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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
11/24

冒険者家業開始?


夕方頃、物見櫓で見張り番に就いていた兵士が、必死な形相で叫んでいた。


「魔獣だ!魔獣の群れが向かって来ている!!!」


其の情報は直ぐに詰め所、そして、領主の下へ伝令が送られた。

勿論、町を取り仕切る町長やその他有力者の下にも情報が届けられ、一般の領民達に避難勧告が出された。


そして、町中が大混乱に陥っている中、未だに暢気に眠り続けている者が居た。


「う、う~ん…、さっきから煩いですねぇ…。」


ベッドの中で身じろいで、騒音を防ぐ為に毛布を頭から被る。

昨日は丸一日以上起きていた上に、かなりハードだった為、精神的にも大分疲れていた。


そういった理由で惰眠を貪っていたというのに、私の所に騒がしい来訪者がやって来た。


「嬢ちゃん、緊急事態だ!居るか!?」


どうやら扉を叩いているのは、この宿の店主さんらしい。

何やら慌てている様子らしく、私は渋々起きる事にした。


「ふぁ…、一体何の用です…?」


私が不機嫌そうに扉を開けると


「緊急事態だ!今直ぐ避難をしてくれ!!」


店主さんは捲くし立てる様にそう話した。


「え…?一体何が起きたんです?」


「魔獣だ!魔獣の群れが町に向かって来ているらしいんだ!!だから、嬢ちゃんも早く!!」


そう言って、店主さんは階下に走って行った。


「魔獣の群れですか…。」


迷惑な話ですね…、半日ぐらいは寝ていたかったのですが…。

でも、此れはチャンスかも知れませんね。


どれ位の規模かは分からないが、昨日の件を考える限り自分は早々後れを取る事は無いだろう。

力の制御はまだ全然出来ないけど、突っ込んでいけば何体かは倒せる筈だ。

そして、討伐に対する対価を後で貰う事が出来れば…。


「よし、冒険者家業のスタートですね!」


私は手早く荷物を纏め、二振りの剣を握った。あの戦場で回収していた剣だ。


「何本かは駄目になるでしょうけど、最初の内は仕方ないですよね。」


そんな事を口にしながら、私は宿を飛び出して行った。










町外れでは、衛兵や町の守備隊の兵士達が青い顔をしていた。

幾ら大きな町だと言っても、戦時中でもないのに常駐している兵力が多い訳が無い。

皆の表情は悲壮感に溢れていて、口数も少なかった。


「…領主軍が来てくれるまで全力で此処を死守する。」


現場指揮官らしい兵士…下仕官が悲痛な顔で部下に告げていた。


『ハッ!』


皆本当は逃げ出したいという気持ちでいっぱいだった。でも、自分達が逃げてしまえば一般の人に被害が及ぶ。

そもそも、兵士として衛兵として…護るべき者を護らず逃げるなんて事は許される筈も無かった。


「……迎撃に向かうぞ!」


下仕官の言葉に黙って従い、迎撃に向かう兵士や衛兵。

重苦しい雰囲気の中、そんな空気をぶち壊す様な奴が登場した。


「魔獣が現れたのはこの先ですか?」


其処に現れたのは、見るからに幼い黒髪の少女。目元はややキツメだが整った顔は愛らしい。

まだ10歳にもなっていないと思われる少女の出現に、彼らは暫しの間硬直した。


「なっ!?子供が来る様な所じゃないぞ!直ぐに避難しろ!!」


当然の如く、彼女は怒鳴られた。けど、其れぐらいで諦める様な奴じゃない。


「あ、見えて来ましたね。じゃあ、ちょっと突っ込んで来ますね~、皆さんは抜けて来た奴の対処を御願いします。」


あっけらかんとそう言い放つ少女に、怒鳴りつけた下仕官が呆気に取られた。


「ば、馬鹿野郎!いきなり何を…。」


下仕官の言葉も終わらない内に駆け出していく小娘が一人。其れを見た兵士達は大慌てで少女を追い掛けた。

だが、徐々に加速していく彼女の足に、鎧を着ている彼らが追い付ける訳が無かった。


「怒られちゃいましたね、まあ、当然ですか。」


さて、先ずは昨日の復習ですね。


力任せに剣を振るえば簡単に壊れてしまう。なら、速度を武器に撫でる様に切れば如何なるか。


「ギャ!」


「ガア!」


私の剣で皮を引き裂かれ、その場でのた打ち回る二匹の獣。致命傷ではないが結構ダメージを与えられた様だ。


「次っ!」


同じ要領で更に二匹を切り裂いていく、前方の魔獣が牙を剥き私に飛び掛るが。


「おっと。」


軽く地面を蹴り、横に飛ぶ私。


「っとと…、これでも結構飛んでしまいますね…っと!」


やはり慣れは必要だ。軽く回避行動をしただけで10メートル近く飛んでしまっては戦いにならない。


「まぁ、今回みたいな戦闘の場合は此れでも有効かも知れませんが。」


パキィ!


4匹目を引き裂いた段階で、片方の剣が限界を迎えた。


「もうですか…、脆い剣ですねぇ。」


いやまあ、剣が脆いんじゃなくて使い手が悪いのですけどね。


とはいえ、下級兵士が持っていた剣なんて高価な訳がないが…。

彼女は大口を開けながら迫ってくる魔物に対して、壊れた剣を投げつけた。


「こっちも限界ですし、…貴方にあげますよ!」


魔獣の頭に狙いをつけて、もう一本の剣を投げ付ける。

そして、バックに差してある予備の剣を抜いて再び駆け出した。


そして、其れを見ていた兵士が呟いた。


「極東の戦士…!?」


「なっ!?あんな子供が!?」


「いや、確か…極東の者は実年齢よりも若く見えると聞く…、あれでも成人しているのかも知れん!」


勿論、成人している訳が無い、地球は勿論の事、この世界でも…。彼女はまだ11歳なのだから。


一方、真雪の調子は上がっていた。調子にも乗っていたが…。


「そろそろ半分ぐらいですね…。別に全部倒してしまっても問題ありませんよね?」


問題は大有りだった。彼女の戦闘能力は伝え聞く極東の戦士達のそれを大きく超えるものだった。

其れを見た兵士達が不思議に思わないなんて事はない。

真雪の戦果が伸びていくと同時に、どんどん彼らは恐怖に染まっていった。


「はっ!?…な、何をしている!?何体かはこっちに向かって来ているぞ!」


下仕官の言葉でようやく我に返った兵士達は、迎撃の為に飛び出した。

先程までとは違い、自分達でも十分に対処出来る数だ。


「食い止めろぉ!絶対に街へは通すな!!」


『おおっ!』


彼らの奮起により、真雪が逃した魔獣達は一匹残らず倒されていく。


「よし、此れなら何とかなりそうですね。」


当初、三十匹以上居た魔獣達が、今や片手で数えられる程しかいない。


「…っと、この剣もそろそろ限界が近いですね。」


最初の二本よりはもった方だ。そのままの勢いで私は駆け回る。


バキィッ!ガキィッ!!


最後の魔獣達に剣を突き立てると根元から折れてしまう、だが問題はない、どうせ拾い物だ。


「ふぅ…、殲滅…ですかね?」


私が周囲を確認していると、兵士の皆さんが駆け寄って来た。


お、あちらから接触して来ましたか、此れは上手く交渉しないといけませんね。


「…っ!?」


隊長さんらしき人が周囲を確認すると、無言のまま私の元へ歩いて来た。


「とても信じられない光景だが…、とりあえず礼を言う。助かった。」


「いえいえ、其れよりも倒した魔獣って換金とか出来ますかね?それと討伐報酬とかもあれば嬉しいのですが?」


拾い物の武器が4本も無くなってしまいましたし、補充しないといけませんからね。


「…ああ、直ぐに用意は出来ないが、明日の昼までには用意しよう。…おい!」


隊長さんの後ろに控えていた兵士の人達が、順次魔獣を回収していく。

そして、兵士さん達が居なくなり私と隊長さんだけが残った。


「それで…、さっきのは如何いう事だ?お嬢さん、貴方の強さは極東の者を軽く凌駕している様に見えたのだが。」


え…?戦闘民族って言うぐらいだから、此れぐらいは普通だと思っていたのですが!?


「…言いたく無い事があるのなら、無理には聞かないが…、問題は起こさないでくれよ?…俺も部下達を死なせたくはないからな。」


「え?ええ!?べ、別に何もしませんよ!私はただ仕事が欲しくて此処に来ただけなのですから!!」


ちょっと待ってください!此れじゃまるで…。


「…そうか。では、明日の昼頃、詰め所の方に来てくれ。其処で今回の報酬を渡そう。」


「あ、はい!分かりました…。」


「では、後処理があるから一度帰ってくれ。」


隊長さんの言葉に頷いて、私はその場から離れた。

そして、宿に向かう道中で先程の反応を考えていた。


「…あの隊長さんの目……、まるで異物を見る様な、いや私の身体能力が異常だというのは分かっているけど、まさかあの程度で?」


思い返してみれば、兵士さん達も怯えるような目で私を見ていた。


「此れはもっと力を抑えないと…って言っても制御が出来る訳じゃないですし、それに…。」


下手に攻撃を受ける方が問題だ。戦闘能力は兎も角、異常耐久を見られたら人間扱いされないかも知れない。


そんな事を考えながら私は宿へと戻った。


「お、戻ったか嬢ちゃん!」


「ただいまです、夕食を頂けますか?」


今は考えていても仕方がない。とりあえず夕飯を食べてから考えよう。


「ああ、直ぐに用意する!あ、そういえば嬢ちゃんが払った銀貨なんだけどよ。」


「?何か問題がありましたか?」


「ああ、言い難いんだが…、フェミール王国の貨幣は価値が少し下がってしまってな。」


国境砦に居た兵士さんの言う通りでしたか。でもまあ、この感じなら其処までは下がらないでしょう。


「ですか…、じゃあ足りない分は後で一緒にお支払いしますので、とりあえずご飯を下さい。」


「あいよ。メニューは如何する?」


「うーん…、じゃあこの銀貨二枚のコースで!」


「あいよ、量は多いが…まあ、嬢ちゃんなら食い切るか。」


何か大食らいだと思われてそうですね…。いや、其の通りではあるのですが…。


でも、私は育ち盛りなのだ。だから、多少食べ過ぎても問題は無い。

それに、今は動き回った後なのでとてもお腹が空いているのだ。


たっぷり食事を摂った後、私は部屋に戻った。勿論宿の更新はしている。

明日の報酬次第では、暫くこの町に滞在するのも良いかも知れない。

あれだけ魔獣が居たんだ、もしかしたら間引きの仕事が入る可能性がある。


「ん…。そろそろ寝ますかね。」


間引きの仕事が入ったら、暫く魔獣相手に修行してみよう。入らなかったら如何しようかな?

いや、報酬次第だけど、町に滞在しながら森に通って其処で修行っていう手もある。


何にしても明日の報酬次第ですか…。


そんな事を考えながら、私の意識は落ちていった。


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