瘴気を祓う
「闇」や「魔」の象徴として描かれる瘴気を祓うには、「光」や「聖」の象徴である勇者や聖女の力を利用する以外に方法はないのでしょうか?
この章では、中世的文化レベルでも扱うことのできる技術、ファイトレメディエーションを紹介します。
ファンタジーを題材としたなろう小説では、瘴気と呼ばれるものが良く登場します。細かな設定に違いはあるものの、それを吸収した動物が魔物になるといった設定を多く見かけます。そんな瘴気を祓うには「聖属性」の魔法が専ら使用され、大規模なものは勇者や聖女と呼ばれる特別な人たちでなければ行使できないというように描かれます。
勇者や聖女は人類の中でも稀少な存在であり、小さな村々を1つずつ廻り、瘴気を払うといったことは現実的に不可能でしょう。そうした場合に、現実的に利用可能なものが植物です。
ファイトレメディエーションとは、植物を利用して土中の重金属等の有害物質を取り除く試みを指す言葉です。仕組みはいたって単純で、植物が根を通して土中から有害物質を吸い上げ、環境汚染物質は植物中に蓄積されます。最近では福島第一原発事故で発生した放射性物質を除去するための研究として注目を浴びました。
この方法の利点は汚染物質が植物の体内に蓄積されることで濃縮が行われることにあります。植物の吸肥力には差があるため、ファイトレメディエーションにおいては吸肥力の特に高いC4植物が良く使用されます。例としてはトウキビやトウモロコシが挙げられます。
難点として、C4植物は吸肥力が強いことから有害物質だけでなく栄養分も多く吸い上げます。そのため土中が栄養不足に陥りやすく、連作には向きません。
なろう小説において瘴気を祓うために植物を使うことの合理性は以下の2点が挙げられます。
まず始めに、特別な科学技術が必要ありません。語弊を恐れずに言うと、植物をその土地で育てていれば勝手に除染をしてくれるのですから、文明レベルが中世的とされることの多いなろう小説でも十分に適用可能です。
2つ目に、瘴気が生物の体内に取り込まれやすいものとして描かれることが多いことは、この手法と非常に親和性が高いです。例えば福島第一原発事故で放出された放射線核種のうち、植物が通常栄養として利用するカリウムやナトリウムに近い90Srや137Csは比較的除染しやすいと言われますが、それ以外の核種には有効性が下がります。その点、瘴気は栄養素として必要かはともかく体内に良く取り込まれるため、この手法に向いていると言えます。
注意しておかなければならないこととして、ファイトレメディエーションは植物が根から栄養を吸収することを利用していることを念頭においておく必要があります。すなわち、植物の根が届かない場所の汚染は除去することができません。また、空気中の汚染物質を取り込む訳ではないため瘴気が土壌に染みこんでいる必要があります。後者についてはあくまで現実の話であり、ファンタジーであれば植物がカルビン・ベンソン回路やC4回路を利用して炭酸固定をするように、瘴気も固定できるというように描くことも無理筋ではないと思います。
勇者や聖女の手が回らないような田舎ではどの様に瘴気を祓えば良いのか?という問題に対して、植物の利用は1つの解決策になると思います。むしろ、そういった取り組みなしで瘴気を除去することは不可能とすら考えています。
なんとなく祓うのほうが格好良いからこっちの漢字を選んだけど、可読性的には払うの方が良いよね。