神様のなみだ(オーパーツ物語)
オーパーツ(Out Of Place Artifacts)
それらが発見された場所や時代とは、まったくそぐわない、と考えられる物品。その時代には有り得ない物。
さて、ところで、みなさんは、カイラス山という名の山をご存知だろうか?
この物語は、まず、この山の話から始めなければならない。
ヒマラヤ山脈の最深部に位置する海抜6714メートルのこの山は、仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、ボン教、その他、多くの宗教の最高の聖地として崇められ、太古の昔から沢山の巡礼の人々を惹き付けてきた。
旧くは中国の古典、西遊記の中で、三蔵法師や孫悟空の一行が目指した山であり、旧約聖書の大洪水の後、ノアの箱舟が漂着した山である、と言う珍説もある。
人類最古の文明を築いた、シュメール人の故郷とも言われている。
チベット仏教の熱心な信者たちは、この聖なる山に巡礼する事を一生の喜びとし、何ヶ月も何年も、時には何十年も費やして五体投地(ごたいとうち、地面に寝転び、手の届いたところまで歩を進め、それを繰り返して、尺取り虫のように進んで行く)をしながら遠くからやって来て、巡礼行をしてゆく人が絶えない。
なぜ好きこのんで、そのような苦行を?…と思う人も多いと思うが、土埃にまみれ、よれよれの外見とは裏腹に、彼らの顔は喜びに満ち、明るく輝いている。
彼らは、その場所に居ることだけで無性に気持ちが良いという。
一説によると、地球に突き刺さったような、この山一つが、まるまる一枚の岩盤…地表に出た部分だけで約7000メーターの一枚岩…であると言う。地ベタの下に、さらに何千メーター埋もれているかは、神のみぞ知る、と言ったところか。
ヒンドゥー教やジャイナ教では、「世界の中心にスメール山(須弥山)と呼ばれる宇宙軸が通っている。」と言い、それがこの山の事だと言う…。
その 1
昔、むかし、そうさな…今から約1万8千年ほども昔のことじゃ…。
このような、ヒマラヤの聖なる山々の麓を登って来る一行の中に、ひときわ異彩を放つ13人の男たちがありました。
この、一目で遠い遠い国から来たとわかる顔付きや服装の男たちは、それぞれ一人一人が特別のオーラを発しているように見える。
道行く人たちの中には、ひざまづき、手をあわせて一行が通り過ぎるのを待つ者さえある。
どこまでも澄みきった青空の下。呼吸は少し苦しいながらも、全ての顔が目的地に到着した喜びに満ちている。
ひときわ快活な若者の合図で、人々は一斉に荷をほどき、設営の準備が始まった。
山の中腹とはいえ、陽が落ちれば、たちまち氷点下の世界がやって来る。
彼らは手際よく動いて、小一時間程でドーム型のテントが出来上がった。
13人の男たちは、若者を中心に、定められた順番のとおり、円陣を組んで座り、少々の飲み物と食物が用意された。
食事が一段落して、めいめいが、それぞれの刻み煙草を出して一服しはじめた頃、
「さて、それでは、今日の12星座会議を始めよう」
と、くだんの若者がきりだした。
「誰か、この場所がなぜ、こんなに気持ちがいいのか、説明してくれないか?」
すると、車座に座った男たちのうちの一人が口を開いた。
「王子、それは、この山が、昔から知られた霊山だからですよ。」
「うむ、では霊山とは、一体、なにか?この、ただならぬ気はなんなのだ?」
しばしの沈黙の後、別の男が話しはじめた。
「王子よ、あなたも、あの、王家に伝わる水晶の球を使った儀式を御覧になった事があるでしょう?あのような純粋な石に、聖なるパワーを加えると、そこにエネルギー場が生じるのです。」(水晶に一定の圧力を加えると帯電し発振する。この作用を利用したものがクォーツロックという技術として知られている。)
「うむ、あの儀式のことか…。みなの声や音に合わせて、あの二抱えもあるような水晶の玉が唸りだし、最後には式典ドームごと、唸って、発光しておった。
が、しかし今一つよくわからんな。」
すると今度は、王子の正面の小柄な男が話しだした。
「つまり、この山自体があの水晶の球のようなものなのです。そしてそこに、山自身の重さという途方もない圧力がかかっているわけです…」
「なるほど、そのエネルギー場が、こんなにも人を気持ち良くし、活力を与えると言うのか…」
この一行は、それぞれ違った星座生まれの賢人たちからなり、このようにして、いつも360度、円卓の12星座合議制によって、物事の真実に近づいて行こうとしているのだった。
例えば、月のような球体を円卓の真ん中に置いたとしよう。
陽のあたる、こちらから見た者は「それは、明るく輝く物だ。」と言い、
180度向こう、ダークサイドから見た者は「それは真っ黒で、ほとんど見えない。」と言う。
90度左手に座った人は「右半分が明るい。」と言い、
右90度は「いや、明るいのは左半分だ。」と言う。
どれもが真実だと解らずに、自説を曲げず争い合い、果ては殺し合うほどバカげた事はない。
(だが、そのバカげた事が行われている現実!)
円卓の合議制は、…すべての方向から眺め、広い視野に立って、多様性を認めあってこそ、はじめて真実が見えて来る…と言う発想だ。
(キリストの12人の使徒やアーサー王の12人の円卓の騎士達も、もしかすると、この発想によって選ばれたのかも知れない。)
祖国では、それぞれの星座の男女24人×4ブラッドタイプ、96人、プラス、血液型も性別も越えた12人、計108人が一つの単位となって合議制が行われていた。
思えば、360度回る銀河系、360度回る太陽系の中の 360度回る地球。
一年サイクルのこの星では、春には春の、秋には秋の花が咲く。
こういった、宇宙の法則が、人間の小宇宙にも反映されないはずが無い。
人間だけが、一年通して変わる事が無く、星の運行による季節の影響を、全く受けない、と考えるほうが不自然というものだろう。
この考え方のもう一つの良いところは、簡単に言えば仲間はずれが無いと言うことだ。
すべての人が何処かに所属することになる。
…と彼らは言う。
王子はしばらく考えてから
「姫も連れてくればよかった。」と誰に言うともなくつぶやいた。
「それは無理です。姫君のお体ではこのような長旅には耐えられないでしょう。」
「わかっておる。…が、しかし、残念なことじゃ。」
王子は、少しだけ悲しい顔をしたが、その夜の会議が終わって、みんなが寝静まってからも、満天の星空の下、何ごとか深く考えている様子だった。
…そうだ、我が国にも、このような山を造ってしまえば良いのだ。
…ともあれ、明日は、目的の老人に会える。未来が見えると言う、その老人に…。
このような一行の上に、戦士の形をしている、と言い伝えられたオリオンの星座が、今日はまた、ひと際大きく輝いていたのでありました。
その 2
その朝、目覚めると同時に、姫は一つの確信に捕われた。
…王子が帰って来る!しかも、もうすぐそこまで来ている…。
身支度もそこそこに、あわてる乳母をしり目に、長い石段を駆け登ると、城の尖塔の上に出てみた。
地平線には、いつもと変らぬ景色が拡がっていた。
どこまでもどこまでも続く砂の海。
かろうじて城の周りにだけ、オアシスが拡がっていた。
ただならぬ様子に気付いて、追って来た乳母に向かって姫は言った。
「王子が帰って来るの!もうすぐよ!」
「まあ、姫様、それは、ようございました。けど私には、何にも見えませんよ!」
乳母は、姫の面倒をよくみてくれる従順で善良な女だったけれど、すこし鈍重で、おまけに、姫の、このような奇矯な行動や肌の色を哀れんでさえいた。
「いいえ、ばあや、私にはわかるの!あの人はすぐそこよ!」
姫は生まれついての白い肌の持ち主だった。
母も父も兄弟たちも、みんな健康な真っ黒い肌をしているのに、姫だけが色素が薄いのか、生まれた時から真っ白な肌をしていた。
骨格も細く、兄弟たちにくらべて、あまりに華奢だった。
この前の時代あたりから、近親婚や、なんらかの種の変異、(または、神の周到な計画?)などにより増え始めていた白い肌の人々は、しだいに社会問題化して、差別され、どんどん海峡の北、ユーロぺと呼ばれる偏狭の地へと追やられていた。
今世紀に入って彼の地では、暴動が頻発していた。
王族の子で無ければ、姫にとても過酷な運命が待ちうけていたに違い無い。
こんなハンディキャップのおかげで、姫は極端に控えめな性格だった。
幼馴染みだった王子だけが 唯一この負い目を忘れさせてくれる遊び相手だった。
「ねーねーおじいちゃん、どうして私だけ、こんなふうに色が白いの?」
「んー、それはね、おまえがもっと大きくなったらわかるよ。」
「ふーん、そう…。」
「どうした?姫はその肌の色が嫌いかい?」
「だって、私もみんなと同じがいいの。
…ねーねー、肌の色って変えられないの?」
「うむ、そいつはちょっと無理だな。… おいおい、どうした?おかしいぞ、めそめそするなんて。姫らしくも無い!
いいかい、神様がおまえをそのように造ったからには、きっと何か、わけが有るに違い無い。今にきっと、そのように生まれた事を嬉しく思う時がくるさ。
さあさあ、もう泣くでない。おじいちゃんがとっても、面白い話をしてあげよう。
昔、むかし、そうさな… 」
成人した王子が、姫を妃にすると言い出した時には、国中がひっくり返ったような大騒ぎ。誰一人、賛成するものはなかった。
姫自身が「私のような醜いものを妃にするなど…」と固辞したにも関わらず、王子の意志は堅かった。
「なぜ、醜いなどと決めつけるんだい?確かに君は、他の人たちとは違っているけど、僕は憐れんで君と結婚するのではない。誰がどう思おうと、全然、かまわないさ。
僕にとって、君は、世界中で一番美しい。」
婚礼の前に王子は永年の悲願であった、東の果て、幻の霊山への命がけの旅に出かけて行ったのでありました。
その 3
さて、帰国した王子は、めでたく姫との婚礼をあげた。
少しづつ姫の人柄が知れわたるにつれ、もう誰も反対するものも無かった。
それはそれは華やかな婚礼でな、国中の村々でも、人々は、二人の結婚を祝って飲めや歌えの大騒ぎじゃった。
思えば、この頃が二人の生涯で最も幸せな時期だったのじゃな。
やがて王子は、姫と過ごす時間以外は城の尖塔に登って、呆けたように砂漠だらけの自分の国をながめては、ため息ばかりつくようになったのじゃ。
姫は姫で、ときおり一人、なにか深くもの思いに沈んでいるようじゃった。
で、ある日、王子は、突然それまでの生活を改め、毎日のように十二星座円卓会議を召集しては、何ごとか協議していたかと思うと、12人のブレーンだけを連れて出かけて行って何日も帰らなかったり…そしてある日、国中の村々に、おふれが出された。
あらゆるスポーツや学業の祭典をひらいて、優秀な人材を多数召し抱える、というのだ。
競技の中には、長短距離走、球技や体操の他に、念力相撲大会(相手に手を触れることなく土俵の外に吹き飛ばした方が勝ち)や、シャーマン技比べ、ヒエログリフ(象形文字)解読大会、読心術大会、などが含まれていた。
話し忘れていたかもしれないが、この頃の人間たちは、今では失われてしまった、人の心を読むことや念力で物を動かすこと、遠くの物を見る、などの能力を、みんな少しはまだ持ち合わせていた。
この大会は、オリオンの星座にちなんでオリオンピックと名付けられた。
姫と王子の華やかな婚礼のもようや、この一大祭典の話は置いておいて、話しの先を急ぐとしよう。
大会の後に、選ばれた者たちを待っていたのは、想定外の過酷な重労働だった。
シャーマンやヒエログリフ学者たちは、毎日の円卓会議に忙殺され、中でも、念動力の強い者たちは、遠くの島まで連れていかれ、岩を切り出しては運ぶ作業に従事させられた。
岩を切り出す者たちは、片腕をまえにかざし、赤い石のついた腕輪と指輪によって、額にあって普段は隠されている第三の目とよばれるスポットから発するパワーの照準を合わせ、最終的には大小さまざまの水晶の球によって増幅されたパワーの焦点をあわせ、あたかもレーザー光線のように巨石を切り出して行った。
…今も世界のあちこちから発見される正体不明の石の球(中には真球率99.5%以上、直径2.6メートルの大きなものもある。)は使い終わって変質した古代水晶の球、いわば、昔の使用済み核燃料といったところじゃ。
なに、そう言うおまえは誰かって?
わしは、この物語の隠れた語り手じゃ。まあ、わしの事もおいおい明らかになって行くじゃろう。
その 4
「ねーねー、おじいちゃん。」
「ん、なんじゃな。」
「人はみな、どこから来て、何処へ行くのかしら?」
「ほほう、今日はまた、ずいぶんと難しい質問じゃな…。
…姫、ここへ来て、あの星を見てごらん。
あそこに見える、あの戦士の形をしている、と言われているオリオン座のベルトのところに、三つ並んだ星がみえるじゃろ?
その一番右の星じゃ。ミンタカと呼ばれておる。
遠い遠い昔に、人はあの星からやって来たのじゃ。」
「あの星から?」
「そうじゃ。」
「あの星から、どうやって?」
「んー、どう説明したら、良いかのう…。一種の船のような物に乗ってやって来たのじゃ。それは…そう、光りの船じゃ。」
「光りの船?」
「そう、光と時間の船。
そして、あたかも、動物のように暮らしていた、この人間それぞれの身体に宿ったのじゃ。
人はな、心と身体から出来ておるのじゃ。
身体は、この地球のものじゃが、心は、そうではない。
あの星からやって来て、何度も何度も生まれ変わり、最後にはまた、あの星へと戻ってゆくのじゃ。
ははは、これはまだ、すこし難しすぎたようじゃな。
姫がもう少し、大きくなったら話してあげよう。」
今や、王子の思いつきは、国家的大事業へと発展していた。
切り出された巨石は、1080人一組のエスパーたちによって、意志統一のためのラッパの音や歌声とともに、次々に宙を浮いて運ばれてはカットされ、積み上げられていった。(この頃は、まだ地球の重力も今ほど強くはなかったのじゃな。)
城の尖塔から、はるかかなたに見えるその巨大建造物は、少しづつ少しづつ形を整えて行った。
何万人もの労働者たちが駆り出され、さながら戦場のような在りさまだ。
ときには、酷使されたエスパーたちの集中力が衰え、大きな事故につながることもあった。
そんな時、姫の心はいたんだ。
政治には一切、口を挟まなかった姫も、何度目かの事故の後、ついにたまりかねて、王子に一言、忠告しようと決心した。
王子の怒りも覚悟の上とは言え、最悪の場合、うわさに聞く海峡の北、飢餓と殺りくの地へ追われる事を思うと身震いが止まらなかった。
「王子、この事業はいったい何のためなのでしようか?このような犠牲を払ってでも、なしとげる価値のある事なのですか?
人々は疲弊し、この事業に対する怨嗟の声が挙がっています。
そんな事のわからぬ王子ではなかったはず。」
常ならぬ姫の抗議にたじろいだ王子は
「姫、今は時間がないのだ。…完成まで待って欲しい。この事業が完成した暁には、全てを話そう。」
と、約束したのじゃった。
さて、時はまたたく間に過ぎて、どうやら事業も完成に近付いた。
全貌を現した建造物は、まったく驚くべきものだった。
そう、それは、後の世でピラミッドとよばれる事になる、四角錐の巨大な石の山だった。
その 5
「姫よ、何をそう、うかぬ顔をしておる?」
「まぁ、おじいさま…」
「悩みがあるなら、いつものように、このわしに、話してみるがよい。」
「いいえ、私は、信じられないほどの、幸せものです。ただ、ひとつ…」
「ただ、ひとつ?」
「私たちは、まだ、子宝に恵まれません。」
「ムム…」
「もしかしたら、私のこの身体に原因が有るのかも知れません。あの人の優れた血を、受け継ぐ子を産むことが出来ないとしたら、私は、妻としても女としても失格です。」
「姫よ、そう自分を責めるものではない。子供が出来ないと決まったわけでもなかろう。悲しまずに時が満ちるのを待つのじゃ。」
ある満月の晩、王子は宮殿のテラスで、刻みタバコを燻らせ、ゆったりとくつろぎながら、姫に向かって語り始めた。
ときおり、頬をなでる風が心地よく吹き過ぎてゆく。
姫にとっても、夢見るような美しい夜だった。
「今から話す事に、どうか、驚かないで欲しい。
わしは、そなたと出会えて本当に幸せだった…。
そして、ある日、この幸せがいつまで続くのかと、とても不安になった。
姫の病弱さが気にかかった。
やがて、その事だけが、わしを苦しめるようになった…。
この国の遥か東の方、聖なる山々の連なるヒマラヤの山中に、父の12人のブレーンのうちの一人だった、ある老人が住んでいる。
すでに 200才を、ゆうに越えている、とも、木の実か果物以外の食物を、いっさい口にしない、いや、もはや全ての食物を口にしない、とも言われている。
かの老人には、未来が見えるという。
わしは、たまらなくその老人に会いたくなった。
会って、訊いてみたくなった。おまえとわしに、残された時間の事を…。」
姫は待ちきれなくなって先を促した。
「それで、お会いになったのですね?」
「ふむ、」
「で、彼はなんと?」
「わしらに残された時間は永くない。」
「…。」
「あと、月が三巡り、欠けて満ちるまでの命…。」
「……。」
「が、それは姫の命では無い。」
「!!」
「私の命だ。」
「!?!?!?!???…。」
「でも王子!かの老人の予言が、いままでに間違ったことは?」
「無い。」
「!……。」
「しかし姫よ、わしは、必ず戻って来る。」
「!??????????…。」
「この、ピラミッドは、言わば、そのための装置なのだ。
わしと、わしの円卓の12人は、この時代のすべての知恵と力を結集した。
…まず、わしらが注目したのは、王家の墓の壁一面にかかれた「死者の書」と呼ばれるヒエログリフだ。
とうに滅びてしまった前の文明の遺物だ、と言い伝えられるこの壁画には、なんと「肉体を保存し、死者を甦らせる方法」が記してあるというのだ。
沢山のエスパーやシャーマン、甦りや、壁画解読のエキスパートが国中から呼び集められた。
そして、あらゆる事が検討し尽くされてプロジェクトが始動した。
まず、純粋な鉱物を集めて、十分な質量の山のような建造物をつくる必要がある。
その頂点に、地球上で最もパワーのある、聖なる石を乗せよ。
東西南北、四方のエネルギーを均等に取り込み、中心に集めよ。
その中心近くに玄室を造り、そこに、適切に処置された、もどるべき肉体を安置し、オリオンのベルトの三ツ星の一番右の星「ミンタカ」が南中したときに、その光が射し込むよう、スターシャフトを開けよ。(20cm×23cmほどの入り口をもつ64mにも及ぶシャフト。どうやって造ったかは、ピラミッドの数多い謎の一つ)
我々の魂は、その星から来て、そこへ帰るからだ。
我々が、こちらの世界で出来るのはそこまでだ。
滅び去った前文明のころ、その方法で甦った王があるという。
この国のあちこちにある、くずれたピラミッドとミイラの謎がやっとわかって来た。
ヒエログリフによれば、なんでも、
…肉体の無い、傷みの無い世界から、神と、神である自分の意志により、時間の船に乗って、星の光となって元の体に舞い戻った…という。
どこまで信じてよいやら、わたしにもわからなかったが、かつて甦った人間が一人でもあると言うのなら、やってみようと思った。」
そこまで話し終わった王子を、突然、姫が抱きしめた。
姫は、もう何も聞きたくなかった。
ただただ、永遠にこうしていたいだけだった。
最初の一月の間、姫は、今まで以上に幸せだった。
王子は、他の全ての事を犠牲にして姫との日々を過ごした。
なにげないオアシスの散策や水浴び、自分たちで作る屋外での食事は笑い声にあふれ、時には満天の星空の下、オリオン座を見上げて、二人ただ、じっと黙ったまま過ごした。
このまま、幸せがつづくかにおもわれた。
しかし、二度目の満月が近付くにつれ、予言どうり王子は、みるみるやつれていった。
全ての医者がさじを投げると、三度目の満月が来る前に、王子は、賢人たちの勧めにしたがって、姫に「また逢おう。」と言い残してナワ・マハサマディ(すこしづつ呼吸を減らしていって、自ら命を断つ)に入った。
三度目の満月の晩、王子の魂は肉体を離れ、ミンタカへと向けて、旅立って行った。
その 6
「ねー、おじいさま。人はなぜ死んでしまうのかしら?そして、もし本当なら、何の為に、何度も生まれ変わって来るの?」
「なぜ?何の為に?うーむ、これが一番、難しい質問じゃ…。
正直に言うとな、姫、それは、わしにもわからんのじゃ。
ただな、わしらの魂はな、ひとつの肉体の命の経験から学ぶ事ができるのじゃ。
姫は、王子との間に子供が無いことを嘆いておったがの、だからといって、姫や王子のその一生が無駄になるわけではない。
その肉体において経験したことは、魂によって次ぎの生へと引き継がれて行くのじゃ。
今の世界を見回してみよ。世には、争いがあふれ、陰謀が渦巻き、人と人は傷つけ合い、憎みあい、はては、親子でさえ殺しあっている。
せっかく神様からもらった、見る力、読む力、動かす力や感じる力、信じる力、様々な力の成果を、結局のところ、強い物だけが独占して、奪い合い、争い、弱い者たちが、常に犠牲になって血や涙を流しておる。
海峡の向こうでは、北に追いやられた白人たちとの戦争が、取り返しのつかぬほどエスカレートしておる。このままでは、お互い黒魔術をかけ合って、双方ともに壊滅的な打撃を被りかねん。(世界各地に残る伝承では、前文明は、黒魔術の使い過ぎによって亡びた、とされている。中国では、今回が八回目の文明だという。七転び八起き?)
実はな、永い永い地球の歴史上、既に6つの文明が興っては亡び去ったのじゃ。
だがな、姫よ。
わしら人間はな、尊い一つの死から学ぶ事が出来るのじゃ。
戦場で散った魂は、生まれかわってくる時には戦争のない世界を望むことだろう。
愛する者を失った痛みを知る魂は、殺し合い、争いあう事の無い世界を夢見ることじゃろう。
魂はな、少しづつ少しづつ学んでおるのじゃ。
肉体や、この星との…いや、それ以上に、人間という、この厄介な生き物との和合のしかたをな…。
いつの日か、人類は、この奇跡に満ちた美しい星の上で、争う事無く暮らしてゆけるようになるじゃろう。
わしは、そう信じておるのじゃ…。
予言による甦りの日が来た。
姫は、王子の遺体を安置したピラミッドの玄室の中にあった。
なるほど、ピラミッドの中、どのような魔術が作用するのか、霊気がただよい、王子の遺体は亡くなった時のままだった。
ナワ・マハサマディによる死も、肉体エネルギーの保存に役立っているようだった。(インドの聖者、ヨガナンダ師の肉体は、マハサマディーによる死後、何日経過しても全く腐敗する様子を見せなかったと言う。)
すでにオリオンは中天に昇り、今まさにミンタカの光がスターシャフトから差し込もうとしていた。
突如、強烈な眠気が姫を襲った。
「姫、姫…。」
「王子!王子さま!?」
「そう、わたしだ。」
姫は、王子の胸に飛び込んだ、と思った。
「戻られたのですね!!よかった、よかった、よかった!」
「…。」
「…。」
「だがな、姫よ。
伝えなければならない事がある。
この幸せも、そう長くは続かないのだよ。」
「…。」
「人間が自らの意志で元の肉体に蘇ることは、どうやら、神の摂理に反するらしい。
わしは…いや、人類は、神の領域に踏み込み過ぎて、神の怒りを買ってしまったようだ。
神は、今の世の、人間たちの有り様に腹を立てて、世界をもう一度、造り直す事に決められたのだ。
神は、おっしゃった。
わしは、人間たちに、すこし与え過ぎたようだ。と…。
もうすぐ、とんでもない大災害が起こって、ほとんどの人間は死に絶えるだろう。」
「では、私たちも?」
王子は、黙ってうなずいた。
「残念ながら、わしにも、そなたを守ってやることができない。
神の計画は、誰にも変えられぬのだ。
だが、姫よ、わしは知っている。
そなたの魂は、誰よりも強い。
恐れをしらぬ魂。
どうか、来るべき死をも恐れないでほしい。
肉体の死の苦しみは、過ぎ去ってみれば、ほんの一瞬のようなものだ。
その後には、痛みも苦しみもない世界が待っている。
姫、今度こそ、おまえといっしょにいようぞ。
最後の時まで…。
その 7
その頃、12人の賢人たちも、夢とも幻ともつかぬ世界で、それぞれが神と対面していた。
神は老人の姿をとって顕われ、人間の言葉で話された。
「この、愚かものどもめ!
わしが何の為に、そちたちに、人より優れた能力を与えたと思っておるのじゃ。
恋に落ちた、たった一人の恵まれた愚か者を助けるためではない!
この大事業の過程で、どれだけの家族が働き手を失い、何人の子供たちが親を失ない、はたまた、海峡の北では、どれだけ沢山の人々が、餓えや暴力に苦しんだ事か!
おまえたちには、小さきもの、弱きものたちの流す、血の涙が見えなかったのか!
不正や黒魔術が蔓延り、疑い、落としめ合うこの世界は、もう、わしにも、どうにも手が付けられん。
わしは、今回のこの文明も、もう一度、白紙に戻す決心をした。
次ぎの文明では、人間たちは超能力なしに暮す事になるであろう。
よいか、お前たちに最後のミッションを与える。
この試練は、おまえたちにとってすら、そうとうに過酷じゃ。
この中の何人が生き残るかは、わしにも分からん。
二度と会えるとは思うな。
おまえたちが顔を会わせるのは、文字どおり、骸骨になってからじゃ。
12個の水晶の髑髏となって、おまえたちが再び顔を会わせるのは、この地球上に真の平和が訪れた時じゃ。
まず「M 」よ、おまえには次ぎの文明の、予測される危機の内の三番目の危機の時代に出現してもらう。
生き残ったカド族(ユダヤの失われた10支族の内のひとつ。ミカド(皇室)の祖先とする説がある)の血を絶やさぬよう、追われて逃げるユダヤの民を救うのだ。
彼らが、海を渡り生き延びれば、東の果ての島国に、しばし安住の地を見いだすであろう。が、おまえに、その力が無ければミ・カドの血も、そこまでじゃ。
そのかわり、おまえには、海をも割る力と、とてつもないパワーを持つ、聖なる石をさずけよう。
つぎに「J」、おまえは予測される四番目の危機の時代。
発展途上の、野蛮で残酷な人間たちに善の心を説くのじゃ。
これは、最も過酷な任務じゃ。
12人のブレーンを授け、おまえの持っている病を癒す力は、そのままにしておこう。
「B 」よ、偉大なおまえには、わしは何も言うべきことはない。
次ぎの時代に台頭する、黒でも白でもない(黒と白をつなぐ色)の人たちの礎となって、片寄る事のない心、の大切さを伝えてくれ。
「A 」よ、おまえは、その並外れた頭脳で、人間たちに宇宙の真理と、聖なる石のパワーの秘密を解き明かすのじゃ。この場合、偏っていてもかまわぬ。理解できるものは、ごく少数でかまわん。
先端を切り開いてゆくのじゃ。
「T 」、おまえは、次の文明の予測される7番目の危機の時代(ええい、この際、数字は、もう、どうでもよい!)に女性として現れ、虐げられた人々の中でも、最も貧しい者たち、最も苦しむ者たちを救うのだ。
おまえに与えられたのは強い意志だけだ。だが、それが、人々にとって最高の贈り物となるであろう。
そして「L 」、おまえは、その、音と言葉をかなでる特技によって、信じるものを失くした世代の、よりどころとなるのだ。
音楽によって、人々の心を内側から変えて行くのだ。
「Q 」よ、おまえの女性としての一生も相当に過酷なものになるだろう。なぜなら、そこは、光りも音も言葉もない世界だから…世界中のハンディキャップを背負った人たちの希望の星となるのじゃ。
「k 」よ、おまえには、少し特殊な任務を与えるとしよう。
おまえは、文明の滅び去った後の地球上に、この時代のすぐれた技術によって、さまざまなメッセージを残すのだ。
一万年か二万年後の、少しは進歩した人間たちに、かつて、非常に発達した文明があった事、愚かに発達しすぎて自滅してしまった世界があった事、そして、未来の人間たちに、思い上がって自滅してしまうことのないよう、メッセージを残すのだ。
このピラミッドも残しておくとしよう。
このピラミッドの一番上の、聖なる石でできたキャップストーンも、使い方次第で、人類を、天国へも地獄へもつれてゆく…
さて、最後に「N 」、おまえには、最も、重大な任務をさずける。
全ての生き物を、つがいで乗せた船で海へ出よ。
わしが、この地球の文明を滅ぼし尽くした後、最初に上陸した場所に、全ての生き物を放すのだ。そこから先は、おまえにできる事は無い。持って出た五穀を蒔いて、自分自身をフィード(食わせていく)せよ。
死すべきものは死に、生き残るべきものは、生き残るであろう。
残りの者たちよ、残念ながら、お前たちには次の時代の居場所は、無い。
この後にやってくる時と物のカオスのなかで、おまえたちの命は見失われてしまうだろう。
わしの知る限り、他の者の過酷な試練を思えば、それは、ラッキーなことだと言えるじゃろう。ミンタカへ戻ってしばしの休息をとるがよい。
さあ、それでは、みなのもの、もう行くがよい。
さらばじゃ。幸運を祈る。
その 8
「姫…。」
「……。」
「姫よ…。」
「まぁ、おじいさま!」
「ほんとうの事を話す時がきたようだ…。
わしは、おまえのおじいちゃんではない。
ひいおじいちゃんのそのまた、ひいひいおじいちゃんのそのまた…ひいひいひいひい…ゴホッ!ゴホゴホッ!
と、とにかく人間が神と呼ぶ存在なのじゃ。」
「…。」
「おまえも、既に、この後におこる事のあらましは、知っておるな?」
「…。」
「わしは、神として、おまえだけを、特別あつかいするわけにはいかんのじゃ…」
「……。」
「おまえに、さよならを、言わねばならぬ。
思えば不憫な一生であったな…。わしを許してくれ。」
「おじい…さま!」
「ん、なんじゃな?」
「最後に一つだけ、お願いがあります。」
「む、言うてみなさい。」
「今度、生まれかわって来る時も、あの人と結ばれますように!」
「おお、姫よ、何ということを…」
神は、悲しそうに首を振った。
「それは、わしにも、できるかどうかわからん、神と言えど全知全能では無いのだ。
たとえ、同時代に生まれ変わって来るとしても、おまえたちは、それまでに何千回と、生まれ変わらねばならぬかもしれぬ。」
「何千回、何万回も生まれ変われば…待ち続ければ、また会えるのですね?」
「おお、そうさ、いつか会えるとも。
二人がそう信じていればな。
さあ、もう行きなさい。残された時間はもう、わずかじゃ。」
姫が去って行くと、老人は、大きなため息を一つついて、神、本来のお姿に戻られた。
目の下には青く光る星が…右手にも、左手にも、その向こうにも大小様々な十二の球体が浮かんでいたが、そのブルーの星は、どの星よりも美しかった。(実を言うと、そのうちの、いくつかは、生き物の滅び去った後の地球の姿…神の失敗作だった。)
より良い世界を造る為に、わしは、この小さな生き物たちの文明を、またも滅ぼさなければならない。
この次の人類が、この地球上で、より良く暮らしてゆけるようになるのか、それとも、またもや、愚かに争い、お互い憎しみ合って殺しあい、結局、自滅してしまう事になるのか…また、二万年ほど、様子を見る事にしよう…。
しかし、まあ、人間とは、なんと愚かな生き物なのだろう。
なんと、愚かしくも愛しき生き物なのだろう。
この者たちの、愛するものを憶う善なる魂は、変わらず次の世にも残すことにしよう…。
第三の目から、思わず落とされた、神様の宝石のような涙が、スローモーションとなって、遠い遠い空間を落ちてゆく永い永い一瞬に、結晶となり、人間の尺度では、とてつもなく大きな、その涙の結晶は、巨大な一枚岩となって地球に突き刺さった。
地球はその衝撃にさらされ、大地震、巨大な津波、火山の噴火、暴風雨などが、四十日と四十夜の間、荒れ狂った。
すべての文明は、あとかたもなく消え失せ、人類は、大洪水によってほぼ壊滅した。
海が鎮まり、潮がひき始めた頃、新しく出現した島に、一艘の箱船が漂着しようとしていた。
陸地を確かめるために、舳先から放たれたハトは、大空に吸い込まれたきり戻ってこなかった…。
さて、語り手であるわしも、この永い話を、そろそろ終わりにして、最後のひと働きに出かけなければならん。
なに?何処へゆくのかって?決まっておるじゃろう?
人類の、八回目の文明の、予測される最後の危機の時代へじゃ。
人間が、またもや自滅してしまいそうな、最後のシーンに間に合うとよいのじゃがな…。
何しに行くかって?
そうさな…。誰かの体を借りて、平和をうったえる小説でも書くかの…。
夜明けの前が一番暗い。と言うじゃろ?
より多くの人が、平和を願えば、かなわぬはずはないのだ…。
世界中の大多数の、名も無き人々が味方じゃ。
エピローグ
真っ暗な画面。
赤ん坊の泣き声。
画面が次第に明るくなると、現代の、と、ある病院の一室。
赤ん坊の視点。
若いお母さんとお父さんが、ベッドの両サイドから、こちらを、覗き込んでいる。
二人の顔が近付いてくる。
見慣れた顔。
幸せそうな姫と王子。
赤ん坊を抱いて去って行くとき、赤ん坊の額に第三の目が現れ、ウインクする。
< 完 >
追記
前世を体験した人によると、魂は、集団で移動している形跡がある、という。 前世で、親子だった魂が、今世で、夫婦だったりもするらしい。神のみぞ知る…いや、神すら知らなかったことなのかも知れない。
サム、蓉子&ファミリー(メイ、ジュン、ジュノ)に捧ぐ。
サム、アイディアを、ありがとう!




