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ぼくらの物語  作者: 文月ユタカ
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第1回

これは、ぼくらの物語。

ぼくとお父さんと、そして・・・・・・





ぼくが9歳の時、お母さんが病気で亡くなった。

病気といっても、ずっと長い間苦しんでいたわけではなくて、たまに頭が痛いと言っていたのが、ぼくが知っているお母さんの病気の様子。

その日の朝も頭痛に悩まされながら、お父さんを見送っていた。

「お父さん、今日は早く帰って来て。なんだかいつもより頭痛がひどいの」

「わかった。休めなくて悪いな」

「ううん、お父さんに会社を休んでもらうほどじゃないから。熱もないし、ただ頭が痛いだけ。今日は横になっとく」

「ああ。無理しないで、ゆっくり休んで」

「ありがとう」


ぼくもお母さんが用意してくれたパンとカップスープの朝食を済ませて、家を出た。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。今日の晩ご飯、ピザになっちゃうかも」

「ピザでいいよ」

「たまには、いっか?ふふふ」

お母さんは頭を押さえながら笑った。

ぼくも笑った。

学校に向かって歩きながら、お母さんの言葉どおりたまには晩ご飯がピザなのも楽しくていいな、なんて考えてた。

そして待ち合わせの場所で友だちと合流してからは、お母さんの頭痛もことも忘れてしまってた。

これまでも頭が痛いって言ってたし、いつも頭痛薬を飲んだら治ったって言ってたし。



けれど、3時間目の国語の時間に、おばあちゃんが学校に迎えに来た。

「お母さんが病院に運ばれたから、一緒に行きましょう」

って。

心臓がどきんとした。

それからずっとどきどきが止まらなかった。

おばあちゃんとタクシーで病院に向かった。

お父さんも着いていた。

お父さんはぼくを見るなり、顔をくしゃくしゃにしてぼくを抱きしめた。

「健人・・・・・・」

「?」

お父さん、どうして泣いているの。

お母さんはそんなにひどい病気なの。

「うっうううっ・・・・・・」

「まさか、健二さん、桃子は!」

おばあちゃんの声が病院の廊下に響いた。

「まにっあい、せんでし・・・・・・」

お父さんが絞り出すように言った。

間に合いませんでした。

くもまっかしゅっけつ、というのが病名だった。

それからあとのことは、あまり覚えていなくて思い出せなかった。




お葬式も済んで、ぼくたちは引っ越すことになった。

ぼくは友だちと離れるのはいやだったけど、お母さんの思い出のつまった家で暮らすのも寂しかった。

お父さんから、

「引っ越すことにしたよ」

と言われて、

「うん」

としか言えなかった。

お父さんも、引っ越しについてどう思うかぼくに聞かなかった。

きっともう決めてたんだろう。

そう言われてぼくが泣き出したのを見た叔母さんが、

お母さんのことを忘れるために引っ越すのではなくて、新しい場所でお母さんのことを思い出しながら暮らしていくのはどうかしらと言った。

新しい家のこともお母さんに教えてあげたらって。

ぼくはそれもいいなと思った。

その時は、新しい家でこんなにいろんなことが起こるなんて思ってなかったし、本当に新しい家では「お母さん」にしか言えないことばかりが起こっていったんだ。





お読みいただきありがとうございます。

次回もおつきあいいただければ嬉しいです。

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