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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
19/24

ユニ

真雪の時系列に追いつく為にしばらく空のシナリオが続きます。時系列が進めば、真雪以外のシナリオも挟んでいくつもりです。



 朝、うん朝だ。まだ日は昇ってないけど。


 俺が今居る場所は町の宿、盗賊団のアジト襲撃からは丸一日経っている。


 昨日は一日大変だった。何が大変だったかって言うと後処理の方だ。盗賊連中は思ったより簡単に潰せたからな。


 先ず面倒だったのは、連中が溜め込んでいたお宝についてだ。


 前回襲撃したアジトには特に何も残っていなかったが、今回は違った。それなりの銀貨と少量の金貨、宝石類、そして調度品やマジックアイテムなど…


 それらは基本的に討伐者が獲得しても良い物ではあるが、一部面倒な手続きが必要になる物がある。持ち主が買い戻しをする場合があるからだ。


 だが、貨幣やアクセサリーなどに加工されていない宝石類、又、魔石と呼ばれる物は問題ない、単純に自分の物と証明する手段がないからだ。なので、これらは討伐者が獲得しても問題ないのだ。


 ヴォルガ達は買い戻し人を待ってはいられない、彼らの主人はラズベール伯爵家に雇われた傭兵、今回の盗賊団討伐は夫人が狙われている可能性があるから行っただけだ。


 俺としても、面倒事には関わりたくない。ヴォルガ達の話によれば、高確率で貴族や大商人を相手にしないといけなくなるらしいからな。


 なので、俺達が回収したのは現金と持ち主が分からない宝石類のみで残りは傭兵ギルドに丸投げした。


「……何をしている?」


 俺は毛布を捲って、不審者に声を掛ける。


「……。」


 ふごふご言って、何言っているのか分からない、とりあえず、離れるように。


「…ご不満でしたか?」


「いや、不満というか、吃驚したというか…。とりあえず、手も離しなさい。」


 俺がそう言うと、悲しそうに手を離す少女。この子が次の問題だ。


 この子の名前はユニ、年齢は12才。盗賊団に捕まっていた子供の一人だ。


 不思議な事に子供達3人は特に怪我も無く、無事に保護出来た。その事を疑問に思っていたら、大事な商品を傷つける訳がないと説明された。勿論、人質にされる可能性はあった訳だが。


 先程説明した物を回収して、夜が明ける頃には町まで戻って来ていた。そして、そのまま傭兵ギルドに説明、子供達を預けて宿に帰った。


 宿屋で寝ていたら、昼頃レイラに叩き起こされた、ドアをガンガン叩かれて…。何でも、子供達の様子を見に行きたいらしい。


 ギルドで保護者を探してくれるのだから、俺達は行かなくてもいいと思ったんだが、其れは無責任だと言われた。


 結局、俺達はギルドに顔を出すことになった。ギルドに着くと、保護者らしき人達が来ていて、子供達が泣きながら抱きついている所だった。


 ……ただ、それは男の二人だけの話。一人その場に残ったユニは悲しそうな表情で俯いていた。


 そして、追い討ちを掛ける様に『彼女の保護者は見つかりませんでした、孤児院はいっぱいですし、このままだと浮浪児になってしまいます。』とギルドの女性が話す。


 この時に呟いた俺の言葉が悪かった、いや、良かったのか、ユニが俺に抱きついて来た。そして、ユニは口を開く。


 『私を連れて行ってください!何でもしますから!』


 そう、何でもしますからと言ったんだ、それで今朝の行動だろう。


「所で、そんな事何処で覚えたんだ?」


「昨日、ギルドのお姉さんに事情を説明していたので…。」


 どうやら、ギルドの女性が犯人らしい。出発前に文句を言っておくべきか…。


「…迷惑でしたか?」


 なんて言えば良いのだろうか?ユニは見た目は悪くない、むしろ可愛いと思う。暗めの赤色の髪だが顔の造詣は東洋人っぽい。結構好みではある。なので、ユニの行動は嬉しくもあり…。


「あ、あの、もっと上手くなりますので!」


 そして、そのまま手を伸ばし、先程の続きをするユニ。油断していたので止める暇の無かった…。


・・・・・・


「…とりあえず、これで顔を拭け。あー拭いたら、お湯とタオルを2セット貰って来てくれ。」


「はい!分かりました!」


 元気よく返事をして、部屋を出て行くユニ。ちなみにだが、ユニとは同室だ。


 元々、一人部屋に泊まっていたので、ユニはレイラの部屋に泊めてもらうつもりだったんだけど、何故か部屋ごと交代する事になった。


 曰く『ユニちゃんはクウさんに懐いているんだから、部屋は一緒の方が良いでしょう?』とレイラが言い放った。意味が分からない。


 ついでに説明しておくと、今の俺の容姿は大分若返っている。ヴォルガ達に会った頃は20台後半ぐらいの容姿で今は20代前半ぐらいになっている。ソウルドレインの影響だ、なので、色々元気になっているのも仕方ない。


 そういえば、夫人に報告に行った時にやたらジロジロ見られたな。一緒に行動していたヴォルガ達は気付かないようだが、夫人には気付かれたかな?いや、違和感を感じているぐらいか。


「戻りました!」


 宿の従業員を連れたユニが戻ってきた。俺は従業員に金を払い、湯の入った洗面器をタオルと一緒に受け取る。


「片方はユニが使え。」


 本当は風呂に入りたいのだが、この時間じゃ使用出来ない。使えるのは夜だけだからな。


 そんな事を考えていると、ユニがおずおずと俺に問い掛けた。


「私に…?そんな、クウ様が使ってください。」


「クウ様はやめろって言っただろう?良いから使えよ。ったく、こっち来い。」


 昨日の一件でユニとの押し問答は時間の無駄だということは分かっているので、無理やり顔を拭く。


 う、結構べとついてる…、すまん、ユニ。いや、こいつが勝手にやった事なんだけど。




――――――――…





「ゆうべは楽しめたか?」


 ニヤニヤした顔で俺とユニを見るキール。其の表情がかなり鬱陶しい。


「ほら、行くぞ。今日中には領都に戻るからな。」


 ヴォルガの言葉で全員が乗り込む。夫人はレイラと共に先に搭乗していた。


「アンナ様、出発してもよろしいですか?」


「ええ、出しなさい。」


 ようやく出発だ。盗賊の件があったので結構な足止めを受けてしまったが、いよいよ港町まで行ける。というか海魚が食える、楽しみだ。


 街道を進む馬車の中で、ふと思い出したようにレイラが口を開いた。


「そういえば、クウさんって普通の魔法は使わないの?」


「えーと…、習った事ないんだよ。俺のはちょっと特殊だから。」


 正直、返答に困った。でも、使えないのは本当だしなぁ…。


「え!?あれだけの事が出来るのに!?……そっか、私で良ければ教えようか?」


 お!それはありがたい!あ、ユニも興味津々って感じだな。


「ああ、教えてもらえるか?出来ればユニにも。」


 俺がそう言うと、ユニは一瞬驚いた顔を見せて、俺に向かって幸せそうに微笑んだ。


「構わないわよ。じゃあ、ユニちゃんにも教えるわね!」


「よろしく頼む。」


「おいおい、馬車の中ではやめてくれよ?」


「分かっているわよ!って、あ!アンナ様、騒がしくしてしまって済みません!」


「いえ、良いのですよ。」


 夫人は優しそうな表情でレイラに微笑む。うーむ、美女の微笑むと絵になるなぁ。


 ちなみにダラスとキールは周辺の警戒。俺とユニは完全にゲスト扱いだ。…まぁ戦闘になったら借り出されるだろうけど。


 なんて警戒していたが其の日は特に何起こらず、無事に国境を越えることが出来ていた。そして夜の野営時に


「俺達の見張りの時間は最初でいいですか?」


「構わないが平気か?」


「ええ、夜更かしには慣れているので。」


 正直、途中で起こされるほうが辛い。ちなみに見張りは3時間交代だ。3組に分かれるんだから6時間は眠れる計算になる。…何も起こらなければ。


 そんな訳で、皆には早々に寝てもらう事にした。ヴォルガ達は多少の不満があったのだろうけど。


「……。」


「……。」


「………。」


 俺の横にはボーっと焚き火を見つめているユニがいる。皆が寝ていることを気遣っているのか物音を立てずにじっとしていた。


「……。」


「…ユニ、そんなに気を張らなくても大丈夫だぞ?」


「…え?でも、皆さんが寝てますし。」


「大丈夫だよ、ああそうだ、音楽でも聴いてみるか?」


「へっ?」


 音発生の異能で記憶の中にある音楽を再生させる。見張りの仕事があるので音は小さめだったが、ユニは驚きのあまり目を見開いた。


「え?…えっ!?」


「一応俺の魔法みたいなものだ。」


「そ、そうなんですか!?すごいで…あっ!?」


 興奮して声を上げてしまった事に気付いて、ユニは慌てて馬車の方を見る。


「大丈夫だよ、聞こえやしない。」


「…それも魔法ですか?」


「まぁ…、そんな所だ。」


 あれだけ騒いだのに、誰も気付かない様子を見て、ユニもようやく安心したような表情を見せる。


 其の後は、二人でまったりしながら見張りを続けた。緊張感が無さ過ぎ?それには理由があるんだよ。


 その理由って言うのが、またまた俺の音の異能。周囲30Mから50Mまでの音を拾っているんだよ。だから、不自然な音が聞こえてくれば直ぐに気付く事が出来るんだ。


 効果範囲が向上したのはやはりソウルドレインの影響だろう。あれだけの人数を殺した訳だからな。少しは使える能力になってくれないと流石に困る。


 そんなこんなで見張り時間はあっと言う間に終わり、ヴォルガ、キール組と交代の時間になった。


「交代だ、休んでくれ。」


「はぁ…、なんで俺の相方は女の子じゃないんだよ…。ってぇ!?」


 不満を漏らすキールの後頭部をヴォルガが小突く。まぁ、キールの気持ちも分かる、わかるが…ヴォルガも同じ事思っていると思うぞ?だから、口に出すなよ。


「じゃあ、後は御願いします。」


「お休みなさいです。」


 と、何処で寝るか…、やっぱりヴォルガ達みたいに馬車の横かな?ユニは兎も角、女性二人が眠っている所には入れないからな、ダラスの所に行くか。


「あ、起こしてしまいましたか?」


「ん、いや、問題はない。あいつらが移動した時に起きたからな。」


 そう言ってダラスは再び目を閉じる。


「ユニは馬車の中に…。」


「いえ、マスターの隣で御願いします。」


 ええ……。いや、別にいやではないんだけど、ユニって油断出来ないんだよな。流石に屋外で変な真似しないよな?


「…仕方ないな。」


 そう言ってマントを広げるとユニは嬉しそうに俺の真横に座る。其れを確認してから、俺は毛布を掛けた。


 何だかんだ言っても少し期待をしてた俺は、直ぐに寝入ってしまったユニを見て心底残念な気持ちになっていた。


 いや、良いんだけどね。




――――――――――…




 翌日も旅路は順調だった。うん、何も起こらない。あまりに何も起こらないから思わず聞いてしまったよ。


「いや、主要街道は定期的に領軍が回っているし、先日みたいな盗賊団が出てくる方が珍しいんだからな!?」


 と、言う事らしい。ちなみに小規模な盗賊は稀に現れるらしい。


 あ、そうだ!盗賊団なんだけど、どうやら最初の襲撃でボスを殺っちゃったみたいなんだよね。正確にはヴォルガ達が突入した時に。


 あの時に弓を構えてた奴、アレがボスだったらしい。なので情報は入らないまま事件は終ってしまったと。


 そんな事もあって、ラズベール伯爵領の領都ゼクスミルまでの1週間は特に事件らしい事件がなかったのである。


 ゼクスミルに着いた翌日、俺はヴォルガに呼び出されていた。


「レイラから魔法を教えて貰うんだろ?それはそれで良いと思うんだが、剣の訓練もした方がいいんじゃないか?」


「お、それはヴォルガさんが教えてくれるって事ですか?」


「まぁ、ただじゃねえけどな。」


「ええ…。」


 有料か…、まぁ、生活か買ってるだろうしな。


「何、金を取ろうって話じゃねえよ。ただ、採取や狩猟にも行くから荷物持ちを頼みたいんだ。」


 ふむ…、魔法の訓練も町の外でやらないと不味いだろうし、断る理由もないよな。


「分かりました、御願いしますね。」


「じゃ、午後から採取と狩猟に向かうから、昼食後に西門に来てくれ。」


 おお、早速か!つっても剣の修行か…、うーむ。


 身体能力は向上しているし、剣が使えた方が良いのは分かってんだけど…、俺のメイン武器って刀なんだよな。まぁ、目立つ所じゃ使えない訳だけど。


 ヴォルガと別れた俺は、宿で借りている部屋まで戻ってきた。準備もあるけどユニにも説明しないといけないからな。


「と言うことなんだけど、ユニも行くか?」


「はい!あ、私も剣を習ってみたいです!」


「ん?んー…。」


 小さい子に剣なんて…とは思ったけど、12歳なら其処まで子供でもないか、この世界じゃ15歳で成人な訳だし。


「んじゃ、ユニ用の剣も買わないとな。」


「よろしいのですか!?」


「あ、ああ。」


 そんなに剣が欲しかったのか?まぁ、今回の依頼でかなり潤ってるから、なるべく良い剣を買ってあげよう。


 俺達は外出の準備をして、宿を出る。そして、先ずは武器屋に向かった。


「ふむ…。此処に出ている剣ならどれを買ってもいいぞ。」


「ふぇ!?どれでも良いのですか」


「ああ、でも、自分で使える物じゃないとダメだぞ。」


「はいっ!」


 ざっと見てみたが、最大で小金貨3枚程度だ。手元には金貨が20枚以上あるし、銀貨は皮袋3袋分ぐらいはある。ユニが戦えるようになったら銀貨袋を一つ預けてもいいだろう。……重いし。


 にしても、ようやく落ち着けたなぁ…。この世界に来てから死線を潜ってばかりだったし、逃亡生活が続いていたから今の状況が不思議に思えるよ。


 異世界に来て、一応仲間っぽい人は出来たし、ユニみたいな可愛い子にも懐かれたし…。そして、今日から修行開始だ、うん感慨深い。


 感傷に浸っていたら、ユニが武器を決めていた。選んだのはスタンダードな剣だったけど、物は良さそうだ。


「使えそうか?」


「えっと、大丈夫そうです!」


 うん、ちゃんと持てている様だし、思ったより軽い剣なのかもな。お値段も小金貨2枚とそこそこの値段だし。


 というか、ユニって口では遠慮しているけど、安物は買わないんだな。良いけどね。


「毎度~。」


 武器屋の親父さんに見送られて俺達は店を出る。ちなみに俺も買い物はしている、訓練用の木剣が置いてあったからそれを2本。


 其の後は、屋台を回って適当に食事を済ます。その際、訓練時のおやつ代わりで食べる肉串を買うのも忘れない。


「お、来たか。」


「「お待たせしました。」」


 ヴォルガ達と合流して、西門を潜る。魔法の訓練、めちゃくちゃ楽しみだ。


 修行開始!そう意気込んで、西の森へ向けて歩いていった。


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