異世界を近代化するには(第5回)
化学の進歩は近代化を進めるにあたって必要不可欠と言っていいでしょう。今回は化学が生み出した無煙火薬を取り上げます。
なろう小説において、主人公が火薬を発明するというシーンがよく見られますが、その多くは黒色火薬です。黒色火薬は中国三大発明の一つにも数えられ、火器の発展をもたらしましたが発煙量が非常に多いという弱点があります。例えば茂みに隠れて敵を狙い撃とうにも、一発撃てばすぐに敵に捕捉されてしまいます。また、斉射すると戦場一面が霧で覆われたかのように白くなり、何も見通せなくなってしまいます。そんな弱点を克服し、まるで発煙しないかのように見えた火薬が19世紀に発明され、無煙火薬と呼ばれるようになります。
この無煙火薬、発明されたのがかなり遅いため、製造がかなり難しいと思われているように推測します。だからこそなろう小説に登場させる火薬に黒色火薬が選ばれがちなのではないでしょうか?実は無煙火薬は意外とそこまで高度な技術を要求しないものであり、中世ヨーロッパ風の世界観を持つなろう世界であれば十分に実現可能です。
そもそも無煙火薬とは、ニトロセルロース、ニトログリセリン、ニトログアニジンといった物質を基材にして作られる火薬の総称です。この内、比較的製造の容易なニトロセルロース及びニトログリセリンを紹介します。
共通の材料、前提となる技術
ニトロセルロース、ニトログリセリンはどちらもある種の有機物をニトロ化して得られる物質です。こう聞くと、何か特別な難しい技術が必要に思えるかもしれませんが、必要な材料さえ揃えられれば合成は難しくありません。
ニトロ化を行うには、濃硫酸及び濃硫酸が必要です。硫酸は火山地帯等で採れる硫黄鉱石を加熱して得たSOxガスを水に溶かして得られます。その他にもミョウバンやリョクバンを加熱することでも得られます。硝酸は硝石(KNO3)と濃硫酸を反応させることで得られます。硝石は主に動物の死骸や糞が堆積して出来た岩礁などで豊富に採取することができます。硝石のあまり採れなかった日本では、肥溜めから結晶化した硝石を集めたと言われています。
硫酸、硝酸はニトロ化反応を行うために濃度を上げる必要がありますが、これは蒸留によって容易に行うことが可能です。
ニトロセルロースの製造
ニトロセルロースを作るために必要なもう1つの物質の「セルロース」ですが、これは平たく言えば植物の繊維のことです。麻や亜麻などを使うも良し、紙でも問題ありません。このセルロースを濃硫酸と濃硝酸にしばらく漬けた後にしっかりと酸を洗い落とせばニトロセルロースの出来上がりです。
ニトログリセリンの製造
グリセリンにはいくつかの製法が知られていますが、なろう世界において最も実用的なものは塩基によるエステルの加水分解反応を利用する方法でしょう。このような書き方をすると非常に小難しく聞こえるかもしれませんが、このような反応は鹸化と呼ばれています。字が表す通り、石鹸を作る際に使われる反応です。鹸化反応では、油脂に塩基類(実用的なのは植物灰など)を混ぜ合わせます。このときに出来上がるのが塩(石鹸)とアルコール(グリセリン)なのです。
こうして得られたグリセリンを、ニトロセルロースのときと同様に濃硫酸及び濃硝酸で処理するとニトログリセリンが得られます。
上記の製法を見るとかなり簡単な印象を受けたのではないでしょうか?無煙火薬は近代になって登場したが故にかなり高度な技術を要するように思われるかもしれませんが、なろう世界でも十分に実現可能です。
個人的なおススメは石鹸を普及させてドヤりつつ、副産物のグリセリンを利用してニトログリセリンを合成するというものです。
なお、ほとんどの方はご存知かと思いますが、ニトログリセリンは少しの衝撃で爆発してしまうため珪藻土に染み込ませたダイナマイトの形で利用されることが一般的です。
気が向いたとき、ネタが思いついたときに更新していると、気が付いたら前回の投稿から1年が経っていました。
今後も今のように気ままに更新していきますので、良かったらご拝読いただけると幸いです。