第3話
だるだるですみません、微妙に進展してるようなしてないような。
最終的にはただそれだけだったのかもな、とボケーっと考える。
求められたから受け入れるほど単純じゃないぜとか言いながら結局デレデレだったみたいな…?いや、そんな自分は信じたくないから違うと思いたい。
椅子をギーコギーコさせながら思考はあっちこっちへと散らばっていく。コーヒーに口をつけて、まあいいか、と違うことを考えることにした。
まあその、例えばセックスするとなったらどうするんだとか。
相手は未成年だし、あと4年待ちなさいというのが正しい大人の図である、多分。きっと。
俺だったら4年待つ間に暴走して違う奴とやっちゃうかもしれん。進藤がそんな風に自暴自棄になってどこかの知らない男に抱かれてきたとか言ったら俺は罪悪感で死にそうにならないだろうか。
うーんこれもまた1つ考えておかなきゃならない課題である。
俺がこんなに余裕があるのは、きっと好かれている立場だからで。
逆だったらどうなんだろう。
ふと興味本位にそんなことを考えてみる。
俺が進藤に恋心を抱いていたとしたら。
俺が16歳で高校生で、進藤みたいな美形に惚れて。進藤はいまでも充分イケメンだが、あいつがあのまま大人になってそれが36歳で。
あー、なんか色々詰んだって思いそう。進藤はよく俺にいう気になったなあ……。
進藤は真面目で問題なんてない生徒だけど、俺が16歳の頃なんかいろいろやらかしてたもんね、性的にも奔放だったもんね。我慢なんてできないから、多分俺と進藤が逆の立場だったら襲うね。
うわあ、進藤ってすげー健気じゃないか、泣ける。
夏休みということもあって、進藤とは時間がある時に俺の家で会うことになっていた。俺はほぼ毎日午後からは暇だし、進藤はそれに合わせてうちに来ることになっていた。今日も来ることになっている。面倒だし携帯で連絡取ろうとした俺を制したのは進藤だった。
「万が一何かがあった時に、証拠が残ったらまずいと思うんです。」
キリッとそう言われて、俺はぼんやりそうかなあ?と返したんだが、今日考えてみてよくよくおっしゃってた意味がわかりました。進藤はすげえ俺のこと考えてくれてる。そんなわけで、都合が悪くなった時はポストに新聞を入れておくことになった。それならポスト見てすぐわかるから、とこれも進藤の提案。そこまでする必要あるかー?と俺が笑っていたら、進藤は真顔で
「受け入れてもらえただけで俺は天国にいるみたいなんです。これ以上はなに1つ迷惑になるようなことしたくない。」
と。
今思い返したら、本当に俺は愛されてるんだなあー……なんて。
家で1人進藤が来るのを待ってるのも暇なんで、今日はシチューを作っている。一緒にいるといってもヤるわけでもないし(!)だべったりするだけなら若い子になんか食わしてやりたいと思うおっさんごころである。煮込み系には自信があるぜ!
そして午後6時、約束の時間。
インターフォンがなり、へいへーいと外を覗くと、進藤がすごく緊張してドアの外に立っている。可愛いなあ。
「ほいっ、お疲れさん」
ドアを開けてやるとガッチガチに緊張してたのが嘘みたいに、俺の顔を見た途端にふわぁと花開くような笑みを見せられた。
おいおいおい。
そんな顔しちゃったら誰が見てもお前は俺に恋してるよ、携帯の履歴がうんたらなんていう問題じゃないよ。
ガッと腕を掴んで早く入れ、というとキョトンとされた。
もーう!
だがここで何か言ってもどうにもできないと思うしとりあえず後でどうにかするリストに入れとこうと思ったわけでした。
「なんかすげーいい匂いがしますね……。」
言われて気がついた、そうだそうだ、今日はこれがあった。
「時間あったからホワイトシチュー作ってた。ホワイトシチュー。好き?」
これで嫌いって言われたら泣くけどな。
「ちなみにこれお前のために作ったから食っていかないと俺が3日連続くらい食わなきゃならない羽目になる。」
「あははっ」
進藤が声を上げて笑ったので振り返ると、そこには年相応の顔をした高校生がいた。
大人っぽい雰囲気持ってるけど、まだまだガキだもんな………。
「でもあんまり食って家で飯食えなくて、ってなるとまたそれも問題だからお前調整しろよ自分で。」
言いながらシチューを温める。一呼吸置いて、背中に進藤の声が当たる。
「うち離婚してて、俺は母親と住んでるんですが、母はあんまり家にいないんです、仕事忙しくて。だから俺も自分で料理したりし始めたところだったんですよ。えっと、なにが言いたいかというと、だからこういうのって凄いタイムリーに有難いなあって。」
「お、マジでタイムリーじゃんか、俺の得意料理なら教えてやれるから一緒に作ろうぜ。」
「いいの?!」
初めて進藤から敬語が抜けた瞬間だった。
「いいよ?」
俺も軽いノリで返すと敬語を忘れたことに気づいたのか、カァーッと赤面し、ペコ、と頭を下げる。
なんなんだ、その可愛さは反則だろうと思う。