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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
2/24

神々に巻き込まれた少女



「ただいまー…。」


家に帰っても誰の返事も無い。

というか、返事があったら逆に怖いけど。


「お母さんは…今日も遅い…か。」


小学校の帰りに、スーパーに寄って食材を買い込んできた。

お母さんが忙しいから、家の事は私の担当だ。


「10歳で家事を一通りマスターしている私って、もしかして凄いのでは?」


なんて一人でドヤ顔を決めてみても、突っ込み不在じゃ虚しくなるだけだった。


「……さて、洗濯して夕飯を作らないとゲームする時間が無くなっちゃいますね!」



私はお母さんとの二人暮らしで、所謂母子家庭という奴だ。

父親の顔は知らない、生きているのかさえ。


お母さんは、中学生の頃に強姦されたらしい。

私がまだ小さい頃、親戚の集まりで酔った叔父が偉そうにそう話していた。


真雪、お前には汚らわしい人間の血が混ざっていると。


「如何考えても、子供に話す様な内容じゃないですよねぇ…。」


ふと思い出して、独り言の様に呟く。


洗濯物を干して、食事の用意も出来た。

お母さんの分は冷蔵庫にしまって、私は自分の分を持って自室に移動した。


「PCすいっちおーん!」


家にいるならスマホゲーじゃなくPCゲームをやるべきだ。

大体画面が小さくてやり辛いったらありゃしない。


「さて、今日は何をやりましょうかね!」




―――――…








5年生に上がった頃、ある日を境に、私は学校に行けなくなっていた。


母親が強姦されて、私はその時に出来た子供だという噂が拡散されてしまった。


親友や後輩が私を庇ってくれていたけど、男子連中を中心に嫌がらせが酷くなっていった。


幸い私は、母の勧めで幼少期から護身術を習っていたので、同世代の男子になんて負ける事は無い。

ロシアクォーターの親友は幼少時から剣術を習っていたし、流石に後輩の子達まで手が伸びる事は無かったのだけど…。


私が一緒にいると、回りの大人達にヒソヒソと陰口を叩かれる。

大事な親友や可愛い後輩達が傷つく事を嫌った私は、家に引き篭もってしまった。

だけど、ネット上ではやり取りを続けているので、友人関係が切れた訳じゃない。


「高校までの辛抱だ…。大丈夫、勉強はしているし遠くの学校に入れば元通りになる筈です…。」


むしろ、心配なのはお母さんの方だ。

まだ、20台中盤のお母さんは勿論結婚を考えている。

いい人を見つけたと言っていたのに、こんな噂が流れてしまっては…。


元々、私の存在が足を引っ張っているというのに、相手の男性は受け入れてくれるのでしょうか?




そんな私の心配を余所に、暫くして、お母さんの結婚が決まった。

いや、正確には顔合わせして問題がなければだけど…。

私は、お母さんの邪魔をするつもりは無いので相手方次第となる。

ただ、私は今学校に通っていないので其処をどう見られるかだけど…。


お相手の男性はバツイチで中学生の息子がいるらしい。

そこが私としては気になる所ではあるけど、流石に妹となる私に手を出したりはしない…と思う。

まあ、何かされそうになったら、思いっきり股間を蹴り上げようと思っている。


護身術ってすばらしい。


顔合わせの日、同級生親子と鉢合わせた。


「レイプ犯の娘がこんな所にいんじゃねえよ!」


往来で叫んだ同級生をその場で殴ってやろうかと思った。

事実私は一歩踏み出していた。


すると、そのクズの親が出てきたので謝ってくれるのかなと思っていたら


「そんなチャラチャラとした格好をしているから襲われるんでしょ?いい加減学習なさいな。」


今度はお母さんに向けて、ババアがイチャモンつけて来た。


お母さんの格好は身奇麗にしているだけで決して派手ではなかったのに。


「子供が子供なら親も大概なんですねー?お母さんが若いから僻んでいるんですかー?」


私が煽るようにババアに言葉を掛けると、お母さんは一瞬ぎょっとしていた。


「何なの、この子!?」


「娘がすみません。でも、貴方に言われる必要はないので何処かに行って貰えますか?これから人と会うんです。」


流石はお母さんだった。

ババアの顔が見る見るうちに赤くなって行く。


頭に血が上ったババアは、お母さんに平手を打とうとして振りかぶった。そして…


「この人に何をしようとしているのですか?」


「なっ!?」


突然現れた30台位の男性に腕をつかまれ、ババアは激高していた。


「アンタには関係ないでしょ!引っ込んでいなさい!!」


「そうはいきません。この人は私の大切な人です。それに殴ってしまえば傷害罪ですよ?」


「煩い!煩い!!」


「仕方ありませんね…。」


そういって男性は懐に手を入れ、何かを取り出す。


「私はこういう者です。良ければこの様な往来ではなく、落ち着ける場所でゆっくりとお話をお聞きしますが?」


警察官だ!…お母さん何処で知り合ったのですか…。


流石に旗色が悪いと思ったのか、ババアの顔が引き攣っていく。


そして、その場から離れようとして進路を塞いでいた私を突き飛ばした。


「痛!何をするんですかっ!?」


咄嗟に手を出さなかっただけ、感謝して欲しい。

そう思って顔を上げると…私の元に赤い光が降って来た。




――――――…









気が付くと私は、見知らぬ部屋で眠っていた。


「え…?此処は…?」


木造の小屋の様な…、でも備え付けられている家具は普通の民家に見える。


「あれ?確か…、お母さんと一緒に…。」


暫くベッドの上で呆けていると、少し上に見える外国人の女の子が私の元に駆け寄ってきた。


「~~~!~~~~?~~~~~!?」


「え?何て…?」


英語かな?いやでも、それなら多少は解かると思うんだけど…。


聞きなれない言葉に困惑していると、お姉さんと思われる妙齢の女性が駆け寄ってきた。


「~~~~!~~!?」


やっぱり解からない…。


向こうも言葉が通じていない事が解かったのか、今度は手振り身振りでジェスチャーを伝えてきた。


「えっと、…?何処か痛いところ無い?ですかね?」


合っているかは解からないけど、とりあえず首を振る。


するとお姉さんは安心したように微笑んだ。


そして、彼女は一度お腹に手を当ててから何かを食べる様なジェスチャーを送ってくる。


コクコクと頷くと、お姉さんは一度笑顔を見せてから、部屋を出て行った。


お姉さんがいなくなると、今度は妹さんの方が本の様な物を見せてきた。

そして、文字に指を指して、訴えるような目で此方を見てくる。


「…読めませんね…、あ!読めるかって聞いているのでしょうか?」


そうだと思って、首を横に振ると意を決したように立ち上がって、部屋から出て行った。


「え?私はどうしたら…?」


暫く待っていると、お姉さんがパンとスープの様な物を運んで来てくれた。


私は頭を下げてお礼を言う。

ちゃんと此方の意図は通じているようで、お姉さんは微笑んでいた。


食事が終わった頃、片手に本を持った妹さんが戻って来た。

そして、私の手を取って庭の様な所に出る。


「えっと…?」


妹さんは立て掛けてあった箒を手に取り、本を広げている。


そして本に書かれた文字を指差し、箒を私の目の前に出した。


「~~~。」


「え?」


「~~~。」


あ、これもしかして…


「『ほうき』ですか?」


出来るだけ発音を似せて言ってみた。


すると彼女はコクコクと頷いて、次は鍬を手に取る。


「~~。」


「『くわ』」


こくこく


やっぱり、彼女は私に文字と言葉の発音を教えてくれているらしい。


そうと分かれば、しっかり覚えないといけませんね!


それから、妹さんの指導で色んな単語を覚える事ができた。

そして、夕方頃にはお姉さんが出てきて、薪割を始めたので手伝いを申し出た。

勿論まだ会話が出来ないので、単語だけのカタコト会話になったけど、なんとか通じたらしい。


「ただ飯を食らうわけには行きません!」


そう意気込んで薪割りを始めたら、思っていた以上に斧が軽くて、私はサクサクと薪を作った。

其の様子を見て、何やら驚いていたようだけど、こんな軽くて切れ味の良い斧なら誰でも簡単に出来ると思う。


其の後は、帰ってきたご両親に単語だけの挨拶をした。

どうやら、私を見つけたのはご主人だったらしく、私の快復を喜んでくれた。

そして、ご主人はこの村?集落?の長だったらしい。


夜になり、ベッドを借りた私は現状を考えていた。


「やっぱりこれは異世界転移ですよね…。」


窓の外に見える二つの月を見ながら呟く。


原因はあの光?それ以外考えられない。


「ふう…、異世界転移ならせめて現地の言葉ぐらいは付与して欲しかったです…。」


そう愚痴って、私はベッドに潜り込んだ。



―――――――…









私が此処に来てから、二ヶ月以上が経過していた。


「ふふふ、流石私です!」


あの日から薪割りは私の仕事になっていた。だけど、それ自体は30分も掛からないので後は自由時間だった。

妹さん…シエルさんから読み書きと会話を習い、今では日常会話を出来るまでになっている。


ちなみに、村長さん夫婦が忙しい時は料理もしている。

お姉さんのセレナさんは簡単な料理しか作れなかったらしくて、私が料理を教えている立場だ。

勿論、お約束通り香辛料は高くて、私の好物は作れなかったけど、路頭に迷って死んでた可能性を考えれば十分マシだった。


そして、更に一月が経とうとした頃、事件が起きた。


「この村に、黒髪黒目のよそ者の娘が居ると聞いた!其の娘を差し出せ!!」


村人達を兵士で取り囲み、騎士の様な男が叫んでいた。


如何考えても、私の事ですよね…。お世話になっている皆さんに迷惑を掛けたくはないのですが…。


村長さんをはじめ、村の人達が黙っていると痺れを切らしたように騎士が叫んだ。


「貴様ら!悪魔の子を庇うつもりなら容赦はせんぞ!抜剣せよ!!」


騎士の指示で剣を抜いた兵士達。それを見て村の人は戸惑う…。

…でも、誰も私の事を言わない……。


「揃いも揃って私に逆らいおって…!しょけ「待ってください!!」」


「「「なっ!?」」」


飛び出した私を見て、村長さん達は驚いていた。


見ず知らずの…言葉さえ通じなかった私にこんなにも親身になってくれた…


私は震える体を奮い立たせて、騎士を見据える。


「出てきたか、悪魔の子よ。」


「村の人は無関係ですよ?それに感情的に殺してしまえば、貴方達が困る事になるんですよ?」


「知ったような口を!?」


「…この村からの税が無くなりますよ。」


怒り狂う騎士に、現実を突きつけた。

すると、騎士の男は苦い顔をしながら兵士に告げた。


「この娘を連行しろ!神都に戻るぞ!」


『ハッ!』


兵士達が納剣して私の所へやって来る。


「ま、マユキ!?」


「…お世話になりました…。」


私はそれだけを言って、兵士達に連行された…。




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