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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
15/24

修行開始です!


 森に入ってから二時間。


「……。」


 其の場所に踏み入れると、バサバサッと鳥が飛び立ち、小動物が慌てて隠れる。


「……どうして…?」


 真雪は呟く様に、言葉を紡ぎ…。


「如何して、魔物が居ないんですかーっ!?」


 そして、キレた。


 小動物や鳥はまだ分かります!でも、熊や猪みたいな大物まで逃げるのは可笑しくないですかっ!?


 魔物に関しては影すら見せてない。真雪がキレるのも当然だった。

だが、真雪は気付いていない。

 魔物を含む動物達が逃げるのは自分が発している殺気を含んだ闘気の所為だと言う事に。


 其の事に気付いたのは、更に数時間後が経過した頃。


「流石に疲れました……。」

 そう言って腰を下ろし、携帯食を食べながら休憩していると、リスの様な小動物が此方を見ていた。


「え…?さっきまで全然見つからなかったのに…。」


 思わず立ち上がると、その小動物は慌てた様に逃げてしまった。其の様子に、流石の私も気づく。


「もしかして、避けられている?」


 いや、小さな動物なんだから急に動いた私を見て、あの子が逃げてしまうのは分かります。

 でも、あの子を狙っていたと思われる動物の気配も消えてしまいました。


「つまり、殺気が駄々漏れになっているって事ですよね…。」


 困った…、此れでも気配を消しているつもりだったのに…。

でも、先程の様にリラックス状態であれば、近寄ってくる可能性はありますね。


 そう考えた私は、再び腰を下ろして休憩を再開する。

すると、予想通り動物の気配が近寄って来る。


「…。」


 だけど、一定距離まで近づいて来ると、何故か動物達が立ち止まってしまう。

 埒が明かないと思った私は、一足飛びで近づこうと考えるが、そう思った瞬間に動物の気配が一気に遠ざかっていく。


「どれだけ勘が鋭いんですかっ!?」


 思わず悪態と付いてしまったけど、現状を打破しないといけない。動物は兎も角、魔物に逃げられるのは不味い。


 取りあえずは、無害を装って動物達が集まるのを待って、それらを狙った魔物が近寄ってくるのを期待した方がいい。


 さっきぐらいの距離なら、一足飛びで近寄れるし、逃す可能性も低い。後は、殺気を抑える訓練が必要か。


「うーん、チート持ちなのに、課題が山済みですねぇ…。」


 転移直後は言語の壁で苦労して、ようやく言葉を覚えられたと思ったら、宗教系レイシストによる迫害。

 それだけでも苦労しているというのに、能力の方も使いこなすのも難しい…。


 うん、クソゲーだ。


 でも、幸いにも優しい人達にも巡り合えている。村の皆もそうだし、砦の兵士達も皆優しかった。

 フォルバク子爵の真意は分からないけど、十分好待遇だし、悪い様には扱われないと思う。

多分、純粋に戦力として求められているだけだと思う。


 そんな感じで物思いに耽っていると、何時の間にか魔物の気配が強くなっていた。

周囲に居た動物達は、魔物の気配で逃げてしまった様だけど、魔物達は動く気配はない。

 つまり、今の私は無害でただの人間の小娘…、つまり、獲物だと思われているようだ。


 徐々に近寄ってくる魔物の気配を感じて、私はほくそ笑む。


 おっと…、この辺りの感情も抑えないと行けませんね。


 一瞬、途惑った様に立ち止まる魔物の気配を感じて、私は余計な感情を押し殺す。

その場でじっとしていると、ようやく目の前に魔物達が現れた。


「…大きな狼の親子と、側面からは大きな牙を生やした熊の様な魔物ですか。」


 冷静にそれらを観察していると、狼と熊の間で威嚇が始まった。

私の事を視界に入れながら、威嚇し合う2種の魔物達。獲物を巡っての対立という感じだろう。


 さて、如何しましょうか。下手に動いて逃げられるのも厄介なんですよね。

とはいえ、潰し合われると私の訓練になりませんし、素材も駄目になりそうです。


 そう考えた私は、ヘイトを自分に寄せる為に、二種の魔物の間に小石を軽く放った。

 其れを受けて此方を睨む魔物達。そして、一斉に飛び掛って来た。


「っ!」


 立ち上がりざま私は2頭の子狼を切り捨てる。

 其の様子を見て、親狼が咆哮をあげるが、私は構わず残りの子狼を切り捨てる。

 あっさり倒された子狼達を見て、牙熊が途惑っていたので、逃げられる前に攻撃を仕掛ける。


「ガゥッ!?」


 驚いた様に鳴き声を上げる牙熊。だけど、其の反応は一瞬だけで私を迎え撃つ為に牙を剥く。


「遅いですよ!」


 一瞬で懐に飛び込んだ私は、牙熊に向かって斬撃を放つ。

 その攻撃を腕を使って防ごうとした様だが、牙熊は腕ごと断ち切られて息絶えた。


 残すは親狼一頭、其の大きさは牙熊よりも大きく、子狼が殺されたからか感情剥き出しで唸りながら私を睨んでいた。


「あうっ!?」


 一瞬、反応が出来なかった。私は親狼の攻撃で吹き飛ばされ、大木に背中を打ちつけた。


「み、見えませんでした…。」


 ダメージ自体は大した事はない。だけど、十分痛い攻撃だ。食らい続けたら流石に不味い。


 慌てて起き上がった私は、親狼を探す。視界に居ないので感覚を頼りに集中すると側面から殺気を感じた。


「ぐっ!?」


 身を捻って、何とか攻撃を避ける私。親狼は攻撃を避けられた事に動じもせず、再び森の中に消えた。

 一刀で牙熊を倒した私を見て、ヒットアンドアウェイをとっている様だ。


「イヤらしい攻め方をしてくれますね…。」


 そう言いながら私は目を瞑る。視界で捉えるのでは遅い、知覚で反応しないと間に合わない。


10数秒の沈黙が続き、……親狼が飛び出して来た。


「っ!?其処っっ!!」


 ギリギリ反応するも、致命傷を与える事が出来ず、距離を開けられてしまう。だが…。


「逃がしません!!」


 一足飛びで親狼に肉薄した私は、そのまま追撃に入る。

 先程のカウンターを受けて、動きが悪くなっていた親狼は追撃を避け続ける事が出来ず、とうとう首を掻っ切られた。


 鮮血を浴びて、肩で息をしている私。そして、動かなくなった親狼を見て、ようやく安堵の溜息が出た。


「はぁ…、思ったよりも手こずりました…。」


 身体能力も反応速度も凌駕している筈なのに、これ程苦労したのは実戦経験が少ない事、そして力を使いこなせて無い事、それを痛感した戦いだった。


「今日は此処までにしておきますか…。」


 森の中を何時間も歩き回った上に、思っていた以上に苦戦したからか、どっとした疲労を感じる。


「…と、魔物を持ち帰らないといけないですね。」


 魔物を持ち帰れば、素材や肉が換金出来る。一応十分にお金は持っているけど、あって困ることはない。

 日本に戻れるかどうかも分からないし、この世界で暮らしていくしかないのなら、お金は幾らあっても良い。


「……此れ、持ちきれますかね?」


 親狼を担いで休憩所まで戻ってきた私は、その場に転がる魔物達を見てそう呟いた。放置すれば、他の動物達に死骸を荒らされる可能性もある。

 でも、とてもじゃないけど、持ちきれる数とも思えない。何せ、子狼でも自分の体の半分はある。

 引き摺っていけば皮がダメになるだろうし、そうなったら換金率が下がる。それはいけない。


「そういえば…。」


 如何しようかと悩んでいたら、ふとロープを持って来ていた事を思い出す。

旅道具セットに入っていた物だけど、結構丈夫だ。


 親狼をその場に下ろし、子狼をその背に乗せていく。ずれない様にしっかりと固定して此方は準備万端。

 牙熊を倒した時に切り落とした腕を回収して荷物袋へ。そして、牙熊の首元を掴み狼の元へ。


「よ…っととと…。」


 流石にずっしりと来る。それでも然程苦労せずに持ち上げられたのを見て自分で呆れてしまった。


「此れ…、乗用車くらいなら持ち上げられるのでは?」


 そんな事を呟き、地球に戻っても普通に暮らせないだろうなぁと考える真雪。


「まぁ、先の事を考えても仕方ないです。とりあえず今は、お風呂に入りたいですし、服も洗わないと…。」


 そう、今の真雪は返り血やら何やらで全身血まみれだった。

しかも、おろし立ての黒マントまで血で汚れてしまい、真雪は少し凹んでいた。

 今着ている地球の洋服も、真雪のお気に入りだ。…センスはあまりよくないが。


 様々な理由で真雪は急いで戻った。

 そして、町の門が見えてきた所で、真雪はあることに気付く。


「ん?何やら騒がしいですね?」


 深夜を越えるような時間なのに、衛兵達が慌しく動いているのが見える。

その数は、徐々に増えているようで真雪は首を傾げた。


「…?魔物の気配はしませんけど…?」


 そう言いながら門に近づいて行くと、衛兵が叫び声をあげた。


「魔物め!此処から先は通さないぞ!!」


「放てーっ!」


 そして、放たれる矢を見て流石に真雪は焦った声を上げる。


「ちょ!?わ、私です!私!!」


 降り注ぐ矢を躱しながら、私は叫んだ。


「「「ええっ!?真雪殿っ!?」」」


 射掛けるのを止めて、慌てて近づいてくる衛兵さん達。


「って、ああ!!??毛皮に矢がーーー!!??」


 頑張って仕留めた親狼に何本かの矢が刺さっていた。勿論、其の上に乗っていた子狼にも…。


「弁償してくださいよね!!」


『も、申し訳ありません!!』


 私がそう叫ぶと衛兵さん達は、慌てて頭を下げてきた。…しかも全員涙目で。


「う…、とりあえず、此れの処理を御願いしますね。」


 その様子を見て流石に可哀想だと思ってしまった私は、納品作業を丸投げにする事で彼らを許す事にした。


 あまり高く売れない狼の肉は衛兵さん達の好きにしてもいいと伝えると、彼らは大層喜んだ。

 どうやら、奥さんからあまりお小遣いを貰えてない様で、お酒のつまみも満足に買えないらしい。

 居た堪れなくなった私は、そこそこの値段が付く牙熊の肉もあげる事にした。

すると、今度は拝まれた。強面のおじさん達が多いだけに其れは何と言うか…うん、これ以上は語るまい。


「じゃあ、後は御願いしますね。」


『ハッ!真雪様、お疲れ様でした!!』


「止めて下さい!私はただの傭兵なんですから!?」



―――――――…







 あれから一ヶ月。あの森での魔物討伐が一段落ついた。

 あまり狩り過ぎても悪影響になるので当面は行かなくても良いらしい。

 それはそうだ、食肉にもなっているし、素材にもなるんだから大事な資源の一つだろう。


 ただ、そうなると訓練所がなくなる。一応加減は出来る様になったけど、其れだけでは満足が出来ない。

 その事をフォルバク子爵に相談すると、兵士達の訓練や騎士との打ち合いに参加しても良いと言われた。

 

 騎士の皆さんはとてもイヤそうな顔をしていたけれども…。


そして、今日は騎士達と模擬戦をやる日だ。


「お、お手柔らかに御願い致します…。」


若い騎士さんがそう言って構えを取る。


 いや、其れは此方の台詞なのですが…。


 木刀を使った日本剣術はソコソコ出来ますが、木剣を使ったこの二刀流戦術は完全に我流なんですけど…。


「よろしく御願いしますね!」


 私が笑顔でそう言うと、若い騎士さんはビクッとして、顔をひきつかせていた。


 本当に失礼な男ですね!まったく!


「始めっ!!」


「う、うわああああ!!」


 若い騎士さんが叫びながら、私の元に迫って来る。


 先ずは回避訓練だ。此れぐらいの攻撃なら問題なく見切れる。

 次々に連撃を躱してゆき、時折、足をかけて相手を転がす。

 其れを繰り返して行く内に、相手も熱くなって必死に攻撃を仕掛けて来る。


 ようやくまともな攻撃になったので、私は木剣でそれを受けていく。


 …一応言っておきますが、これは相手を舐めている訳でも甚振っている訳でもないですからね?

 子爵様に頼まれているんですよ、騎士の訓練相手をしてくれと。


 そんな言い訳染みた事を考えていると、若い騎士さんが木剣を振り被った。

相手の防御を崩す一撃だ、そこから連撃を決める必殺攻撃を繰り出すつもりだろう。


「へっ…?」


「予備動作が大き過ぎますよ、隙だらけです。」


 そう言って、背中に木剣を当てる私。


「がふっ!?」


 鉄鎧の上からでも結構痛かったらしい、若い騎士さんはその場で膝を付いて咳き込んでいた。


「先程の必殺連撃…、受けても良かったのですが、ああも無理やり繰り出されると…。実戦なら死んじゃいますよ?」


 うーん、あまり訓練にならない。いや、回避訓練は出来るから無駄という訳ではないのですが…。


 若い騎士さんが退場して、壮年の騎士さんが構える。


「申し訳ない、真雪殿。アレはまだ騎士になってから日が浅いのでな。」


「いえ、その事も含めて子爵様から頼まれていますから。」


 そう言って、私も構えを取る。


「始めっ!」


 開始の合図と共に、駆け出す騎士のおじさん。其の踏み込みは鋭く、さっきの若い騎士とは比較にもならない。


「くっ!」


 そのまま突き出された剣を、私はギリギリで躱す。

反撃に転じようとしたが、おじさんはそのまま連撃を繰り出した。


「う、強い…。」


 思わず言葉が漏れる。おじさんの身体能力は私に遠く及ばない。だけど、技術面は私の方が及ばない様だ。

 繰り出され続ける連撃を何とか凌ぐが中々反撃に移れない。

 このまま避け続ければ、相手の体力が先に尽きるだろうけど、それはフェアじゃない。


 そう思った私は、相手の連撃に合わせて右手の剣で無理やりガードする。


「今っ!」


 空いた左手の剣で反撃しようとすると、騎士のおじさんは其れを見透かしたように受け止めた。


 もう少し、速度をあげるべき?いや、身体能力だけでごり押すというのは訓練にならないです!


 そう考えた私は、この一ヶ月で身に付けた我流の二刀流剣術を繰り出していく。

だけど、其の殆どが躱され、残りは受け流される。


 お互い決定打に欠けたまま、模擬戦は続く。


「流石は真雪殿、これだけ打ち合っても息一つ乱さないとは!?」


 其れは此方の台詞だ。一体どんな体力をしているのか。

 此処ままでは拉致があかないと感じた私は、一旦距離を取った。


「少し本気で行きますよ。」


 私の宣言で構え直す騎士のおじさん。


「受けて立とう!」


 二刀の構えのまま、私は駆け出す。そして、途中で力強く踏み込んだ。


「「「なっ!?」」」


 周りで見ていた者達から驚愕の声が上がる。彼らには真雪が瞬間移動した様に見えた筈だ。

 今彼女がやったのは瞬動術。一瞬で間合いを詰める歩法術で縮地に迫る速さを持っている。

 当然、並の者では姿を捉える事も出来ない。…だが。


「ぐぅ!?」


「止められた!?でも!」


 そのまま、二刀連撃を繰り出すと流石に耐え切れず、騎士のおじさんは攻撃を受けて膝を付いた。


『おおっ!?』


「団長が膝を付いたぞ!?」


「まさか、此処までとは…!?」


 って、ええっ!?団長さん!?道理で強いと思いましたよ…。


「大丈夫ですか?」


「ああ、何とかな。」


 私の問い掛けに答えながら、団長さんは立ち上がった。


「さて、真雪殿。他の連中にも稽古を付けてやってくれ。」


「は、はあ…。」


 そう言って訓練場を後にする団長さんに私は心の中で呟いた。


 いや、私の訓練を見てくれるんじゃなかったんですか!?


 結局其の日は、騎士団のメンバーを鍛えるだけになってしまった。


 私の訓練?うん、一応手加減と回避の訓練は出来ましたよ…、はあ…。


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