第4話
今日2回も進藤を可愛いと思ってしまった。その事実に何故かビビる。なんだかんだいって俺ってばしっかりその気になっているんじゃない?
まあ最初から自分でも驚くくらいアッサリ受け入れてはいるんだけどさ……。
鍋からシチューを皿に移して、テーブルに運び、2人揃って食卓について、頂きますをしてからシチューを一口含む。
うん、美味い。俺天才かもなあ。
「先生、美味しいねこれ。あとでつくりかた教えてください。」
「牛乳と生クリーム入れると良いんだよね。残ったら煮詰めて飯の上にかけてドリア風にするとまた美味い。こんなおっさん料理でよかったらいつでも教えるよ。」
なんともほのぼのとした空気が流れる。平和だ。
「先生はさ、永遠ってあると思う?」
シチューを食べながら、進藤がポツリと呟く。
顔を上げると、少し困った顔つきの進藤と目があった。
「うちの両親、離婚したっていったでしょう?」
うん、と頷きながら、進藤のコップにミント入りの水を注いでやる。水にミントとレモン汁と氷入れるだけでお洒落な飲み物に変わるから不思議だよな。こういう小手先の技はよく知っている俺。ちなみに俺はビール。
「ありがとう。俺の両親ね、凄い大恋愛結婚だったんだって。周囲の反対を押し切ってまで結婚したのに、結局別れる前は毎日喧嘩して、最後には口もきかなくなっちゃって。」
進藤はとつとつと話しながらシチューも黙々と食い続け、俺は綺麗な食べ方だなあと進藤の口元を見ていた。
「そういう話聞いたら、永遠に誰かを好きだって思う気持ちって存在しないのかな、と思って……それって、俺が先生のこと好きだって言っても、一過性のものって思われてしまうんじゃないか、って。今一番それが怖い。」
突然熱烈な告白になって、俺はちょっとビールでむせた。
聞き流していればいい話だと思っていたので、なんの準備もしていなかった。
「永遠かあ……。」
自分用のコップを持ってきて、水で喉を潤すと、特に深く考えることもなく呟いた。
「永遠に愛してる、とか、永遠に好き、とかは正直、へー、そうなんだすげーな、って位の感想しか浮かんでこないんだけど。」
俺がそういうと、進藤の食の進みがゆっくりになった。
「まず、永遠って俺が死ぬまでの間だとして、その間ずっと同じ気持ちで好きだ、って言われたなら信じないかな。」
進藤の持つスプーンが、皿に当たってカチッと硬質な音を立てる。俺はそれを無視して話し続ける。
「付き合っていくうちに、好きの形って変わっていくもんじゃないかな。例えばお前は俺を好きだと言ってくれるけど、学校で会ってた俺と、こうして今家でも会うようになった俺とじゃなにか変わったんじゃない?余計イケメンに見えるようになったとかさあ。」
くす、と小さく笑ってくれたので、俺も安心して続きを話すことにする。
「そうやって変わっていくものがあるから、好きの種類ってきっといくつもあって、ここは好きだけど今はもうここは好きじゃない、とか出てくると思うんだよね。でもそれでいいんじゃないかなって思ってるよ、俺は。そんで、別にお前が好きって言ってくれるのが一過性のものだったとしても、この時期、お前とこうして過ごした事は嘘にはならないしな?」
最後は安心させようと思って言ったのだが、進藤はちょっとムッとしたように俺を上目遣いで睨んできた。
「だから、一過性のものじゃない、って言いたかったんです。なんで好きになったのか、とか、先生の授業がどんなに楽しみだったのか知らないでしょう。こうして受け入れてもらえて、勿論前よりもっと好きになりました。形を変えても、俺はずっとせんせいが好きだよ………。」
睨まれたのでおとなしく黙ってビールを飲む。この際だから聞いてみよう。
「じゃあ教えてくれよ、なんで俺だったの。」
冷えたビールがうまい。一缶空いてしまったので冷蔵庫からもう一本取り出し、席に戻る。
「最初は面白い授業する先生だなあ、って思ってて……観察してたら、先生って生徒のこと凄い調べてるでしょう。相手に合わせた質問の仕方とかして。受け持ってるクラス全員にそんなことしてるんだ、って思ったのが第一歩でした。」
わあ、凄い観察されてる。
そんなにあからさまに態度を変えていた訳ではないので、進藤の観察眼には恐れ入った。
「あとは質問があると廊下で立ち止まってでも教えてくれたり。そんなところから始まって、見てたら、なんだか俺だけを見てくれないかなって思ってしまったんです。」
俺の顔が赤いのは決して照れているわけでなくビールのせいだと言うのをここに断言しておこう。
こんな誉め殺しされると思ってなかった。
眠い……全然イチャイチャしない関係ですみません。