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勇者はやられる23

俺は祭壇の泉の中央まで来ると一応祈りの体制をとる。


まだ日の出前で辺りは薄暗い。

それなのに、サワサワと波間が動く気配を感じた。

先程まで冷たかった水の温度が感じられない。

そっと目を開ければ光の世界に立っていた。


「これはこれは珍しいの~」

頭に直接響く声に目を大きく開く。

楽しそうな女性の声だ。

「今はまだかわたれ時の少し前、我の力がまだおよぶ時」

声はそう言うと更に俺にまとわりつく光を巻く。

「何を聞きたい。我に何を望む?特別に応えてやろう」

光に触れた所から何かが溢れそうで苦しい。

気のせいか妙に馴れ馴れしい声。

しかし、ここは神殿のそれも洗礼を受ける泉、声をかけてくるのは神様か、それに準じる者だろう。

それに、折角の言葉だ聞かない手はない。

「俺の親に会いたい。何処に行けば会える?」

それは養い親だった人に言われた言葉。

いつか会えると言うが、俺はその、いつかに永遠に縛られたくはない。

「父は封印されておるな、詳細は母に聞け。母は魔族の都におる。訪ねるが良かろう」

魔族の都?

「しかし、親の居場所とは驚いた。そなたなら(つがい)を知りたいと言うと思うたのに、つまらんな」

声は何処か楽しく無さげに呟く。

「俺はまだ16だ。結婚なんてまだ早いだろう」

何言ってんだか。

「龍は伴侶にこだわるから普通聞くと思うだろう。本当につまらぬな、まだ脱皮をしていないからかの~」

そんな事を言ってくる。

「脱皮……」

一瞬嫌な想像をしてしまった。

「なんじゃ。お主、自身の事もよう知らなんだか」

声は心底不思議な者を見るように言う。

「どうしたもんじゃろか、教えて良かろうか」

そうして思案している。

「ふむ。番もさることながら、お主の役所(やくどころ)が面白い。我を寄り付かせても大丈夫そうなその器も気に入った」

声は何やら不穏な事を言って来る。

これってヤバくねぇ?

「良い退屈しのぎじゃ。それ加護をやろう」

ぼぅっと光が体の中へと入って来る。

クルクルと体の中を何かが走り抜けたと思ったら、光は再び俺の周りを渦巻く。

「そなたに(しるし)を付けた。たまにちょくちょく覗かせてもらうぞぇ。楽しみだの~。それと我の加護を授けた。嬉しかろう?」

何が嬉しいのか良く分からないが、さっき『標』とか『覗く』って単語が出なかったか?

どこに喜ぶ要因があった?

「おぉ残念。時間じゃ、またな、我の加護を持つ者よ」

俺の周りにあった光はさっと消え、代わりに祭壇の向こうから微かに明るくなった外が見える。

どうやら日の出のようだ。

本来の目的の為に俺は再び祈りの姿勢をとる。

先程とは違い、今度は祭壇の方から波が押し寄せて来る。

目の前に現れた光の塊。

「洗礼を受けし者よ、名を名乗れ」

光から男の声が聞こえた。

「シーリウス・オズワーと申します」

顔を伏してそう言う。

「そなたに洗礼と加護を」

光の中の男はそう言うと俺の中へと入って来た。

まるで流れ作業かのような手際の良さだ。

先程の光と同じように俺の体の中を駆け巡る。

気のせいかさっきより長い時間俺の中を巡った光は俺の中から出た途端に俺の前に姿を表した。

「お前、玉兎(ぎょくと)の加護を貰ったのか?」

玉兎って月の神様?

もしかしてさっきの?

って事は、今俺が話をしているこの方は太陽神 金烏(きんう)様?

「そう言えばさっきそんな事を言われたような気がするけど、誰かまでは……」

俺の言葉に明らかに溜め息を付く神様。

「あやつは気紛(きまぐ)れな所があるからな。まぁ害意はないから気にするな」

それで良いんかい?

「さて、本来の洗礼だが。お主は人ではなく龍なのだな。まだ脱皮をしておらぬから男の姿か……」

どこか残念なような響きがある。

「龍って……その……脱皮をするって聞いたのですが、俺どうなるんですか?」

「どうもならんよ。龍は月の魔力と相性が良いからな、特に満月の夜に脱皮をするらしいのだが、何もサナギになる訳でもなんでもない。体の回りの魔力層が脱皮するのだ。今の姿はまぁ仮の姿だと思って貰って良い。詳しくはその内玉兎が教えるだろう」

如何にも疲れたという風に溜め息をつかれた。

「加護は授けた。その紋様をフルに使えるだろう」

「ああ、瀕死で復活の……勇者なのにそれってどうよと思っていたあれね」

思わずため口になってしまっている。

「何か勘違いがあるようだが、確かに瀕死になった時には近くの安全な所へ移動して回復する機能も含まれている。しかし、回復は各々に制限回数がある。だがな、その紋様の本来の意味は違うぞ」

神様は思いっきり訂正して来る。

「意味が違うって?」

「まぁ、お前も脱皮すれば使えるだけの魔力が出来るだろうが、その紋様は古代の遺跡を行き来する為の転移の紋様だぞ」

「遺跡?それってよくダンジョンの奥とかにあるっていうあれ?」

冒険者が迷宮のダンジョンの奥に古代の都があったとかって言っていたあれ?

「まぁ、転移の魔方陣を描けば何処にでも設置可能移動可能だがな」


それってさ~、全然勇者とか関係ないよね。



お読み頂きありがとうございます。

また読んで頂けたら幸いです。

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