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働かなくても生きられるでござる

 大通りから少し離れた脇道を進んだところに、少し古さを感じさせる一つの建物がある。


 そこには剣や槍、弓のようなメジャーな種類から手甲鉤のようなマイナーな武器まで、様々な武器や防具、薬や道具が所狭しと並べられていた。


「暇だ。今週の客は五日前の一人だけ……酷い不景気もあるんだな」


 当然違う。一人座っている男は何をするでもなく間抜け面を晒して窓の外を眺めていた。


 ヤオヨロズ屋。それがこの一度も繁盛したことのない店の名前だ。

 ちなみに一週間に五、六人客が来ればマシな方である。


「何か事件でも起きてパーっと売れないかなー」


「まーた変なこと言ってる。そんなこと言ってるとバチが当たるよ」


「おいリン、そのドアボロいんだから丁寧にだな」


 不謹慎なことを呟いていると、裏口から少女が入ってきた。

 その少女リンは両手でバスケットを抱えていて、その中からパンが覗いていた。


「私ぐらいしか使わないんだし、いっそのこと家と繋げちゃえば?」


「いやいや、何時も使ってるから」


 リンは良いことを思い付いたかのように言いながらバスケットを置き、皿の上にのったパンと透明の液体が入ったビン、スプーン、水筒を並べる。


「今日は良い蜂蜜が手に入ったから持ってきたよ。凄いひんやりしてて美味しいの」


 そう言ってビンの蓋を開け、スプーンで掬ってパンに塗る。その蜂蜜は光を反射して七色に輝いていた。


「スノービーの蜂蜜なんてこの辺じゃ珍しいな」


「北の方から大きな行商団が来てて、色々な物売ってたよ。はい、どうぞ。残りも置いとくね、蜂蜜好きでしょ?」


「ああ、悪いな」


 リンから受け取ったそのパンを一口齧ると、アイスのようにひんやりとした蜂蜜の味が広がり、ほのかな甘味と香りが鼻から抜けていく。


「どう?」


「最高だ」


「えへへ」


 キラキラした目で尋ねたリンの頭を撫でると、少し顔を赤らめて嬉しそうにしていた。


「リン、お前たしか今日十二歳になるんだよな」


「うん、もう結婚出来る歳だからお嫁にもらってよユウ」


「まだはえーし歳の差考えろ。ん……とこれだこれ。俺からの贈り物だ、ありがたく受けとれ」


 台の下を漁り、いくつかの小さな宝石で飾り付けられた青い小箱を取り出してリンに手渡す。


「わぁ!?凄く綺麗!開けていい?」


「あんま期待すんなよ?」


 はしゃぐ姿に苦笑しながら開けるように促す。


 中に入っていたのは銀に輝くネックレス。紅色の宝石が嵌め込まれたリングが一つ付いている。


「すごい……」


 ネックレスを呆けた様に口が開いたまま見つめるリンをよそにパンを食べるユウ。

 正直高くて懐が痛いが、何てことありませんよアピールである。当然意味はない。そもそも気付いていないのだから。


「……ありがとう、大切にしまっておくね」


「まてまてまて、毎日身に付けてくれよ。そのために作ったんだぞ」


「……………………えっち」


「何故だ!?」


「だって、それって、婚約、首輪ってことでしょ……?年下の女の子を拘束して見せつけようだなんて、そんなの……」


 この男最低である。女の子に首輪をつけて衆人環視の中で過ごさせるなど、想像することさえないだろう。


「違うわ!婚約首輪なんてはじめて聞いたぞ、魔除けの魔法だ魔除け、十も離れた奴にそんな鬼畜なことしないしお前トロいところあるし狙われやすいから俺が善意を利かせてやったんだありがたく頂戴して毎日感謝の礼を神にでも捧げて」


「早口は図星だってユウが言ってた」


「……はぁ。俺は違う」


「ふふっ、……ありがとユウ」


「…………どういたしまして。ほら、着けてやるから後ろ向け」


 胸に抱えるようにして持っていた箱の中に入っているネックレスをリンから受け取り、後ろを向いたリンの首にかける。

 前を向いたリンの姿は緑の長い髪に赤い宝石が映えていて、背景さえ無視すれば非常に絵になっていた。


「ん、似合ってるな。外に出るときは一応服の中にいれておけよ、そうすりゃ目立たないから」


「うん」


 嬉しそうにリングを持って眺め続けるリンをよそに水筒の中を確かめるユウ。完全に色気より食い気である。


「あのぅ、すみませーん……」


「お客さん!?そんなバカな……」


 店の入り口から聞こえてきた声にネックレス以上の衝撃を受け、我に帰ったのか帰ってないのかよく分からない状況のリンが入り口の方を見る。


「お前失礼だぞ……。はーい、今行きまーす」


 今ユウ達の居るところと入り口の間は様々な物で壁ができているため、初見の人は恐る恐る入って来ることも珍しくない。

 過保護な知り合いの置き土産で盗難防止は万全なために解消されることはないだろう。


 入り口の近くにいくと、まだ初々しさの残る新品の鎧を身に付けた若い女性が立っており、興味深く辺りを見回していた。

 ユウが来たことに気付くと、瞬時に直立不動の体制になり直角に腰を曲げた。


「ギルドからここに店があると聞いて来ました!よろしくおねぎゃいします!」


「噛んだね」


「あぁ、噛んだな」


 噛んだね

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