勇者はやられる8
「先ずは私から」
そう言ってレオは俺の目をジッと見た。
「名前はレオハルト・オズワー22歳だ。呼ぶ時はレオで良いが、『兄』呼びも大歓迎だ。一応公爵家の長男で、家族は両親と姉と弟と妹がいる。それと今日から弟がもう一人増えた。宜しくな」
そう言って手を差し伸べて来る。
「こちらこそ宜しく兄さん」
一瞬レオが目を丸くしたが、直ぐに取り繕い握手する。
「では、次は私だな。名はセイジェル・リカバー20歳。侯爵家の次男だ。呼ぶ時はセイで良い」
ぶっきらぼうにセイはそれだけ言うと酒の入ったカップを傾けた。
「では、最後にこの私だな」
フフフ……と意味不明な自信ある態度で王子は自己紹介を始める。
「私の名前はアスベル・ローナル。このローナル国の第三王子だ」
平民の俺に対して『どうだ凄いだろう』と威張る所が既に凄い。
『こいつ本当に大丈夫か?』とレオを見やれば
「気にしなくて良い」
と即決である。
「もしかして、俺の考えている事が解る?とか」
俗に言うテレパスとかか?
そう思いレオに尋ねる。
「シーの考えている事は全部顔に出ているから分かりやすいよ」
そう言われてしまった。
「さいでっかー」
そう言って誤魔化したけど、そんなに俺って顔に出ている?
これからは気を付けよう。
そう心に止めておく。
「シーが未成年なら酒を勧める訳にはいかないな」
レオはそう言うと鞄をあさり果物水の入った瓶を取り出す。
「果物水を飲むのはシーだけだから、このまま飲んで良いぞ」
そう言い瓶の蓋を取って渡してくれる。
「ありがとうございます」
一応丁寧に言ってみた。
その後俺は豪華なつまみを摘まみながら空気と化すのでは?と思う程存在感を消して三人の会話を聞いていた。
見ると既に結構な量を飲んでいるらしく。
ワインの小さな樽が空になっている。
「おい。セイどう言う事なんだ。教皇殿の話では我々の他に見えたのは女だったと言っていたよな」
いや、俺男だし。
「殿下すみません。神託は視る者の解釈によって色々と違うのです。もしかするとシーが女装している場面を見た可能性もあります」
俺女装するのかよ。
マジかー。
「それに、神託で見た場面で一番多いのは魔王と対峙しているのはシーだけのようですし……」
なんで俺だけ?
「それはおかしいだろう?我々勇者パーティーの絶対的スキルに『瀕死で教会で復活』と言うのがある。我々には自然死以外で死ぬ事はないのだ」
そうなのか?
そんなスキルが……。
「もしかしたらシー以外の我々が皆瀕死で教会送りになっていたのでは?」
まさか!お前ら皆弱いのかよ。
「つまり、足手まといのシーを庇って我々が全員瀕死状態に?」
レオなら兎も角俺を庇うとか、お前(王子)とセイはあり得ないだろう。
「これは由々しき事態ですね。魔王と対峙するまでにシーを鍛えねばなりませんから」
セイはそう言うとインテリ眼鏡をクイッと上げる。
「そうだ。シーのお守りは兄になったレオの役目だからな。心して鍛えるのだぞ」
ビシッと王子がレオに指を指して豪語した。
「了承致しました」
レオは至って丁寧にそう言う。
って言うか、この三人の中でレオって損な役回りだな~と思う。
だってさ、王子よりは身分は低いが、セイよりは高い。
つまり中間管理職ってやつだ。
上からと下からと大変だな~と同情してしまった。
そんな三人の会話を聞きながらおれは一人しらふで過ごした。
そろそろ眠いっス。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。