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秀吉来る

  信孝は光秀討伐のため、周辺に領地を持つ織田家家臣へ助力を求めるべく、四方八方に使者を遣わした。


  特に、大和国に18万石の領地と計27万石もの与力大名らを傘下に置く筒井順慶には馬3頭と茶器を与えて懐柔を図った。しかし、順慶は光秀の与力大名でもあった。光秀から遣わされた目付がいたため、積極的に信孝に味方することはできないだろう。

  実際、順慶は光秀に援軍を要請され、近江に援軍を出し、光秀に助力していた。

「某とて明智殿が天下に号令できる見込みは無いと見ているが・・・」

  使者が信孝への助力を請うと順慶は言葉を濁した。

「まだ天下の帰趨が分からぬ故、また次の機会に

  お話しいたしたい」

「筒井殿がお味方してくだされば、天下の帰趨は決まりまする。天下は筒井殿次第にございます」

  使者は粘ったが、順慶は唸るのみ。

(筒井殿は地蔵なのか)

  得度していた順慶は地蔵のような風貌をしていたため、使者の目にはなかなか喋らない順慶が脇道に立っている地蔵のように見えてきた。

「筒井殿、色よい返事を期待しておりまする」

  しびれを切らした使者は、そのまま退出してしまった。周囲の家臣らは使者を止めようとしたが、順慶はそれを静止した。

「まあよい。・・・一体これからどうなるのやら」


  その頃、羽柴秀吉が毛利攻めを中断し、2万の大軍勢を率いて明智討伐のため京に向かっていた。いわゆる中国大返しである。

  これを知った長秀は秀吉から送られた書状を持って急いで信孝に伝えた。

「12日には摂津富田に到着する予定とのこと」

  これを聞いた信孝は歓喜した。

「よし!富田にて秀吉を迎えよう!」


  そして12日、信孝は7千の軍勢を率いて摂津富田に向かった。軍勢を率いて明智領に向かう信孝は、ようやく父の仇討ちができることを実感した。

(遂に父上の無念を晴らす!)

「長秀、わしが光秀を討てば、織田家と天下はどうなると思う」

 信孝は父の訃報を聞いた時とは対照的な明るい声で長秀に尋ねた。すると、長秀は顔をしかめて言った。

「このままだと秀吉の勢いが強まることが必定やもしれませぬな」

「秀吉の勢いが強まる?」

「左様、このまま秀吉の軍勢が光秀を討つことになれば、秀吉が上様の仇を討ったことになりまする」

「と申すと・・・」

「上様の無念を晴らしたのは信孝様ではなく秀吉ということになり、秀吉が織田家に取って代わることも考えられまする」

  信孝には理解できなかった。秀吉は2万の軍勢を率いてはいるが織田家の家臣に過ぎない。対する織田信長の三男である信孝は次期当主あるいは後見人になる資格がある。

  当然、秀吉が信孝を超えるほどの力を持つことは無いはずだ。しかし、長秀の読みによると秀吉の力が強まるという。

「では、どうすれば秀吉ではなくわしが光秀を討ったことになる?」

「この戦の総大将を信孝様が務めればよろしいかと」

  信孝は長秀の言葉に納得した。

「では、軍議でわしを総大将に薦めてほしい」

「承知いたしました」


  信孝らが富田に到着に到着したのは、昼下がりであった。ちょうど羽柴軍が陣を張っているところらしい。多くの人夫たちが幕を張っている場所が、秀吉の本陣であろうか。

  信孝が長秀とともに本陣に向かうと、秀吉がひょっこりと幕から顔を出した。周りを見回すと、おもむろに幕から全身を出し、幕の向こうに歩いていった。

(秀吉、何をしようとしているのだ)

 信孝は不審に思いつつ、陣幕の中に入った。

「ああ、これは信孝様、丹羽殿」

 出迎えたのはすでに秀吉の配下に加わっていた摂津の池田恒興だ。恒興は母が信長の乳母だったため、信長の信頼が厚く摂津に領地を与えられてていた。


 しばらく待っていると、秀吉が帰ってきた。信孝は秀吉を見かけることはあったものの、こうして対面するのは初めてだった。

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