勇者はやられる5
その後、母と姉達が皆に料理を振る舞った。
久し振りの母の味に感慨深いものがある。
それも母の料理は幼い日以来食べていない。
と、言うのも母は田畑の農作業で朝から晩まで家を開けている。
因みに俺が一番末っ子なので本当に母と一緒に家に居る事がなかった。
一番上の姉に料理を習い始めたのは何時の頃だったか……既に覚えてもいない。
一年位は一緒に調理したが、その後は姉も午前は田畑の仕事を手伝い、午後から他の兄弟達の面倒を観ているのが日課である。
だから、あえて言おう。
『俺の料理より不味い』と。
そして、ここも重要。
『基本的に今は俺が調理全般をやっている』
と言う所である。
そして、今日悟った。
良く言って、この家の女子は味付けが斬新なのだと。
悪く言うと味音痴である。
ほら、あのキラキラ王子様の顔を見よ。
口にスプーンを入れたまま固まっているぞ。
そんな王子様に母が
「私達の集落の郷土料理は味付けが独特なのですが、お口に合いますでしょうか?」
なんて聞いている。
郷土料理来たー!!
斬新過ぎる味付けを単なる郷土料理で片付けてしまう所が凄い。
『あくまでもこれは郷土料理。
自分達の腕が悪い訳じゃないのよ』
ってダイレクトに言っている。
そんな母の発言に王子様がポカンとしている。
その脇でセイが猪肉の香草焼きを食べながら
「こちらのお肉はハーブが効いていて美味しいですよ」
と進めている。
『あっ。それ昨夜から俺が味付けをしておいたやつだ』
そう思い肉を見ると既に半分以上が無くなっていた。
その殆どを父が食している。
父は基本的に夕食は酒と肉しか食わない。
半分酔った父にセイが交渉し始めた。
「実は我々は王命で此方に来ております」
そう先触れを話す。
「先程親書を承りました。ユリアからの話も聞いています」
そして父は俺の方を見た。
「しかし、我々の村は年端もいかない子供でも大事な労力なのです。それに、聞けば魔王の討伐と言う。何年かかるかもしれないし、もしかしたら生きて帰ってくるかも怪しい。そんな所へ私の大事な子供をやる分けにはいかない」
酒に酔った父の涙ぐましい演技にレオが「分かりますお父上殿」と同意をしている。
そんな父の隣で母が「村を維持する為にもお金を稼ぐのが村長としての勤め。それを支えるのが子供の勤め」と大仰に嘯く。
つまり、あれだ。
金を寄越せと言っているのだ。
要は金次第。
一瞬王子が難色を示す。
すると、そんな王子の隣からセイが口を挟む。
「これはあくまでも名誉な事です。それで金銭を要求するような者は今までいませんでした」
そりゃあそうだろう。
普通なら魔王討伐成功で褒美としてお金や地位が発生するのだ。
倒してもいない内からそんな物がついてまわる訳がない。
それに見た所皆良いところのお貴族様のようだし。(一名王族)
もしあるとしたら支度金位だろうし、それだって父が納得するかどうか。
セイの後ろからレオが話に入る。
「王様より支度金として金貨100枚を預かって来ています」
その言葉に父がピクリと反応し、母が難色を示す。
「これ以上のお金については提示出来ません。これは私個人からの提案なのですが、もしシーを我が家の養子として差し出してくれるのであれば、我が家からその支度金として金貨1000枚をお出しします」
レオの言葉にセイが眉間にシワを寄せる。
「養子の支度金にそれは多いだろう。せめて500位が妥当なんじゃないか?」
既に金額が自分には想像出来ない位になっている。
金貨1100枚と言ったらそこそこの家が建ってしまう位だ、それもこの家より立派な物が。
そう、貴族様が住めるようや……つまり豪邸だ。
セイのその言葉にレオが「そうなのか?じゃあ……」と提示金額を変えようとした、その時母が動いた。
「その額でシーをお宅の養子に出しましょう」
即決である。
何かを言いかけた父に母の一睨みで口を紡ぐ。
更に用意が良い事に養子縁組みの書類も持参しており、金貨をテーブルの上に置いたレオと、母のイケイケゴーゴーのプレッシャーにより、父はその書類にサインをした。
そして、そんな時だからこそ思った。
『俺、売られたな』
と。
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