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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
18/24

襲撃される盗賊団


≪ヴォルガ≫



 仮眠を済ませ、遅めの夕食を取った後、俺達はアジトに向けて出発した。


 俺達の目的は、盗賊団の殲滅。本来であれば人数を揃え、磐石の布陣で挑むべきだろう。だが、今回は俺達5人だけだ。


 無茶にも程がある…と言いたい所ではあるが、俺達の主が狙われている可能性がある以上、遣り遂げるしかない。


「盗賊共だ…!」


 斥候役として前に出ていたキールが、声を潜めながら俺達に注意を促す。


「二人…ね。如何する?」


 盗賊二人ぐらいであれば本来俺達の敵ではない。だが、今回の相手は色々疑問が残る、奴らの狙いが本当に主であるのならただの盗賊とは思えないからだ。


「うーん、此処ならいけるか。」


「え?クウさん?」


「…お前が行くのか?クウ。」


 レイラとダラスが驚きながらもクウに問い掛ける。それは当然の反応だろう。何せ、クウは森の歩き方からして素人だ、それに出発前に少し動きを見たが多少素早いものの戦いを知る者の動きではなかった。


「大丈夫、やれますよ。」


 そう言って、少し何かを呟きながら森の中を移動していくクウ。


「…おいおい、あれじゃ、絶対気付かれちまうぜ…!」


「不味いな、アジト襲撃の策があるのはあいつだけだ、直ぐにフォローするぞ。」


 俺達は一度頷き、クウの元へ向かおうとすると、何か違和感を感じて足を止めてしまった。


「え…?嘘?」


 レイラが目を見開いて驚く、俺達三人も同様だろう。


「…何で、あれで気付かれてねえんだ?」


 キールの呟きの通り、あれで気付かれないのは可笑しい。クウの今の位置は敵の真横だ。木で身を隠しているとはいえ普通は”音”で気付かれる筈。


「あ、一人、倒した。」


「…何故、悲鳴を上げない…!?」


「マジかよ…、傍に居る奴がクウに気付いてねえぞ…!?」


 先程から俺達の前では以上な光景が繰り広げられている。盗賊はクウに首を掻っ切られたというのに悲鳴も呻き声も上げていない。

 

 そして、音も無くもう一人の盗賊が首を切られて崩れ落ちた。


「…あいつ、暗殺者アサシンか?」


「いや、…あの動きでか?」


「…何かの魔法かしら…。」


 仲間達が口々に予想を立てている。


「兎に角、合流しよう。」


 そう言って、クウの元に向かうと、彼は盗賊達の死体を調べている最中だった。


「…クウさん、よく触れるわね…。」


「ん?ああ、別に平気って事はないですよ。俺だって極力触りたくない物ですし。」


「それで、何か分かったのか?」


 死体を調べているのは、クウもこの盗賊達の事を怪しんでの行動だろう。そう思って聞いてみたのだが


「?何のことです?…お、あった。」


 何を言っているのか分からないと言った表情で、死体を漁るクウ。そして、見つけた銀貨袋を取り出してご満悦の表情だ。


 …今更だが、こいつを信用しても良いのか?いや、敵であるならそもそも主を助けたりしないだろう。正直、あの襲撃時にクウが現れなければ俺達は全滅していただろうし…。


「さて、そろそろ向かいますか。」


 そう言いながらクウは立ち上がる。


「あ、ああ。」


 クウに気圧された俺達は、彼に促されて移動を再開する事に。


「なあ、クウ…、さっきのは?」


 死体漁りの件は兎も角、さっきの戦闘は気になる。


「さっきのって、何の事です?」


 何の事だ?と首を傾げるクウ。やはり、説明はしてくれないか…。

 だが、クウが夜襲に拘った理由は分かった。魔法か何かは分からないが、隠密に特化した能力という事なんだろう。


 そのまま暫く進み、後少しでアジトに到着した頃、俺達は4つの人影を見つけていた。


「…あの格好からして、連中の仲間ですね。」


「クウ、お前この距離で見えるのかよ。」


「まぁ…、夜目が利くので。」


 見通しの悪い森の深夜で、しかも30メートルは離れている。キールが驚くのも無理は無い。


「…見張り…ではないな。夜警と言うところか。」


「だろうな。」


 俺はダラスの言葉に相槌を打つ。


 さて、如何するべきか。先ず、連中をやり過ごすという手があるが、これは悪手だろう。連中が戻ってきた時に制圧が終っていなければ挟撃されると言う事になる。


 だが、戦うにしても、此処では無理だ。間違いなく、音で気付かれちまう。となれば、少し離れた場所まで後をつけて、其処で始末するというのがベターか。


 そんな事を考えていると、不意にクウが口を開いた。


「レイラさん以外の4人で一人一殺というのがベストでしょうね。不意をつければ俺でもいけますし。」


「「「「はぁっ!?」」」」


 クウの言葉に思わず俺達は声を上げてしまった。直ぐ後に不味い!と思いつつ周囲を確認して見たが、どうやら気付かれなかったようだ。


「はぁ…、バレたかと…。」


 俺達が安堵の溜息をついていると、クウが得意げな表情で話を続ける。


「問題はないですよ。ただ、俺から10メートル以上は離れないでくださいね。」


 其の言葉に俺達ははっとなる。ついさっき大声を上げておいて気づかれなかった、つまりそれは…


「そう言う魔法が…?」


「まぁ、そんな所です。」


 意外にあっさりと喋ったなと思う。というか、先程は質問を理解してなかっただけか。…そういえば、俺もはっきりと言ってなかったからな。


「此方の姿を見られるのは不味いので、連中が背後を見せたら近づきます。”此方の音”は気にしなくてもいいです。無論、相手の悲鳴も。」


「わかった。レイラ、此処で待っていてくれ。」


「…ええ、気をつけてよ?」


「分かってる。」


 木陰に潜伏し、連中が通り過ぎるのを待つ。そして、背後を見せた途端に、クウが盗賊に切りかかった。


「がぁっ…!?」


「な!?如何した!?」


「敵だ!!アジトに知らせろ!」


 仲間を殺され、狼狽した盗賊達が口々に叫ぶ。


「無駄だ!」


「叫んでもダメみたいだぜ?」


「フンッ!」


 奇襲は上手く行き、俺達は苦も無く連中を切り伏せていた。


「…本当に気付かれてねえな。クウの魔法?やばくないか?」


「外部に音を漏らさない魔法か…。目視されていると意味ないのだろうけど、奇襲時には相性良過ぎるな。」


「そうだな、気配を感知する時に音は必要だ。…で、クウは何をしている?」


 ダラスの言葉でクウが居る方を見ると、俺達が倒した盗賊達にトドメを刺している所だった。


「離れると効果が無くなりますからね。リスクは減らしておかないと。」


 確かにそうなんだが…、動けない相手の首を躊躇い無く掻っ切る姿は恐怖でしかない。


「あー、こいつらの金如何します?」


「好きにしていい。あっさり倒せたのはクウのお陰だからな。」


 俺がそう言うと、『そうですか?』と言って自分の銀貨袋に金を移し替えるクウ。


「じゃ、次は見張りですね。レイラさんと合流しましょう。」


「ああ。」




 夜警と思われる4人の盗賊を倒してから10分程度、俺達は見張りの様子を窺っていた。


「まだ、行かないのか?」


「…そろそろ、交代の時間みたいですね。其の後の方が良いでしょう。」


「……それも魔法か?」


「まぁ、そんな所です。」


 そう答えたクウを見た後、俺達は顔を見合わせる。


 俺は魔法に関しては詳しく無いが風魔法なら可能性はないかと考える。


 確か、遠くに声を送るという魔法はあった筈だ。多分、クウの魔法は其れを利用しているのかも知れん。


「見張りの交代が来たわね…。それで、どのタイミングで?」


「10分ぐらいは空けた方が良いかと。」


「そうだな、上手くいけば今戻って行った二人も寝るかも知れないな。」


「だけど、どうやって見張りを排除する?さっきみたいにふいをつけないから叫ばれる可能性が高いぜ?」


 確かに…。とは思ったが、クウの顔を見ると考えがあるらしい。


「時間が来たらそのまま襲撃を、ただ、今回は声を上げないで下さい。入り口付近…あの見張り達の周囲に魔法を張ります。」


「そんなことも出来るのか…。分かった、合図は任せる。」


 俺の言葉にクウが頷く。そして、10分が経過した頃…


「な、何だ!?」


「敵襲ーーーーーー!!!??」


 狼狽し叫ぶ見張りの盗賊。だが、クウの魔法のお陰で声が届いてないらしい。


「ぎゃっ!?」


「ぐあっ!?」


 俺達が盗賊達を切り伏せ、クウが短剣で首を掻っ切る。流石に、此処では間違いなくトドメが必要だろうからクウの行動も間違えていないだろう。


「じゃあ、行きましょうか。暗闇でも多少見通せるので、俺が前に出ますね。…道中で出くわしたら御願いします。」


「ああ、ちなみに音の方は?」


「俺の周辺で。」


「分かった。」










≪空≫



 さて、ようやく突入だ。全員寝てりゃ楽なんだけど…。にしても、トドメを刺してた時にはドン引きされてたな。そりゃ俺も非情だとは思うけどさ、色々あるんだよこっちにはさ!


「…何人までなら請け負えます?」


「…場所による。今居る通路であれば10人そこそこは止められると思うが…。」


 そしてこれが、部屋…開けた洞窟内の大空洞の中を高い位置から見た時の会話だ。


 つまり、起きている連中が多いって事だ。


「流石にこの人数で全員寝ているって事はないか。」


 ヴォルガの言葉に、俺の見通しが甘かったなとは思う。


「…あれは如何する?」


 ダラスが言う、あれと言うのは檻に入れられた三人の子供達だ。男の子二人に女の子一人。年の頃は三人共10才から12歳程度という所か。


「多分、”商品”って所だろうな。だが、あの子達を盾にされる事も十分在りえる。」


 そのヴォルガの言葉を聞いて、顔を青くするレイラ。さぁ、考えどころだ。


「……先ずは寝ている連中から始末します。幸い中は薄暗いですし、寝所のあたりは明かりが点いていません。」


 寝所で寝ている連中を排除出来れば、残りの起きている連中は10数人程度だ。しかもどいつも酔っていて足元がおぼつかない奴や泥酔している奴もいる。


「子供達は如何するの…?」


 レイラが不安気な表情で聞いて来た。


「可能な限りは…、でも、優先順位は高くないですよ。」


 俺がそう言うと、レイラはギリっとした表情を見せたものの仕方なしと目を伏せた。


「あ、そうだ、レイラさん。身体強化魔法とか使えます?というか掛けれます?」


「え?うん、あまり得意じゃないから、あまり効果は高くないと思うけど…。」


「じゃ、其れを御願いします。」


「分かったわ…。その、本当に効果はそれ程強くは無いからね?」


 そう言って、レイラは詠唱をはじめ、俺に身体強化魔法を掛ける。


「じゃあ、行って来ますね。上手く処理出来たら、子供達の所へ向かうので、皆さんは其のタイミングで突入してください。其方に目が行けば、数人は殺れると思うので。」


「あ、クウ。出来れば2,3人は生きたまま捕らえたい。」


 背後関係を聞く…と言った所か。


「余裕があれば…。」


 そう答えると、ヴォルガは『まぁ、そうだよな。』を返していた。


「行きます。」


 そう宣言して、俺は大部屋に向かって駆け降りていく。勿論、俺の周囲の音は全て遮断し影の中を移動している。支援魔法と道中で殺した盗賊達のお陰で、俺の身体能力は驚く程向上していた。


 此処まで動ければ、陸上競技に出ても結構良い所まで行けそうだなと思うが、今は余計な事を考えている場合じゃない。


 無事寝所に辿り着けた俺は、一人、また一人と命を刈り取っていく。


 ”遮断”され悲鳴を上げる事も許されずにいや、実際には悲鳴は上がっている。だが、其れは周囲に届かない。誰にも気付かれる事もなく死んでいくしかないのだ。 


 慎重に慌てず、ただひたすらに人の命を刈り取る。傍から見たら狂気の行動だろうが、俺はとっくに壊れて(慣れて)しまっている。


 そして、首尾よく寝所の連中を全滅させた頃、酒に酔って千鳥足になっている盗賊が寝所に足を踏み入れてきた。


「ん?」


「…!?…!!!??」


 周囲の異様な光景を見て、叫び声を上げている男。だが、”遮断”さえ間に合えば、叫び声なんて聞こえる訳がない。


 俺は恐慌状態に陥っている男の首を、素早く切り裂く。苦悶の表情を上げ、そのまま倒れてしまうが先程の状態なら不思議には思われまい。


 寝所を制圧した俺は、そこらに居る泥酔者にトドメを刺して行き、子供達が囚われている檻へと向かう。


 そして、其のタイミングを見計ったように、ヴォルガ達が大部屋に乱入した。


「な!?何だてめえらは!?」


「此処を何処だと思ってやがる!?」


 そして俺は、急に現れたヴォルガ達を見て狼狽していた男達の首を掻っ切る。これで残りは9人だ。後はタイミングを計って一人ずつ倒していこう。


「と、子供達は…?」


 ヴォルガ達と盗賊が全面対決に入ったので、一度子供達の様子を確認する。檻の中を覗き込むと3人の子供達は寄り添うように眠っていた。


「…特に外傷はないか?……いや、わからんか。」


 特に女の子の方は何があっても可笑しくはない。


 クソが…と呟きながら、八つ当たり気味に近くで弓を構えている男の首に短剣を叩きつける。思いの外力が入っていたのか、其れだけで首が胴から転げ落ちた。


「うわっ!と…、何だ?何を踏みつけ……!?」


 ソレを見た瞬間、男の貌が蒼白になる。そして…。


「ぎゃあ!?」


 呆けているところにダラスの剣が直撃し、男は胴から真っ二つになる。どうやら、大勢が決したようだ。


 ヴォルガ達が生き残りを引っ張って来ている。さて、尋問の時間だな。それにしても…、子供達が眠っていて本当によかったよ。うん。


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