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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
13/24

冒険者だと思っていたら傭兵でした!


エクシス王国、ファルバク子爵邸。


突如現れた領都イシスに向かってくる暴走した魔物の群れ。

その報告を受けた当主アレンは、町を護る為に領軍を編成していた。

だが、其処にもたされた新たな報告にアレンは驚愕の表情を浮かべていた。


「暴走した魔物達を一掃しただと!?」


報告では30体以上の魔物の群れだと聞いていた。其れを僅かな時間で一掃だなんて到底信じられる事では無かった。


「ハッ!どうやら極東の少女が一人、魔物共と戦っていた様です!」


「極東の者…?、しかし、それでも……。」


極東の傭兵団と言う事であれば、子爵も信じられただろう。…其の場合は支払いが怖いが…。

しかし、少女が一人というのはとても信じられない。アレンは再度報告者に問い掛けた。


「では、本当に魔物が一掃されたと?しかも、少女一人の援軍だけでか!?」


「ハッ!既に魔物の死体も回収されており、素材の剥ぎ取りが行われています!」


「…直ぐに向かう!案内せよ!」






念の為、編成の終えている領軍を引き連れて来たのだが、アレンは直ぐに彼らを帰す事になった。


「……まさか、大型の魔獣も複数いたとは…。」


回収された魔物達を見て、そう呟くアレン。


「…して、その少女は?」


「ハッ!明日の昼頃に素材の代金と謝礼金を渡す手筈になっています!」


アレンは暫く考え――


「領主として私もその場に同席しよう。」


「えっ…、しかし、其れは!?」


得体の知れない、恐ろしいまでの戦闘能力を持つ少女。

彼女の目的も分からないのに、無駄に領主を危険に晒したくはない。当然の思いだったが。


「此れは決定事項だ。では、其の通りに頼むぞ。」


アレンは警備隊長にそう告げると、子爵邸に戻って行った。







翌日の昼頃、約束通りに少女が尋ねて来た。勿論、アレン…フォルバク子爵も待機している。


「えーっと…?」


建物の外、そして中には多くの兵士や騎士が立っている。

その物々しい雰囲気には流石に気圧され、真雪はその場で立ち尽くしていた。


まさかとは思いますが、私を始末するとかじゃないですよね?


確かに力は見せている、それに衛兵や兵士は私を畏怖する様な目で見ていた。

そして、あの時の隊長の言葉…。警戒をした方がいいかも知れない。


でもまぁ、問題はありませんか。手を出すつもりなら中に入った時点で取り囲まれているでしょうし。


そんな事を考えていたら、昨日の隊長さんが部屋に入って来た。


「待たせて済まない。素材の代金は用意出来たのだが、報奨金の方がまだ届いてないのでな、もう少し此処で待っていてくれるか?」


「ええ、別に構いませんよ?」


隊長さんの言葉にそう返すと、すまないと言いながら部屋を出て行った。

部屋で暫く待機していると、兵士さんがお茶を持って来てくれた。


うん、普通に紅茶ですね。風味的にはダージリンっぽい気がしますね。

…もうちょっと甘い方が良かったけど。

とりあえず、言われた通り待っていますか。この分だと心配は杞憂っぽいですし。


気が抜けたのか頬を緩ませてのんびりしている真雪。そして、それを隣室で見ている者がいた。


「…あの娘か?」


「ええ。」


真雪を見ていた男、フォルバク子爵ことアレンは困惑していた。

報告通りの極東の少女がいた訳だが、想像よりも幼い上に何かぽやぽやしている。

少し目元はキツメだが、幼く可愛らしい。

そんな少女が大量の魔物を仕留めたなんて言われても、とても信じられなかった。


「…本当にあの娘で間違いは無いのか?」


なので、再度確認してしまうのは仕方ない事だろう。


「はい、間違いありません。」


「そうか。…よし、接触するとしよう。」


実は、この会話は真雪に筒抜けだった。身体能力が上昇しているのだから耳が良いのも当然だ。


うーん?此れは偉い人が来ているみたいですね。となると、兵士や騎士はその人の護衛って事でしょうか?

これから如何するかというは、相手の出方次第ですね。


入り口に目を向けずに紅茶の飲んでいると、扉が開かれた。


「待たせた。」


「…其方の方は?」


私がそう聞くと、隊長さんは佇まいを直した。


「此方は、この町の領主様で在られるフォルバク子爵様だ!」


おや、貴族の方ですか。あれ?でも子爵って下級貴族なのでは?


この町はそれなりに大きい。王都からもそれほど離れておらず、他国に向かう為の要所でもある。

そんな重要な土地なのに、子爵が治めているというのは可笑しな話だと真雪は思った。


「この町の領主、アレンだ。この町を治めているのは私が武勲を挙げて貴族になったからだ。

そして、隣国の備えとして此処を任せられている。」


私の考えている事が顔に出ていたのか、疑問に答えてくれる子爵様。

そして騎士侯をすっ飛ばして子爵を承る程の人物であれば当然かと、真雪は思った。


「マユキです。」


相手が名乗ったので、一応返しておく。平民の名なんか聞いてないとか言われるかも知れないが。


「先ずは…、おい。」


そう言って子爵様は後方に控えている騎士の人に合図を送る。

それに騎士の人が頷くと、私の前のテーブルに皮袋が置かれた。


「今回の報酬と素材の代金だ、受け取るがいい。」


「ありがとう御座います。」


私はその場で立ち上がって、深々と頭を下げる。

貴族に対しての対応なんて全然知らないが、黙って受け取るよりは心象も良くなるだろう。


…この場で中身を数えるっていうのはやめておいた方がいいですよね。


そのまま皮袋を懐にしまうと、フォルバク子爵が口を開いた。


「して、極東の娘よ。此処にはどんな用で参られたのかな?」


って、いきなり探りを入れてきましたか。まぁ、当然ですか。


「そうですね…、何処から話すべきでしょうか…。」


此処はある程度は正直に話した方が良い。流石に異世界から来たとは言えないからそこはぼかすしかないが。


「実は、所々記憶を失ってまして、気が付いた時にはフェミール王国の小さな村に居たんです。」


「「「フェミール王国!?」」」


子爵、隊長、騎士が同時に驚愕の声を上げる。

まぁ、此れは当然だ。あの国は極東の人間を敵視している様だから。


「はい、そこで3ヶ月以上お世話になっていたのですが、ある日、首都?から騎士や司祭がやって来まして…。」


「…ああ、それで逃げて来たという訳か。」


「はい、その通りです。」


流石は子爵様、大体の事情は察してくれたらしい。


「それで、此れからは如何するつもりなのだ?」


ん?其れ子爵様が気にする様な事ですかね?でも、答えないというのはトラブルになりますよね。

いや、私がトラブルを起こすかも知れないから、聞いたのかも知れませんね。


「えーっと、今回魔物の群れ…まだ、残党がいるかも知れないので、其れの間引きという名目でお仕事が出来たらと…。」


別に隠す必要もないですしね、それに上手くすれば子爵様から報酬が出そうですし。


「成程、此方としても其れは在り難い話だ。…で、其の後は?」


「そうですね…。とりあえず、冒険者にでもなって各地で魔物を倒して日銭を稼ぎながら修行…という感じですね。」


「冒険者?」


おや?訳が分からないという顔をされていますね。もしかして、名称が違うのでしょうか?


「えっと、魔物を倒したり、護衛の仕事をやったり遺跡等で希少な物を探したりする職業です。」


「遺跡…ねぇ。」


あ、あれ!?何か思っていた反応と違う気が…。


暫く、物思いに耽っていた子爵様は、騎士に声を掛けた。


「この辺りに、遺跡はあるのか?」


「いえ…、その様な報告を聞いた事はありません!」


「だ、そうだ。そもそもその様な場所が見つかれば国の管理下に置かれる。勝手に盗掘なんてしたら極刑になるぞ?」


うぇっ!?…考えてみたら当然ですよね。ゲームじゃないんですから…。

この分だとダンジョンとかも無さそうですね…、はぁ…。


「その…、極刑になるのは困るのでそれは諦めます…。」


私のその言葉に頷く子爵様。


「となると、普通に傭兵志望という訳だな。」


「そ、そうなりますね?」


「ふむ…、魔物達の間引きの件もあるし、正式に契約を交わそう。」


「え?」


流石に驚いた。まさか、領主様自ら契約を交わしてくれるなんて、真雪は思ってもいなかった。


でも、此れはチャンスです!上手く取り入れば後ろ盾になって貰えそうですし!

子爵様というのが少し物足りない気がしますが…、無いよりはマシですよね!


失礼極まりない事を考えながら、子爵と契約を交わす真雪。

受けた内容は、周辺地域の魔物討伐。現地の者と協力し合い事に当たれという事だった。


拘束期間は半年程、契約金の他に月毎に給与が出る。

討伐した魔物は買い取り金が支払われ、場合によっては賞与も有り。

更に、期間中の経費は常識の範囲内なら出して貰えるという。破格の条件だった。


「え?本当にこの条件で良いのですか?」


幾らなんでも条件が良すぎませんか!?…でも、私を騙して得する事なんて…。


流石に思いつかない。騙まし討ちを狙うにしても此処まで条件を良くする必要はない。

あるとすれば、私を抱き込む事ぐらいだ。


「構わんよ、兵を動かすよりは余程安上がりだ。」


ああ、そういう理由もありましたか。というかぶっちゃけますね、子爵様。


「分かりました、このお仕事、謹んでお受けします。」


子爵様は私の言葉に満足そうに頷いた。


此れで私も冒険者…、じゃなかった!傭兵ですね!




――――――――…






詰所を後にした私は早速行動に移った。


「先ずは…。」


「いらっしゃい!…と、如何した?お嬢ちゃん。此処はお嬢ちゃんが来る様な所じゃないぞ?」


武器屋のおじさんは、私に外に出るように促している。


「頑丈な剣ってありますかね?私が振るっても壊れないのが欲しいのですが。」


おじさんをスルーして、お店の商品を物色していると。


「はぁ?お嬢ちゃんが振るったぐらいで壊れる訳がないだろう?大体持ち上げられないだろうが!」


私の態度が気に入らなかったのか、もしくは製造武器をバカにされたと思ったのか声を荒げるおじさん。


「いえいえ、私はこう見えても傭兵ですよ。それも領主様の依頼を受けた。」


「はぁっ!?そんな訳がないだろう!?どう見たって子供じゃないか!?」


「まぁ、確かに子供ですけど…。極東の戦士って言えば分かりますか?」


流石にこう言えば取り合ってくれるだろう。


…そう考えていた時期が私にありました。


「キョクトウ?何だ其れ?」


「え…?あ!ちょっと!?」


叔父さんの意外な返しに困惑していると、そのまま襟首を捕まれて店の外に出されてしまった。


「二度と来るなよ!!」


おじさんはそう言い捨てて、ピシャリと扉を閉めてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください!領主様の紹介状も本当にあるんですよ!?後々問題になっても知りませんよ!?」


私がそう叫ぶと、ガチャリと鍵を閉められてしまった。


「え、えぇ…。話ぐらい聞いてくれても…。」


まぁ、この町にはもう一軒武器屋がありますし、此処に拘る必要は無いですよね。


「えっと…、もう一軒の武器屋さんは…。」


……


………


「此処ですね。」


最初のお店みたいな事にならない為には、先ずは紹介状を提示すべきですね。

そうすれば、幾ら子供相手と言っても摘まみ出されるなんて事はないでしょうし。


カララン


ドアベルが鳴って、中に居た強面のおじさんが私を睨む。


ああ…、また子供が悪戯しに来たって思われてそうです…。此処は予定通りに。


「武器を見せてください。なるべく頑丈な剣を。此れ紹介状です。」


「ん。」


強面のおじさんが黙ったまま私から紹介状を受け取る。


「待ってろ。」


紹介状を読んだおじさんは、そう言ってお店の武器棚から何本か武器を取り出している。


お、ちゃんと対応してくれてる!って当たり前ですよね。領主様の紹介状なんですから!

これは、最初のお店のおじさんには、悪い事してしまいましたね。

先に紹介状を見せていれば、あちらのお店でも取り合ってくれていたでしょうね。


そんな事を考えていると、おじさんが私の前に3本の剣を持ってきてくれた。


「頑丈な剣となると、重いのしかない。其の中でも軽い方を選んでみたが。」


「持ってみても良いですか?」


「ああ、重いから腰とか気をつけろ。」


私はおじさんの言葉に頷いて、両手でしっかりと握って……持ち上げた。


「此れは…鋼鉄製ですか?」


そう言っておじさんを見ると、目を丸く見開いていた。


「…あ、ああ。…重くは無いのか?この中で一番重い奴なんだが…。」


「ええ、この位なら…よっと。」


片手に持ち替えて軽く振ってみる。悪くは無い、問題は耐久性だけど。


「此れが一番頑丈な剣ですか?」


「え?いや、其れも鋼鉄製だが、もっと頑丈で重い剣はある。」


「じゃあ、其れを見せて貰っても良いですか?」


「あ、ああ。少し待ってろ。」


そう言って、おじさんはお店の奥に消えていく。

暫く待っていると、額に汗を垂らしたおじさんが、引き摺る様に大きな箱を運んできた。


「はぁはぁ…。こ、此れがウチにある物の中で間違いなく一番頑丈な剣だ!」


「おおー!開けて貰っても良いですか?」


「ああ。」


おじさんに開けて貰い、中を覗き込むと…。

其処にあったのは全長3メートルはあると思われる無骨な大剣。


いや、某ハンターじゃないんですから、こんな大きな大剣な…んて…。


「…持ってみても良いですか?」


私の言葉に無言で頷く叔父さん。

それを確認した私は、先程と同じ様に両手でしっかり握って持ち上げてみた。


ズシリと来る重量感。でも、振り回せない程でもない。


「いい感じですね…。此れを下さい。」


「……ああ。」


其の後、代金の支払いを子爵様当てに書いて貰い、取引を終了した。


うん、此れも経費で落ちるんですよ。隊長さんがあの時の戦いで、剣を4本壊したと報告してくれましたからね。


…ただ、困った事が起きた。


「此れ、如何運べば良いんですか?」


「そのサイズの鞘は作ってない…。そもそも、其れは実用を無視した仕様で実験的に打った物だからな。」


「直ぐに鞘を作ってください!!剥き出しでなんて持ち歩けませんよ!?」


というか、鞘に入っていてもこんな長物を街中で持っていても良いのだろうか?

其処までは考えていなかった真雪だった。


とりあえず、大剣は後日に受け取りという事で、

間に合わせに最初に見せて貰った鋼鉄の剣を2本購入した。


どの道、今の自分じゃあの大剣は自由に振り回せないだろう。

いや、振り回すこと自体は出来るだろうけど、下手すると大剣を破壊してしまう可能性もある。


「先ずはこの力に慣れて、リミッター解除した時もリアに習った動きが出来る様にならないといけませんね。」


まぁ、西洋剣で日本剣術っていうのも無理があるかも知れませんが、知っている剣術って其れぐらいなんですよね。


「と、森に行く準備をしないと…。」


旅道具屋さんで背負い袋や、水袋。そしてカッコイイ黒マントを購入して宿に戻る。


「店主さん、此れから森に向かうので、携帯食を用意して下さい。あ、後早めの夕食も!」


「え?ええ!?こ、此れから森に!?」


「ええ、傭兵としての依頼が入ったので、今夜は様子見だけして戻ってくるつもりですが。」


「よ、傭兵!?お嬢ちゃんが!?」


「そうですよー。依頼書は流石に見せられませんけど、剣ならほら!」


「あ、ああ。そういえばお嬢ちゃんは最初から剣を持っていたな。てっきり何処かで拾ってきた物だと…。」


いえ、それで合ってますけどね。


「なので、御願いしますね。ちょっと部屋で荷物整理して来ますので。」


「ああ、其れは良いんだが、夕食のメニューは?」


其の言葉に、私は暫し考えた後…


「店主さんのオススメで!」


「あいよ。」


折角だから、オススメメニューにして見た。


間違いなく自信がある料理でしょうし、不味いなんて事はないでしょうからね。


手早く荷物整理を済ませて、食堂に戻って早めの夕食。予想通り、結構美味しかった。

そして、携帯食を受け取った後。私は町を出た。


勿論、衛兵に呼び止められるなんて事はない。

私の事を衛兵の皆さんは知っているでしょうからね。


「さて、冒険者改め、傭兵家業開始です!!」


そう宣言して、私は森に向かって駆けて行った。


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