音!』」


 俺は異能の”消音”を展開して、ヴォルガ達と行動を共にする。そして


「むんっ!」


「はあっ!」


「ぎゃっ!?」


 ドサっと倒れる巨大な獣…、見た目だけなら鹿っぽい。でかさは倍以上だろうが…。


「やたっ!コレだけで今日は十分な稼ぎになるわね!?」


 ホクホク顔でそう口にするレイラ。他の連中を見回してみると、同様の笑みを浮かべていた。


「では、この後は時間を頂けますか?」


「あ…うん、いいわよ!」


 ようやく此方の目的である魔法修行に入る事が出来る…。まぁ、無償で教えてもらえるとは思っていなかったが。


 彼らが何をやっていたかと言うと、一言で言えば狩猟だ。街道に出る事は滅多に無いが森の奥には獰猛な動物や魔物が生息するんだそうだ。


 そして、それらの間引きというか、肉の調達みたいな仕事も傭兵の仕事の範疇らしい。


 護衛任務なんて早々ないし、騎士になれるのは貴族だけで正規の兵士すら、紹介状が無いとなれないんだそうだ。

なので、こういう仕事が傭兵達の主な役割になるらしい。


「じゃあ、解体は此方でやっておく。レイラはクウ達を頼む。」


 という訳で、俺達の魔法訓練が始まった。


「――――って感じなんだけど、やって見て。」


 俺は魔法を使えると思われている様だけど、ユニがいるので基本中の基本である魔力操作から教えてくれた。正直ありがたい話だ、ユニには感謝だな。


「えっと…、こうですか?」


 そう言って、魔力操作で循環させていくユニ。その体は目に見えて光っていた。


「うわっ!?ユニちゃん凄いじゃない!視認出来る程の魔力持ちだなんて!将来凄い魔法使いになれるかもよ!」


「え?あ、そそうなんですか!?」


「うん!だから自信を持ってね!」


 マジかー……。ちなみに俺はまだ魔力操作が上手く言ってません!ってか、凄ぇ重いんだよ!よく分からないけどさ!


「其れに引き換え…、クウさんはどうなっているの?あれだけ強力な魔法が使えるというのに…。」


 うぐっ!これはユニに負けてられん!男の尊厳的な意味で!


「………。」


 俺は集中して体の奥底から魔力を捻り出す。そして、体に循環させるように動かそうと…


「ちょ、ちょっと待って!?クウさん!!」


「んあ?」


 レイラの叫び声で我に返ると、何やら青い顔をしていた。


「く、クウさんの魔力量も尋常じゃないのね…、でも慣れてないうちはあまり魔力を出さない方がいいと思うわよ?」


 …へ?俺って魔力量が多いの?……いや、よくよく考えてみれば当然か。ソウルドレインで身体能力が強化されている訳だし、魔力だって伸びているって事だろうな。


「えっと、じゃあ、軽くで…?」


 とは言ったものの、加減…加減かぁ…。感覚がわからねえな。


「……。」


 腹から絞り出すんじゃなくて、もっとこう…、肌の上を血液が流れる様にかな?


「あ、凄い…。かなりスムーズに魔力が流れているわね。なんだ、出来るんじゃないクウさん。」


「流石、私のマスターです!」


「いや、マスターとかご主人様はやめろと。」


 希望としてはやはりお兄ちゃんあたりか。……本当は親子ぐらい離れている訳だけど、嫁もいないのにお父さんって呼ばれるのもなぁ…、いや、悪くないとか思えてくるけど。


 それはともかく、成り行きで助けただけなのに、ユニの奴、ちょっと俺を神聖化し過ぎてないか?確かにあの状況で助けない手は無かったけど、偶然だったしなぁ。


「さて、暫くは魔力操作をしていてね。私は昼食を作ってくるから。」


「分かった。」「はい!」


 それから暫く、俺とユニは魔力操作と循環の訓練に入った、どうやら今日の訓練はこれで終わりらしい。


 ま、基本は大事だよな、うん。


 それから三日程過ぎて、俺達は再びヴォルガ達に誘われて森に行く事になった。


「今日は初級魔術を教えるわね。」


 そう言って、レイラは初級魔法の説明に入る。初級魔法というのは各属性魔法の具現化と簡単な放出魔法らしい。


 所謂生活魔法レベルとは言えないが、薪に火を点けたり、飲み水を作れたりするので魔術師はそれなりに需要があるようだ。


 とはいえ、魔力はそれなりに消費するらしいので、攻撃専門の魔術師はあまり利用しないらしい。


 ちなみに魔力量は魔法を使い続ければ上昇するらしいので、俺とユニは積極的に使って行きたいと思っている。日々修行って奴だ。


 折角魔法が使えるなら、ガンガン使って行きたいもんな!日本に戻った時に使えなくなる可能性もあるから悔いの残らないようにしたい。


 と、日本に戻るのは良いけど、ユニはどうするべきか…。


「じゃ、こんな感じでやってみてね。」


 レイラの言葉に俺達は頷いて、魔法の詠唱に入る。……無詠唱とか短縮とか出来ないもんかね?


 魔力操作とは違い、今回はユニも苦戦している様だ。此処は俺が先に成し遂げたい。


「火の精霊よ、我が声に応え、火を灯せ!」


 魔力循環させて、集中し詠唱する。するとジュボっという音がして、俺の掌の上に火が灯った。


「お、おお!?やった!」


「……え?クウさん…あんなに魔力を流していたのに、其の程度の火なの…?」


 へっ?レイラに言われて気づく。俺が灯した火はライターの火より小さい物だった。


「あれだけ魔力を流していたんだから、最低でも拳大の炎になると思っていたんだけど…。」


 ……


「はぁあ!?」


「ははは、クウは特殊魔法以外は才能がないんだな!」


 俺が驚きの声を上げていたら、後ろからキールが小ばかにしたように言い放つ。


「ちょっと、キール!そう言う言い方はないんじゃない?大体、クウさんの魔力で才能がないなんて可笑しいのよ。多分私の教え方が悪いんでしょうね。」


 そう言うレイラは申し訳無さそうな表情をしていた。


「ま、魔法なんて一朝一夕で修得出来る物でもないんだろ?クウ、今日は剣術の訓練でもしないか?」


 凹んでいた俺に、そう提案するヴォルガ。確かに、根を詰めても直ぐ上手くはならないだろうしな。


「じゃ、御願いします。」


 ちなみにユニは魔法訓練を続けている。まぁ、具現化まではしたいだろうしな。


「おう、っていうか、クウよ。俺達に敬語なんて使わなくていいんだぜ?」


「そうだぜ?一緒に仕事もしたんだし、他人行儀は無しにしようぜ。」


 まぁ、確かに面倒ではあった。とはいえ、あまり乱暴な言葉は使わない方がいいだろうな。


「…ああ、分かったよ。」


「じゃ、コレを。」


 ヴォルガが木製の剣を俺に手渡す。其れを受け取るとヴォルガが構えを取った。


「さぁ、先ずは模擬戦と行こうか。掛かってきな、クウ。」


 いきなり模擬戦って…、俺の剣の腕は分かっているだろうに…。


「じゃ、始め!」


 俺が構えを取ると、キールが開始の宣言をするが、如何行けばいいのか。


「とりあえず、打ち込んで来い!その方が、アドバイスしやすいからな。」


 ヴォルガの言葉に軽く頷いた俺は、地面を蹴った。


「む!?意外に早い!?」


 ヴォルガは一瞬驚いた様な顔をしたが、直ぐに切り替え俺が放った剣撃を打ち払う。


「くっ…。」


 剣を打ち払われて体勢を崩した俺は、反撃が来る前にバックステップで遠ざかる。


 流石は生粋の剣士だな、全然当てられる気がしねーわ。


 とは言え、攻撃を仕掛けないと訓練にもならないし、アドバイスも貰えない。なので、俺は果敢に攻め込む。だが、其の全てを見切られ最終的には剣を弾き飛ばされてしまった。


「ふむ…、思っていたよりは速さも力もあるな。だが、技術面はからっきしみたいだな。」


「ふう…ふう…はあ…。」


 肩で息をしている俺に対し、ヴォルガは汗一つ掻いてない。殆ど片手だけで捌かれ、回避に関しても体裁きだけで避けられてたもんな。


「よし!方針は決まった!やっぱり基本から勧める方が良さそうだ!」


 という訳で、俺の修行は素振りからになりました。とは言っても横にヴォルガが付いてくれているので可笑しな振り方をしたら、即訂正して貰う事が出来た。


 そんな感じで時間が過ぎて行き、日が沈みかけた所で今日の訓練は終わりとなった。


「町に戻るぞ。」


 ヴォルガの号令で皆が集まってくる、勿論離れていた場所で魔法訓練を続けていたユニやレイラも一緒だ。


「ん?」


 此方に近づいてくるユニとレイラの二人を見ると、どちらも顔色が悪かった。如何したんだろうと首を傾げていると、レイラが俺に近寄ってきた。


「クウさん、ちょっと良い?」


「え?ああ…。」


 レイラに腕を引かれ、他の連中から離れた場所に移動する。何かあったんだろうか?


「あの子の事なんだけど…。」


「ん?ユニに何かあったのか?」


 言い淀むレイラに続きを促すように目線を送ると、レイラは重々しげに口を開いた。


「あの子…、半魔人よ。」


「…何だそれ?」


 思わず聞き返すと、レイラは何で知らないの?と言わんばかりに驚いたように目を見開いて。


「極稀に生まれる、尋常じゃない魔力を持つ者よ!まさか、知らないっていうの!?」


 レイラは声を抑えながらも、感情的な表情で俺に食って掛かる。そして、半魔人の特性を説明していた。


「忌み子なのよ?あの子は!?」


 ああ、成程…。


「だから、何だ?」


「え…?」


「いや、だから、何の問題があるんだ?」


 俺の返答に、レイラは一瞬口を噤む。


「…怖くは無いの?」


「何処が?」


「半魔人なのよ?」


 そもそも、俺の中に魔神がいるしなぁ…。とは言え、一応ユニの為に言うべき事は言っておくか。


「別に…、ただ、ユニが怖いっていうのなら、そんなユニを捕まえた盗賊練習の方がヤバイだろ?んでもってその盗賊共をぶっ潰した俺達はもっとヤバイって事にならないか?」


「そ、それはそうだけど…。」


 この世界の住民じゃない俺にはわからない感情だが、個人的には気に食わない話だ。


「おーい!何時まで話してるんだ?早く帰るぞ!」


「ああ、今行くよ!」


 遠くから呼びかけてくるヴォルガに返事を返して、もう一度レイラと顔を合わす。


「そんなに怖いっていうのなら、修行が終り次第俺達は町を出て行くよ。其れで良いだろう?」


「え…?いや、クウさんは…!?」


「もう、俺はアイツの保護者だよ。あいつがいっぱしになるまで、俺は見捨てるつもりはない。」


 最悪、日本に連れ帰るか…。ヴィシュヌが起きてきたら一度相談しないとな…。


「そう…。ご、御免なさい!変な事を言ってしまって…。」


 レイラの謝罪に頷いて、ヴォルガ達と合流した。




――――――――…




 其の日の夜、ユニを連れて宿屋に戻った訳だが、夕食を済ませた後もユニの表情は暗いままだった。


「何時までそんな顔をしてるんだよ。」


「…その、私…知らなかったんです……。」


 成程?ユニも忌み子についての知識はある訳か。


「別にお前の正体が悪魔でも女神様でも良いよ。俺はそんな物は気にしないから。」


 俺がそう言うと、ユニは顔を上げる。


「ほ、本当ですか…?」


「ああ、とりあえず風呂でも入って来いよ。魔法を使わなきゃ、刻印は浮かばないんだろ?」


 半魔人は魔法を扱う時に体に刻まれている刻印というか紋様が光るらしい。ちなみにユニの刻印は内腿や二の腕に現れたそうだ。ちょっと見たい。


「はい…。」


 ユニを風呂に送り、俺は窓を開けて煙草に火を点ける。


「半魔人ねぇ…。」


 膨大な魔力を持つ魔法のエキスパート。確かに強大な力を持っていると考えれば脅威にはなる。


 だからって忌み子呼ばわりはあんまりじゃないか?とは思う。ただ、この世界の背景を俺は知らない、過去に半魔人達が何かしらやらかしている可能性はある。


 ただ、コレだけは言える、ユニには関係ないと。


「俺も風呂に行くか。」


……


………


 俺が風呂から戻ると、ユニも戻って来ていた。風呂上りだからか、女の子特有の良い匂いがして、髪の方も艶を帯びていて年齢の割には色気がある。


「少し早いけど疲れたし、そろそろ寝るか。」


 と言って、俺は自分のベッドに倒れ込む。部屋が同室なのは節約のためであって、何かを期待している訳ではない……。ないぞ?


 そんな事を考えていると、何やら衣擦れの音が聞こえてくる。ユニの寝巻きって買ってあったっけ?


「……。」


 無言で俺のベッドに潜り込んで来るユニ。そして、俺の背中に手を掛けていた。


「お前、なにしてんの?」


 同室は兎も角として、同衾は不味いっしょ?俺の精神衛生的にも…。


 ユニに自分のベッドに戻るように注意をしようと、体を向けると目の前は肌色一色だった。


「はっ……?」


 え?いや…、何この子!?って、反応するな!って無理だよコレ!?


 痛いぐらい反応しちゃいながらも、ユニの目を真っ直ぐ見据える俺。だが、何か言おうとする前にユニが俺に抱きついて来た。


「……クウさん、本当に私は一緒にいて良いんですよね?」


「ん、あ、ああ。」


 ちょっと待って!そんなにくっ付いたら反応してんのモロバレになるから!?


「ん…、あの、クウさん!良ければ私の体は自由に使っていただいても!」


「…あのな?別にそう言う事する為に、ユニを引き取った訳じゃないからな?」


 元はといえば、同情からの成り行きだ。ただ、忌み子と知った今となっては別の感情もあるが…。


 だけど、其の感情はどっちかっていうと娘に対するようなのもなので、こう迫られると困るんだが…、正直我慢出来なくなるし…。


「あ…。」


 俺はユニの背中に手を回り、優しく抱きしめる。下が当たっちゃっているのが多少問題ではあるが、そこは気合で欲望を押し込む。


「もう寝ろよ、ユニ。…傍に居てやるからさ。」


 ずっと傍に…という訳には行かないだろうけど、ユニが独り立ち出来る様になるまでは…とは思う。


 ただ、時が来れば俺は、この世界から離れる事になる。…その時になったらユニに選んで貰おう。


 この世界で生きるか、俺と共に来るかを…。



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