勇者はやられる3
「シーはそこにいる……」
ユリアはそう言うと俺の方を指差して来た。
とうとう俺の出番だな。
そう思い胸を張る。
全員の視線が俺に集中したと思った矢先、何故か皆有らぬ方を探し出し
「何処だ?」
と問い掛けている。
流石にカチンと来たね。
「俺がシーだよ」
あの騎士風の男を掴み俺の方を向かせる。
何故こいつかって?
そう思うだろう?
だってさ、あの美人神官を掴むとか精神的に無理だし、あの如何にも王子だぞっていう奴にそんな事をしたら、虫けらのような扱いを受けそうだったからだ。
だからこの選択は仕方ないだろう?
けっして俺が臆病な訳ではない。
そんな事を考えていると、あの王子風の男が絶叫するように叫ぶ。
「嘘だろう。普通四人パーティーといったら一人は女子だろう」
何故か他の二人も頷く。
更に
「可笑しい……何かの手違いだ」
神官風の男はそう言うと頭を抱えた。
「もしかして、セイの美貌を女と間違えて神託されたのでは?」
俺の直ぐ脇で神官の方を見ながらそんな事を言う男に『神官のあの美貌なら女でも行けるな』と思ったのはいうに硬い。
「しかし、神託で一人は女と言うのは内々の話だった。もしかしたら何かの勘違いかもしれない」
神官風の男……セイだったか、がそう言う。
多分こいつは神託の内容を細かく聞いているのだろう。
このパーティーの面子からしてブレーンになるのかと思うと同情すらしてしまう。
まぁ、かく言うセイ自身も問題有りだとは思うけど。
そんな事を考えている内に騎士風の男が俺の右手を確認して深い溜め息を吐いた。
「間違いない。紋様がはっきりとある」
すると他の二人も溜め息を吐く。
はっきり言ってさっきから溜め息吐きたいのはこっちの方だからな。
大体見るからに歓迎されていない俺にどうしろと言うんだ。
こんな状態で魔王討伐なんて有り得ないだろう。
既にパーティー壊滅状態じゃね~?
「取り敢えず、決まった事は仕方がない。今日はここの村に泊めてもらい明日この四人で王城へ戻ろう」
流石ブレーン切り替えが早い。
それに反してあの王子
「嘘だろう。私の萌え萌え聖女が~!!」
と意味不明な雄叫びを上げている。
思わず冷めた目で見てしまったよ。
そんな俺にあの騎士風の男が
「気にしないでくれ、何時もの発作だから」
と素っ気なく説明してくれる。
王子、見た目はイケメンなのに頭の中が残念なんだな。
そう理解した。
そんな王子を無視して自己紹介が始まる。
「私は魔剣士のレオだ。宜しく」
そう言って手を差し出す。
「初めまして、俺はシーリウス。シーと呼んでくれ」
そう言って俺はレオと握手する。
何となくだがレオとは仲良くなれる気がする。
「私は神兵のセイです。宜しくお願いします」
セイはそう言うと氷のような綺麗な顔のまま、まるで義務のように手を差し出す。
明らかに形式的なものだ。
思わず顔がひきつる。
「宜しくセイ。シーだ」
勿論錯乱状態の王子からの自己紹介はなかった。
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