勇者はやられる7
母のものらしいネックレスを着けると俺は自分の荷造りを始めた。
ーーーと言っても何かある訳ではない。
着替えが2~3枚程度ある位だ。
レオから提供されたカバンの半分も入らずに荷造りは終わった。
ものの5分だ。
何時もは姉達三人と一緒の相部屋なのに、今は誰もいない。
何故なら、王都から来た近衛兵から好物件を探すべく狩りに赴いているからだ。
狩られる男が果たしているかどうかは解らない。
しかし、隣の村まで歩いて半日かかるここでは若い男を選べる訳もなく、姉達にしたらこれ程の男が集まる事はまたとない好機なのだ。
それに、言っては悪いが俺以外の兄弟は見目も良い。
いわば俺は醜いアヒルの子を地でいっていたのだ。
まさか本当に俺だけ家族とは血がつながっていないなんて夢にも思わなかったが。
「ふぅーっ」と溜め息を吐いた後、誰もいない部屋へお辞儀をして長年暮らした部屋を後にした。
家の外では母を筆頭に姉達が近衛兵へ酒を振る舞っていた。
特に長女のユリアの所へは若い近衛兵が数人群がっている。
ユリアは姉妹の中でも一番の器量良しなのだ。
これで縁談でも決まればそれを皮切りに他の兄妹達にも良い縁談をと立ち回れるのだろう。
そう思う。
キャンプファイアーさながらのそこを素通りして野営を組んでいるテントへと足を向けた。
そこに一際立派なテントがあり、勇者様一行の物だと一目で分かった。
何せ勇者パーティーの中にはこの国の王子もいるのだから。
俺は少ない荷物の入った袋を担ぎ直すとそのテント目指して足を進めた。
入り口には見張りの兵もおらず、すんなりと入る事が出来た。
「失礼します」
一応声をかけてからテントに入ると勇者パーティーの三人が何故か滅茶苦茶酒を飲んでいた。
「おー。来たか」
レオがそう言うと自身の隣の床を叩く。
「ここに座れ」
俺はレオの言う通り隣へと座る。
「これからは兄弟になるんだから、これからは遠慮なく俺を頼ってくれ」
やはり勇者パーティーの中で一番好感が持てるだけの事はある。
「はい。これから宜しくお願いします」
そう言って深々と頭を下げた。
何せレオは書類上俺の義兄になるのだから。
そんな兄弟の温まる空間を引き裂くように王子の声が降り注ぐ。
「お前の兄弟達は皆小綺麗な顔立ちなのに、お前だけ何故普通顔なんだ?」
さらりと失礼な事を言い放つ王子にレオだけが頭を抱える。
「さぁ、どうなんでしょう?俺にも分かりかねますね」
答えは簡単。
俺だけ別の血だからだ。
そんな事を正直にこの王子に教えてやる義理さえない。
もしこれがレオなら別だが、この無礼王子だからこちらもそれで良い。
そう思っているとセイが酒の入ったコップを手渡しして来る。
「すんません。俺未成年なんで」
そう言って手でコップを辞退する。
「何?未成年?」
王子が思いっきり反応して来る。
「はい。今年16になりました」
そう言うと
「へ~。お前私より2歳も年下か」
と驚いてみせる。
って言うか、王子も今年成人したばかりじゃないか。
この国は18で成人とみなされる。
つまりギリギリ成人と言う事になる。
「レオやセイも成人なんでしょう?」
念のためにそう尋ねるとレオが持っていたコップを置いて俺の方を見た。
「そう言えばそういった紹介がまだだったな」
そこで俺は初めてこいつらの正体を知る。
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