勇者はやられる19
「俺はどうやら醜いアヒルの子だったらしい」
セイは一瞬何の事だ?と言う顔になる。
「俺だけ本当の家族ではなかったそうなんだ。旅立つ前の晩に父だと思っていた人からそう言われた」
まぁ、本当の事だからな。
「俺は赤子の時にあの家族の元に行った。勿論俺の両親の事は名前も知らないらしい」
そこまで言うとセイがため息を吐く。
「どうやら本当の事のようだな」
そして、セイは困ったように俺の頭を撫でる。
「悪かったな、手荒な真似をして」
そう言ってそっと痛む俺の手首に手を掲げた。
すると、さっきまで痛かった手首がすっと楽になる。
何故だ?
あの馬鹿王子の腹痛の時はあんなに時間がかかっていたのに?
そう思いセイを見る。
「殿下には言うなよ」
そう言って目の前に手を掲げられたのを最後に、その晩の記憶はそこで終わった。
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「出て来て良いよレオ」
セイの言葉に続き部屋の扉が開いた。
元々貴族が泊まるように造られた部屋で、主人夫婦の世話をする侍従や侍女が泊まる部屋と言うのがこの部屋の本来の目的なのだが、今回みたいに4人パーティー等が使う時もある。
「殿下の方は?」
セイはシーリウスをベッドの中に入れながらレオに問いかける。
「ああ、相変わらずだ。飲み屋の個室で美女を侍らせて酒盛りをしているよ。兵士を何人か店の外へ張り付けた」
レオはそう言葉を吐き捨てた。
「相変わらず最低だな」
セイは眉間にシワを寄せながら部屋に置かれた小さなテーブルの方へと歩く。
アスベル・ローナル。
彼は生まれこそ第三王子だが、王位継承で言えば順位は上だ。
それと言うのも母親が正妃で実家が公爵家だからだ。
他の王子達は皆側妃の子供で後ろ楯も正妃までは及ばない。
故に男版の「蝶よ花よと育てられました」が出来上がってしまったのだ。
何故こんなぼんくらが勇者足り得るのか?
疑問である。
「しかし、それで言うと昨夜は何があったのだろうな?村長姉妹がやろうとしていた事は殿下だって望まれる事だろうに」
セイはレオに椅子を引き、自身も隣の椅子に座る。
あの母親の事だ、家族総出で殿下を垂らし込む算段だっただろうに。
「それにはちょっと興味があるが、多分絶対に言わないだろう。何せ帰って来た時の怯えようは尋常ではなかったからな」
本当に何があったのか?
知りたい所だ。
「まぁ、私もその現場を見て見たかったよ。それはそうと、どうだ?何か判ったか?」
レオは手に持っていた袋をテーブルの上に置くと中身を取り出した。
中身は葡萄酒の小瓶と干し肉とチーズだ。
セイは無造作に小瓶を取るとコルクを口で抜く。
「生憎城から別邸までくまなく探させてはいるのだが」
レオはそう言うと苦虫を噛み潰したような顔になる。
勇者の神託があった直ぐ後から行方が分からない第二王子。
私達と貴族学校で同期だった人だ。
「セイ。もし君の言う事が本当なら、私達で探し出せるはずなんだ」
レオはそう言うと自身の紋様を擦る。
今回最後の勇者を探す為に我々が兵士と一緒に行ったのには訳がある。
「きっと見つかるさ」
セイの言葉にレオはそっと頷いた。
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