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名も無き物語(仮)  作者: 如月彰
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神々に巻き込まれた男

初のオリジナルシリーズです。よろしければお付き合いください。



「どういう事だ!?何故、あのお方が!?」


「それは此方の台詞ですよ?貴公が何故、あんな真似をしたのか。」


「なっ!?貴様!それはどういう意味だ!?」


ニヤつきながらものを言う側近の言葉に激高する人物。

そして、それを嘲笑う様に口を開く人物がいた。


「兎も角、主を殺せるのは貴様しかいない。観念したらどうだ?」


「何!?」


「ヴィシュヌよ、主神殺しの罪で貴様を封印する!」


「!?」


「お、お待ちください!ヴィシュヌ様は我ら騎士団と共にしていました!何かの間違いで…。」


言葉の途中で殴り飛ばされる、騎士団長の少女大天使。


「貴様らも追放が決まっている。部下の身を案じるなら大人しくしているのだな。」


「くっ!」


簒奪。


神界で起きた誰が見ても異常で不公平な裁判。

主神を亡き者にし、その忠神に全ての罪を被せた事件。


神もまたヒトであり、愚かなのは変わらなかった。




――――――…














ここは何処だ?俺は一体どうなった?


浮遊感を感じて目を開けると、信じられない光景が広がっていた。


そこには大地も空も無く、いや…ただただ闇だけが広がっている。


「……。」


あまりの状況に俺は言葉も出せず、ただそれを見つめていた。


どれぐらい時間が経ったのだろうか?


我に返った俺は、改めてこの状況を振り返る。


「多分、俺は死んだんだろうな。」


そう考えれば、このありえない状況もしっくりと来る。


多分此処は死後の世界。

輪廻転生があるかはわからないが、これは如何にも出来ない状況だろう。


ジタバタと足掻いた所で、死が覆される訳でもない。

なら、此処は休暇とでも思ってのんびりしていよう。


思えば、最近は時間を気にしないでゆっくりするなんて事は出来なかった。




―――――――……









「まだ仕事が終わってないのか!?」


いつもの様に上司が頭越しに文句を言ってくる。


「…引継ぎ前の仕事が大分残っていたんで。」


というか、殆ど手付かずで帰りやがったけど…。


サボる後輩を何度も注意したり、上司や社長に報告してみても、まったく改善される事は無かった。


まあ、あいつ親が社長と知り合いだしなぁ。


会社が家族経営だとこういうの多いんだよな…。


残業代は出ないし、有給も無いのに休出はあって…

この年じゃなければ、転職を真剣に考えられたんだけどな。


30代後半になって、だんだん体もいう事聞かなくなってくるし、俺この先どうなるんだろ…。




―――――――……






悪夢に苛まれ、目を覚ます。

此処に来てから何度も似たような夢を見ている。


ある種のワーカーホリックだろうか、夢の中では大体仕事をしている。

そうでなければ、何処かへ食事に向かう夢、食べる前に目を覚ましてしまうが…。

其方の原因も分かっている。それは空腹感と喉の渇き。

もちろん飢餓感はない…。そりゃそうだろう、俺は死んでいるのだから。


しかし、一度の睡眠時間は解からないが、どれぐらいの時が過ぎたのか。


「…あれ?」


掠れた声が出る。しかし今はどうでもいい。


何故、俺は眠るのだろう?死んでいるのなら其れも必要がないのでは?

いや、暇だから眠れなくなるのは勘弁だが……。


考え事をしながら無意識に自分の体を触り、ポケットから煙草を取り出す。


「…ふう…。」


煙草を咥えながら、先程から起こっている違和感の理由を考えている。


相変わらず俺の体は、このよく分からない空間を漂い続けている。


「ん…、いや…其れだと飢餓感が起きないのは…?それ以前に水分が…!?」


そして、異常に気づく。


「死んでいるなら、何で俺はこんな物を持っていたんだ!?」


掠れた声で俺は叫ぶ。


「げほっ!げほっ!…う。」


俺は今呼吸をしている、そしてライターも点いていた。


「死んでいない?」


そうだ!死んでいたら煙草を吸うなんて事はおろか、呼吸だってしない筈だ。


…仮に呼吸が出来たとしても、生前に持っていた物なんて…。


カサッ


足元から音が聞こえる。それに釣られて足元を見ると、コンビニの袋が俺の体と同じ速度で流れていた。


「これって…。」


見覚えがある。

煙草や菓子類、そして飲み物が入ったペットボトルが数本。

仕事の帰りにコンビニで買った物だ。


異世界転移?


俺の頭の中で其の単語が浮かぶ。


「いや…それは無いだろう…?」


異世界転移だというのなら、この状況は何なんだ?

大地も無ければ、空も無い。…というよりも


自分の周り僅か数メートル先が闇に覆われている。

ただ、流されている感覚はあるので、俺の進路上が闇の世界ということは無い筈。

いや、そもそも何で俺の周りだけが明るい?


その疑問を打ち消すように、光が広がっていく…。


「っ!?」


俺は息を呑んだ。


目に飛び込んできたのは、無数のモノ。上も下も無いセカイ。

漂うモノはヒトだったりケモノだったり、家屋や瓦礫といった無機物。

しまいには、宇宙人かモンスターか、そうとしか言いようが無い異形。


全てのモノが止まっている。…いや、流されている。


時空雷雲と神隠し。

子供の頃に見た、国民的アニメで発せられた言葉が頭を過ぎる。

そして涙が流れた…。


状況を理解した俺は絶望した。


目線の先にいたモノ…、それは烏帽子をかぶった人物。


死んでいた方が、遥かにマシだった。




ふと思い至る。


目線の先に居るモノは腰に太刀を履いていて、其れとは別に刀も差していた。


俺は体を動かして、それに手を伸ばす。

僅か一メートル程であるが届かない。

…ジタバタともがいていると、僅かばかり近づいた気がした。

何時間も其れを繰り返し、やがて力尽きる。


目を覚ましたら、同じようにもがく…。

其れを繰り返し、4度程目を覚ました頃には手が届いていた。


帯紐を引き、刀とついでに太刀を受け取る、帯紐にくっ付いていたので仕方ない。

用があるのは刀の方だった。


帯紐を締めて、刀を差す。

そして鞘から引き抜き、刀身があらわになる。


「ん…。」


妖しくも美しい刀身に感嘆の息が漏れそうになる。


「使わせて頂きます。」


物言わぬモノにそう言い、刀を自分の腹に当てる。


「……。」


長い沈黙が続く。

背中が汗でびっしょりとなり、手が震えている。


死…


甘美な誘惑に駆られた行動だった。


「ん!…はあ…。」


死自体に思うところはない。この状況だ、生きていても意味が無い。

それはこの刀の持ち主がよく語っている。


烏帽子をかぶり、太刀を履いているということは古くは奈良から平安時代の人間。

つまり千年以上この空間を彷徨っている事になる。


多分生きてはいるのだろう、心が壊れ精神が崩壊しているのだろうが…。


同じ末路を辿りたくは無い…そう思って自決しようと思っていた。

だけど、結局は痛みへの恐怖で体が動かなくなってしまった。


人は死を受け入れられても、痛みは受け入れられない。

勿論、死を受け入れられる人間もそう多くは無い。…極限状態でなければ…。


「…今は無理だ…、でも…。」


結局俺はその場での自決が出来なかった。



――――――…







「はあ、ろくに休憩も出来ず、サビ残までしたのにそれすら文句を言われる…。」


意味が分からない、サビ残だから手当てが出る訳でもないのに何故文句を言われなくちゃならないんだ!

大体、他の連中が仕事を押し付けているから、こんな状況になっているって言うのに!!


「酒は…、いや残ると明日が辛いか…。」


酒なんて10年以上飲んでない。尤も一緒に飲むような仲間も居なくなった訳だが…。


「今日は…動画か…SSかゲームは…時間あればかな…。」


限られた憩いの時間を有効に使いたい。


「先ずは飲み物と…偶にはスナック菓子でも…後煙草を買い足して…」


買い物を終えて、コンビニを出ると偶然上司に出くわした。


「何だ、御手洗。また無駄遣いばかりしてるのか。」


余計なお世話だ!


「失礼します。」


「待て!まだ話は……!?」


上司が俺の腕を掴んだので、流石に抗議しようと振り返ると上司の顔がどんどん青くなっていく。


ドン!


突然、突き飛ばされて転びそうになった。


「いくらなんでも!」


流石に文句を言ってやろうと思っていたら、目の前に青い光が降って来た。




………




「夢か…。」


いや、夢ではあるけどあの世界での最後の記憶だった。


刀を手に入れてから、かなりの時間が経っていた。

眠った回数での判断だが、最低でも1週間以上長ければ半月は経っている筈だ。


「俺もいずれ、この連中の仲間入りか…。」


死ぬことが出来れば、其れは回避できる。


魂か何かは知らないが、此処から抜けることは出来るだろう。

最悪、魂なんて物が無くて、ただ消え去るだけだとしても、後に思い悩む事も無い。


問題は無い!毎日そう言い続けていたが、結局死ぬことが出来なかった。


暫く俯いていると、何処からか声が聞こえた様な気がした。


「え?」


周りを見回してみると、いつの間にか森の中に居た。


そして、目の前には二人の男が立っていて、驚愕の表情を浮かべていた。


「〇〇だ〇めえ!どこか〇現れやがった!?」


徐々に聞こえてくる男達の怒声。


呆然としていると、男達の表情が卑下たモノに変わっていった。


「高そうな剣を持っているじゃねえか!?悪いがそいつを置いて行ってもらおうか?返事はいらんぞ?」


そう言って男は手にしている剣の様な刃物を振りかぶり、そのまま俺の肩口に落とした。


「――!?」


俺は慌てて咄嗟に避けようとしたが、思う様に体が動かず、刃物が体に食い込む。


「ッッッッ!!?」


声にならない悲鳴を上げて、俺はその場から逃れる為に体を動かそうとした。

だけど、痛みからなのか恐怖からなのか足がまったく動かない。

唯一動くのは腕のみで、ガタガタと震えながら持っていた刀を握り締める事しか出来ない。


男達は俺のそんな様子を見て、不気味に笑いそして……


一人の男が無防備な俺に向かって剣を振り下ろした。



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