勇者はやられる6
夕食が終わると父から部屋へ呼ばれた。
父は酒に強く酔っ払った所を見た事がない。
だからさっきのは酔った振りをしていたのだ。
部屋に入ると硬いベッドへ腰掛けた父が待っていた。
「シーリウス。先ずは座れ」
そう言われ部屋に備え付けの机へ向かい古びた椅子を引っ張り出し座る。
何処となく緊張する空気に、これが父との最後の夜になるのか……と思うと何とも不思議な感じになる。
「こんな形で我々家族からシーが旅立つとは思ってもいなかった。しかし、本当なら先月のお前の誕生日に伝えるべき事をこれから話したいと思う」
あらたまった言い回しに二人の間に緊張が走る。
16の誕生日に話すような事とは何ぞや?
と言うか、完全に伝え忘れていたのでは?
そう思い父の次の言葉を待った。
「お前は私達の本当の子供ではない」
その言葉に俺の頭は考える事を半分放棄してしまった。
父は呆然と父を見る俺にシルバー色のネックレスを差し出す。
「これはお前の母から託された物だ」
そっと手渡されたそれは、どう見ても女性物のようだ。
細身のシルバーのチェーンに繊細なペンダントトップ。
唐草模様に透かしのような外枠の中に見た事もないようなコインが入っていた。
「人形を取る種族についてはどれだけ知っている?」
あまりにも脈絡のない会話に一瞬戸惑う。
「人族、魔族、エルフ、ドワーフ、獣人でしょうか」
物の本に書かれている差し障りのない内容を述べる。
「獣人についてはどれだけ知っている?」
父の意図が分からず答えに詰まる。
沈黙する俺に父は重い口を開いた。
「獣人でも希少種になるらしいが、人間とそう変わりはない種族がいる……龍族だ」
父は何を言いたいのか、俺は父の次の言葉を待った。
「龍族は16から18の間に第二期の脱皮をするらしい」
脱皮ってあの蛇が皮を一枚剥いで大きくなるってやつだろうか?
一瞬自分のそれで考えてしまいブルリと震えが来た。
キモい。
「龍族は第二期の脱皮で成人になるそうだ。それまでの容姿も時によっては性別も変わるらしい」
今さらりと恐ろしい事を言ったような気がする。
「満月の夜は特にその影響が出て気が乱れるとか……これから旅立つお前にそれだけは言っておかなければならないと思ってな」
そして父は俺の頭を軽く撫でると
「お前とはこれでお別れだ。薄情に見えたかもしれないが、これでもお前の事は本当の子供のようにさえ思える時があった。多分次に会う時は私達家族はお前の事を解らないだろう。丁度旅に出るのだ、お前の母を探してみろ。龍族ならきっと親子だと解るはずだ。話は以上だ。達者でな」
父はそう言うと枕元に置いてある酒を手にして俺に部屋から出るよう手を振る。
俺は何も言えず深々と一礼してから部屋を出た。
そして、今の俺が思った事は過去も未来も血のつながらない家族を持つのだと言う事だった。
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