第5話
「興味があったんです、大勢の生徒でもそんな風に見れる先生から、唯一見られるようになったらどんな感じなのかなって。そうして色々考えてるうちに、俺の中で先生は凄く特別になっちゃった。」
たとえば、これが進藤の一過性の想いだったとしても、俺は2人でいた時間を忘れないだろうし、進藤にいっときでもそんな風に思われた自分を誇りに思うだろう。
一過性とかいうとまた怒られるから、黙って進藤の頭を撫でた。
進藤はちょっと驚いたように顔を上げたけど、結局黙って撫でられてくれた。
この歳になったら、ずっと、とか永遠って言うのは遠い言葉だとおもう。
けど、それを否定だけしてどうなるんだ。進藤がずっと好きだと言ってくれるならそれでいい。今この瞬間を俺が覚えている限り、それは確かに永遠になるのだから。
「先生、ちゃんとわかってくれた?」
聞かれたので、うん、と答えた。何に対してなのかは聞かれなかったので良しとしよう。
飯を食い終わって、一緒に片付けをして、進藤は帰って行った。送ろうか、と言ったらすぐ近くだし大丈夫、と断られた。近くに住んでいるのはこの日初めて知った。
ひとつ、ひとつと知るたびに、後に戻れないような気分が襲ってくる。これが恋なのか、恋ってこんなに絶望的な気分だったっけ?
進藤は若さという特性の純粋さで俺をグラグラにさせる。形が変わっても、好きな気持ちは変わらない、なんて言われたら、うっかり信じてしまいそうになるじゃないか。
自制しろ、俺。
まさかこんなことで悩むとは思わなかった。
思ったより振り回されてる。
明日は午前中学校に行こう、と決心した。壊れかけの俺のアイデンティティは、学校という場所で崩壊を防げるはずだ。だから用もないけど学校に行こう。