休日
今日は休養日です。日頃から、訓練特訓訓練特訓魔物退治、そしてまた訓練…。
其れは其れで楽しんでいたのですが、ふと考えて見ると、私は街で遊んだ事がなかったのです。
なので、週に一度くらいは休養日にしようと考えて、街へ遊びに来ていた訳なのですが…。
「マユキちゃん!僕も今日は非番なんだよ!一緒に街を回らないかい?色々案内するよ!」
此れが今の悩みのタネだ。私の傍には、美麗な顔をした金髪のお兄さんがいる。
彼の本業は騎士で、男爵家の三男らしい。そんな人が何故か私に付き纏っている。それは年頃の女性なら誰もが羨む様な光景なのかも知れない。
だけど私にとっては、ただの変人だ 私の実年齢を知っている癖に、普通に言い寄ってくるし、模擬戦で叩きのめしても悦ぶ…。正直、私の手には余る相手だ。
「あの、アベルさん?私に付き纏うのは止めて貰えませんか?」
「いやいや!最近マユキちゃんを付け狙う変態共がいると噂があるんだ!一人じゃ危ないよ!」
鼻息荒く、そんな事をのたまうアベル。だけど、私は知っている。
噂の変態共と言うのは、団長のユリウスさんを除く騎士団全員の事だ。当然其処にはアベルも含まれている。
彼らは訓練を続けている内にいらんものに覚醒したらしく、私に叩きのめされるのが快感になったらしい。
そんな話をユリウスさんやフォルバク子爵様から聞かされた時は、私も唖然となった。
ただ、幸いな事に騎士団の練度は上がったらしい。実際、私の瞬動術にも反応出来る様になった騎士もいて、当初よりは私も良い訓練が出来ている。
其れは兎も角、とりあえず私はアベルを無視する事にした。其れぐらい事をしても、アベルはへこたれないし、どうせ勝手に付いて来るだろうから。
街を散策しながら、私は先ず屋台を回った。その代金を自称保護者が勝手に払おうとするので、其れを一々止めるのが面倒だったけど、串焼きとかは美味しかった。
「はあ…、もうそろそろお昼ですよ?一体何時まで付いてくる気なんですか?というか、私に護衛なんかいりませんよ。」
「確かにマユキちゃんは強いけどさ、やっぱり女性なんだし騎士としては護りたくなるのさ!」
爽やかな笑顔でそんな事をのたまうアベル。白い歯を輝かせて微笑む様は、普通の女性であれば落ちるのかも知れないけど、私には通用しない。そもそも耽美系のイケメンなんか私の好みから外れているのだ!
其れは兎も角として、この男を如何しますかね…。正直言ってかなり邪魔なのですが…。
折角の休日だと言うのに、アベルの所為でちっともゆっくり出来ない。そんな感じで私が困った様な表情をしていると、ふいに後ろから声が掛かった。
「あの、大丈夫ですか?警吏の人呼びましょうか?」
声がする方に振り返ってみると、其処に少し年上のお姉さん達が立っていた。
「後ろの男性…、お兄さんとかじゃないわよね?」
「見た目は良いのに、何か危ない感じがする…。」
そう言って、アベルを胡乱気な目で見るお姉さん達。自分が疑いの目で見られているのを自覚しているのか、そうでないのか…アベルは自信満々でお姉さん達の前に出る。
「僕はアベル!彼女の騎士さ!」
「いえ、違いますから!」
私が食い気味にそう叫ぶと、お姉さん達は益々アベルを睨み付ける。
「…なんだろう?彼女達に見られているとなんだか……うっ!はあっ!ゾクゾクしてくるよっ!」
「「「ヒィッ!?」」」
変態のレベルが上がりましたか…。もう、面倒くさいのでボコって黙らせてしまいましょうか…。
そんな事を考えていたら、衛兵隊が駈けて来るのが見えた。どうやら誰かが通報したらしい。
「あ!衛兵さん、こっちです!!」
衛兵達に気が付いたお姉さん達が、大きく手を振って呼び付ける。そして其の様子を見た彼らは、表情を引き締めて駆け寄って来た。
「この辺りで小さな少女に付き纏っている男がいると聞いたのだが…。」
そう言いながら近寄ってくる衛兵さん。勿論彼も、私の知り合いな訳で。
「お疲れ様です、ライガさん。」
「ま、マユキ様!?」
「いや、其の呼び方は止めて下さいと何度も…」
ライガさんは衛兵隊の隊長さんで、私が子爵様の次ぐらいにお世話になっている人だ。
ただ衛兵さん達は、何故か私を神聖化しているんですよね…。換金率の低いお肉とかを上げている所為かも知れませんが。
まぁ、アベル達みたいに困る様な事ではないですし、純粋に感謝の念を示しているだけだから、気にしなくても良いのですが…。
「「「マユキ様っ!?」」」
お姉さんが驚きの声を上げる。多分彼女達は、私を貴族子女かいい所のお嬢様だと勘違いしている様だ。
「やぁ、ライガじゃないか!一体如何したんだい?」
さっきまで身悶えていたアベルが、ようやくライガさん達に気が付いたようで、軽いノリで挨拶していた。
「アベル様!?…えっと、マユキ様。此れは…?」
「我々は、領民から少女に付き纏う不審者が居るとの通報を受けて来たのですが…。」
通報現場に騎士にして貴族であるアベルがいるとは流石に思っていなかったらしく、ライガさん達が困惑している。
「ああ、…其の不審者というのは、多分アベルさんの事ですよ。」
「ちょっ!?マユキちゃん!?」
私がハッキリそう伝えると、流石のアベルも狼狽する。
「あの、如何すれば良いでしょうか…?」
流石に平民出のライガさんが貴族のアベルを、この程度の事で捕まえる訳にも行かず、困っている様だ。
「そうですね…、では騎士団に連れ帰って下さい。私は休日を楽しみたいので。」
「は、はぁ…。」
困惑しながらもライガさん達はアベルを連れ帰ろうとしている。すると、アベルは焦った表情で喚きだした。
「ええ!?マユキちゃん、女の子一人じゃ危ないってば!?」
アベルはそう叫ぶが、ライガさん達は私の実力を良く知っているので、そのまま引っ張って行く。
「マユキ様は強いから大丈夫ですって!さぁ、アベル様戻りましょう!」
「ええ!?いや、僕も今日は非番なんだけどー!!?」
そんな事を叫びながら、ようやくアベルが去って行った。
「ふう、ようやく落ち着けますねぇ…。」
アベルが連れて行かれた方向を見ながら、そう呟く私。そして、呆然と事の成り行きを見守っていたお姉さん達に声を掛けた。
「すみません、お騒がせしました。もう、大丈夫ですから。」
そう言って立ち去ろうとすると、今度はお姉さん達に行く手を阻まれてしまう。
「ちょっと、待ってください!」
「最近変な人が増えたし、一人じゃ危険よ!」
「流石に小さい子の一人歩きは…。」
「いえ、本当に大丈夫ですので、ご心配なく。」
実際問題はない。そもそも私は傭兵ですし、騎士団員よりも強いのですから。
「私達も一緒に行きますよ!」
「其の方が良いわ!そうしましょう!?」
「うん、女の子一人でいるより、私達と一緒のほうが安全。」
そうは思っていても、お姉さん達に聞いて貰えず、彼女達は同行を申し出てくる。
「わ、分かりました…。」
流石に本気で私の事を心配してくれているお姉さん達を無碍には出来ず、私は彼女達と一緒に街を回る事になった。
「フェリシアです!」
「フローラよ.」
「ロニヤ…。」
「マユキです。」
私達は先ず、お互いに自己紹介をした。お姉さん達は同い年で、私より3個上の14歳らしい。
「それじゃあ、行きましょうか。」
折角なので、お姉さん達のオススメのお店を教えて貰う事にした。年の近い女の子と一緒に遊ぶのは、シエルさん達以来なので何気に楽しみだ。
「そろそろお昼ね。」
「うーん、何処が良いかなー?」
「外で食べる…?私今日はあまりお金持ってない…。」
「じゃあ、安い所かー。うーん。」
何処かお手頃なお店を考えてくれているのだろう。でも、折角の休日なのにお昼を安く済ませると言うのは考え物だ。となれば…
「お昼は私が奢りますよ。なので、良いお店を紹介してください。」
「「「えっ!?」」」
私の提案に三人は固まる。そして慌てるように口を開いた。
「年下の女の子に、お金なんて出させませんよ!?」
「そうよ!此処は私達が奢るべきなのよ!」
「…私は、奢って貰えるならそれはそれで…。」
「「ロニヤ!」」
ロニヤさんは私の提案に乗ってくれそうだったけど、フェリシアさん達に凄まれていた。でも、それは仕方のない事だろう。どう見ても私は10歳前後の小娘にしか見えないのだから。
「そう言わずに、フェリシアさん達もどうですか?私はこれでも傭兵なので、それなりにお金を稼いでいるのですよ。」
そう言いながら、懐の布袋から金貨を数枚取り出して、三人に見せる。
「傭兵!?」
「しかも、金貨!?」
「ゴチになります……。」
フェリシアさん達がそれぞれ驚く中、ロニヤさんだけはマイペースな言葉を発していた。この人は見た目に寄らず結構強かだな。
「う~、でも…」
「本当に気にしなくて良いですよ?私は休日と食事を楽しみたいので、良いお店を紹介して貰えるのなら、それだけでお金を出す価値がありますから。」
私がそう言うと、二人も観念したのか少し居心地悪そうな笑顔を見せて。
「…分かったわ、今回はマユキちゃんの行為に甘えましょう。でも、次回は私達がお金を出すから!」
「そうですね!次回は私達が出しましょう!」
「えー…。」
ロニヤさんだけが不服そうに頬を膨らませると、フローラさんがロニヤさんの頬を引っ張っていた。「痛い…。」とフローラさんに訴えかけると更に頬をグリグリされていた。
そんな仲の良さそうな三人を見ていると、私もリアや真帆達を思い出す。
皆はどうしてますかね…。出来る事なら、もう一度会いたいです……。
私は青い空を見上げて、遠い地にいる友達に思いを馳せる。
十分な資金が揃ったら、元の世界に戻る方法を探してみましょう。こっちに来れたのですから、帰る方法だって必ず…。
「マユキちゃん!早く行きましょうよ!そろそろ行かないとお店が混んじゃいますよ!」
フェリシアさんの言葉に頷いて、私達はお店へ向かう。お店の料理はとても美味しくて、満足のいく昼食になった。
それから、私達は町を散策しながらのんびりと談笑。途中で見つけた屋台で買い食いしていたら、『まだ食べるの?』と呆れられたけど…。
今日は色々あったけど、最終的にはとても楽しめた。次の休日もこんな風に過ごせると良いな。