勇者はやられる16
闇の眷属は人とは異なり鋼のような強靭な身体を持つと言う。
それに扱う魔術一つでこちらが瀕死になる事もあるそうだ。
この世界は、固有レベルの他にも動作によるステータス上昇がある。
つまり、瀕死になるとあらゆるステータスがちょっとだけ上がるのだ。
生命危機に際しての防衛機能とでもいうのか。
故のアビリティ。
故の祝福。
って、そう考えると瀕死で蘇生ってズルいよな。
ただ瀕死になっただけで、自身の能力値が何もしなくても上昇するのだから。
治癒魔法があるから、この世界の人類は頑張れば100歳位は生きる。
つまり、100回は瀕死で蘇生ってヤツが出来るって事だろう。
まぁ、貧困な層が多い為に平均年齢は低いが、貴族だったら80~100は生きるらしい。
かと言ってその位瀕死になれるか?と問われれば、そんな馬鹿はしないと思うが……。
俺は思わず馬鹿王子を見てしまった。
いくら馬鹿でもそこまで命の博打は出来ないと信じたい。
そして、いくら何だってあえて80回も瀕死になるヤツはいないだろう。
やってみたら蘇生しないなんて事になってみろ、寿命はそこで尽きてしまうだろう?
もしそれをあえてやろうとしても、皆安全圏でやると思うんだ。
それで言うと俺は竜族らしいから人族よりは長生きだと思う。
『瀕死で蘇生』はいっぱい出来る。
……。
やらないけどな。
だって痛いだろう?
きっと。
そんな俺の思考をレオの声が遮る。
「このまま行くと夕方にはステルと言う大きな街に入る。と言っても宿屋が3軒ある程度の街だけどね」
宿屋がある時点で大分大きいと思う。
どうしよう。
俺完全にお上りさん決定だよな。
ここは心し挑まねば。
気合いを入れながら外を見ていれば馬車が止まる。
「20分程馬を休ませる。その間に食事にしよう」
レオはそう言うと馬車から降りた。
俺もそれに続く。
外では他の兵達が食料の配給を始めた所だ。
新兵らしい男が二人、大きな袋を持って来る。
「レオ様、勇者様一行の食料です」
そう言って手渡された食事二袋を俺とレオで一袋づつ持つ。
「ありがとう。君達も早く食事をするように」
レオはにこやかにそう言うと踵を返す。
他の兵達の食事を見るにパン2個と干し肉、それに小瓶といった所だった。
それに比べたらこの二人の袋はどうだろう?
中身が多いと思うんだよ。
そして、馬車へ戻った俺達はその疑問の答えを直ぐに貰う事になる。
「やはりこれが無ければな」
馬鹿王子はそう言うとワインとチーズ、香辛料の効いたハムにラクス。
それが大量に入っていた。
これで良いのか?
そう思っているとレオが干し肉を手渡して来る。
「俺達はこれで」
「ソウデスカ……」
あの大量の袋は王子様用の食事ですか。
そう思い遠い目をした。
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